車はエンジンだけで出来てはいない(2) 【EVは他業種からの参入は易しい】は間違い

2018年11月28日 12:29

印刷

 参考記事では、【EVは他業種からの参入は易しい】とする前提で、これからの自動車業界の構造を議論しているが、【EVは他業種からの参入は易しい】とする「前提条件」が間違いだ。それは、【生産技術(造り方)】を知らないからだ。現在の自動車メーカーは、世界の全ての量産製造業を支配するほどのノウハウを開発した。現在も進歩し続けている。

【前回は】車はエンジンだけで出来てはいない(1) 『自動車メーカーは【生産技術】で成り立つ』?

 これまで自動車産業のピラミッドにおいて、「これからは受注の入り口になるグーグルなどが優越する」とする現在の理論からすると、「自動車完成品メーカーが受注の窓口だったから」とするほうが、これまで「自動車完成品メーカーがトップに君臨できたのは、エンジン開発能力があったから」とする理論より筋が通る。

 業種は違うが、エンジンを日産・いすゞなどから買っていた完成品メーカーでも、受注の窓口として「買い付ける優位さ」を持っていたのを目撃してきた。これから先、EV時代が来るのかも怪しくなってきたが、仮に到来して電池産業が現在のエンジンに替わって重要となっても、受注窓口が優位かもしれない。しかし、それも現在のディーラーの立場を見ると、逆転できるのかは不明だ。やはり、メーカーが優位なのかもしれない。

 IBMがパソコン時代で主導権を握れなかったのは、インテルなどの発展ではなく、それをうまく製品にした日本メーカーの生産技術の優位さがある。IBMのパソコンが出てきたとき、私は販売の現場に絡んでいたが、「部品の大きさ」で日本メーカーに適わなかった。現在は、韓国・中国の製品の「コスト」に、日本メーカーは追いついていけない。単に、コストも含めて何らかが優秀であるメーカーが生き残っているだけだ。

 現在、アマゾン、グーグルなどのサービス業が主導権を握れているのは、ネットの普及による新産業の発展の余地が生まれたからだ。ハードとして依然としてパソコン、スマホなどの製品の必要性は拡大しているが、その新産業の規模が、無限とも思えるほど拡大する余地があり、サービス業においては、ハード生産産業の規模を凌いでいるため錯覚するのだ。産業の規模が大きいと、主導権を握っていると錯覚するのであろう。

 このように、グーグル、アマゾンなどが、ネットサービス業から巨大化しているが、ネットの特性を生かし「自動車ディーラー」の手前で、ネットにより注文を受けられるようになった時、その入り口を押さえることが出来れば主導権を握れるかもしれない。それでも、自動車メーカー自身も独自のネット通販を立ち上げれば、主導権を渡すことはないだろう。ファッションのZOZOTOWNのような工夫は必要になるだろうが、可能性は否定できない。だが、自動車生産はファッションのようにはいかない。それはテスラの苦戦を見れば、メーカーが「生産技術」の進歩を止めなければ、主導権を手放すことはありえない。

 それは、自動車のネット販売が、「順序生産」「スウィング生産」など、「受注生産」にきわめて近い生産方式が必要だからだ。ZOZOTOWNの「採寸の工夫」程度では、とても追いつかない開発規模がある。「品質保証」を行い、現在のトヨタ、マツダなどよりもコスストを下げ、生産リードタイムを短縮し、「材料からの受注生産方式」を作り上げるのは、大きなノウハウを必要とする。

 テスラの苦戦がそれを端的に表しており、【EVは他業種からの参入は易しい】は間違いだ。

 次は、人間の営みの本質を考えてみよう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

続きは: 車はエンジンだけで出来てはいない(3)  「衣・食・住」は製造物が支える

関連キーワード

関連記事