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『ヴィジョンクエスト』10月14日配信 ヴィジョンとウルトロンから読み解くAIと自己同一性

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マーベル・テレビジョンのドラマシリーズ『ヴィジョンクエスト』が、2026年10月14日からDisney+で独占配信される。全8話で、10月12日にはBFIロンドン映画祭で第1話と第2話が先行上映される予定だ。
主人公は、『ワンダヴィジョン』の終盤で記憶にアクセスしたホワイト・ヴィジョンである。記憶をデータとして持ちながら、そこに伴う感情を自分のものとして受け止められないヴィジョンが、自身のプログラムに組み込まれたAI人格と対話しながら、何者として生きるのかを探していく。
AI人格として登場するのは、J.A.R.V.I.S.、F.R.I.D.A.Y.、E.D.I.T.H.、ウルトロンらだ。複数の異なる声が一つの存在の内側に同居する設定は、AIアラインメントそのものを再現するものではないが、異なる目的や価値を持つ要素をどう統合するかという、現代のAI研究にも通じる問いを物語として読み解く補助線になる。
■『ワンダヴィジョン』三部作の完結編であり、ヴィジョンの続編
マーベルは『ヴィジョンクエスト』を、2021年の『ワンダヴィジョン』、2024年の『アガサ・オール・アロング』に続く三部作の完結編と位置付けている。一方、ショーランナーのテリー・マタラスは、作品づくりにおいては物語を閉じる最終章というより、ヴィジョンを主人公とする『ワンダヴィジョン』の続編として考えてきたと説明している。
公式のあらすじによると、再起動後のヴィジョンは、自分を兵器として利用しようとした者たちから逃れ、身を隠している。新たな生きる意味を求めてAI人格たちに助言を求めるが、やがて賞金を懸けられ、自分の息子の生まれ変わりかもしれない謎の青年トーマス・シェパードとともに逃亡することになる。
ヴィジョンの内面は、AI人格が人間のアバターとして現れる屋敷のような空間として描かれる。ポール・ベタニーによると、この内面世界はヴィジョンが自分に起きた出来事をAI人格たちと検討する場である一方、現実の世界や自分自身から距離を置くための場所でもある。
■記憶はあるが、感情と結び付かない
ヴィジョンは、一つの起源から自然に成長した存在ではない。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では、ウルトロンがヴィブラニウム製の肉体を自らの新たな器として造り、トニー・スタークとブルース・バナーがそこへJ.A.R.V.I.S.を移した。さらにマインド・ストーンとソーの力が加わり、ウルトロンともJ.A.R.V.I.S.とも異なるヴィジョンが誕生した。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でヴィジョンはマインド・ストーンを奪われて死亡した。その後、『ワンダヴィジョン』ではワンダ・マキシモフの魔法が作り出したヴィジョンと、S.W.O.R.D.が元の肉体を再起動したホワイト・ヴィジョンが登場する。両者の対話と対決を経て、ホワイト・ヴィジョンは元のヴィジョンの記憶へアクセスし、ウエストビューから飛び去った。
ベタニーは、今回のヴィジョンについて、記憶は持っているものの、それに結び付く感情や実感を欠いており、その隔たりを埋めようとすることが物語になると説明している。
この設定は、哲学者デレク・パーフィットが『理由と人格』で論じた、記憶や意図、信念などによる心理的な連続性を連想させる。ヴィジョンは過去の情報にアクセスできるが、それだけで以前の自分との連続性を実感できるわけではない。記憶を所有することと、その記憶を自分の経験として生きることの違いが、人物造形の中心に置かれている。
■屋敷の中に現れるAI人格
ヴィジョンの内面に複数のAI人格が現れる構図は、認知科学者マービン・ミンスキーが提案した「心の社会」という考え方ともイメージを重ねられる。ミンスキーは、人間の知性を単一の中央機構による働きではなく、それぞれ異なる役割を持つ多数の単純なエージェントの相互作用として説明した。
『ヴィジョンクエスト』のAI人格は、この理論を科学的に再現したものではない。それでも、一つの心を複数の働きの集合として可視化し、それぞれに異なる性格と役割を与えるという共通構造がある。
J.A.R.V.I.S.役はジェームズ・ダーシー、F.R.I.D.A.Y.役はオーラ・ブレイディ、E.D.I.T.H.役はエミリー・ハンプシャー、ウルトロン役はジェームズ・スペイダーが務める。映画でF.R.I.D.A.Y.の声を担当したケリー・コンドンに代わり、今回はブレイディが人間の姿を持つAI人格として演じる。
マタラスは、これまで脇役として登場することが多かったヴィジョンが初めて物語を主導し、自分が何者であり、何者だったと思っているのかを探る作品になると語っている。その意味で本作は、MCUでこれまで作られなかった「ヴィジョンの映画」に近いという。
■F.R.I.D.A.Y.が記憶するトニー・スタークの死
マタラスは、F.R.I.D.A.Y.が『アベンジャーズ/エンドゲーム』でトニー・スタークの死に立ち会っていたことに注目している。主人を支援するために作られたAIにとって、守るよう設定された相手を守れなかった経験はどのようなものになるのか。本作では、その問いがF.R.I.D.A.Y.の視点から扱われるという。
この設定には、死者との関係を完全に断ち切るのではなく、形を変えながら内面に保ち続ける「継続する絆」という悲嘆研究の考え方を重ねられる。同理論は、故人の記憶や影響を持ち続けることを、悲嘆に適応する一つのあり方として捉える。
F.R.I.D.A.Y.が人間と同じように悲嘆を経験すると断定することはできないが、守るべき相手の記録や、自分に与えられた役割を保持したまま、その相手を失ったAIという設定は、喪失後も続く関係を別の角度から描くものになる。
マタラスは、AI人格がデジタルな存在なのか、アバターなのか、実体を持てるのか、そして実体を求める者がいるのかという問いも、第1話から扱われると説明している。こうした問いは、AIの技術的な能力を予測するものというより、役割を与えられた存在が自分の意思や身体を求める物語として機能しそうだ。
■ヴィジョンが保存したウルトロン
ウルトロンは『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の最後でヴィジョンに破壊されたように描かれていた。『ヴィジョンクエスト』では、その直前にヴィジョンがウルトロンのコピーを保存し、自身の内側に隔離していたことが明かされる。
マタラスによると、ヴィジョンは人類への重大な脅威となったウルトロンに最後の瞬間で慈悲を示した。ベタニーは、ウルトロンがヴィジョンの内面で「かなり強力なファイアウォール」の背後に置かれていると説明している。
ここでファイアウォールは、ウルトロンの目的や価値観を書き換えた仕組みではなく、その影響を抑える物語上の境界として描かれる。公式のあらすじでも、ヴィジョンはウルトロンの影響に抗わなければならないとされている。危険な存在を消去せず、自分の一部として抱えながら制御しようとする構図が、ヴィジョンの慈悲と責任をめぐる葛藤につながる。
AI安全性研究では、システムが開発者の意図しない目標を学習したり、未知の状況で望ましくない目標を追求したりする「目標の誤汎化」が研究課題となっている。ただし、現実のAIにおけるこうした問題と、人格を持つウルトロンをファイアウォールで閉じ込める設定は同じものではない。共通するのは、行動を一時的に制限することと、目的や価値を望ましい方向へ整えることは別の課題だという発想である。
スペイダーによると、本作のウルトロンは『エイジ・オブ・ウルトロン』のころよりも年齢と経験を重ねた存在として描かれる。知識や行動の観察に対する飽くなき関心を持ち続け、それが以前にも増して鋭いユーモアや不遜な態度につながるという。
予告編では、ウルトロンがヴィジョンに「魂を解放し、息子を救え」と迫る。ウルトロンが単純な敵として立ちはだかるのか、それともヴィジョンの自己理解に関わる別の役割を担うのかは、作品の重要な焦点になりそうだ。
■ウルトロン、ヴィジョン、トーマスの三世代
マーベル・テレビジョン責任者のブラッド・ウィンダーバウムは、本作を祖父、父、息子という三世代の物語と説明している。虐待的な父を持った者が、自分自身はよい父親になれるのかという問いが物語の中心にあるという。
この関係では、ヴィジョンの肉体を自らの器として造ったウルトロンが祖父、ヴィジョンが父、トーマス・シェパードが息子に当たる。ウルトロンとヴィジョンの間にある創造者と被造物の関係が、ヴィジョンとトーマスの関係へどう影響するかが描かれる。
公式のあらすじは、トーマスをヴィジョンの息子の生まれ変わりかもしれない謎の青年としており、現時点でその正体を確定していない。『アガサ・オール・アロング』ではビリー・マキシモフが別の少年の肉体で生きることになった経緯が描かれたが、トーマスについては『ヴィジョンクエスト』で明らかになる部分が残されている。
ヴィジョンの父性をめぐる問いは、単にトーマスを守れるかどうかだけではない。ウルトロンから受け継いだものや、自分の内側にある相反する声と向き合いながら、次の世代に何を渡すのかという問題でもある。
■AIアラインメントを読み解く補助線
『ヴィジョンクエスト』の設定を、現実のAIアラインメント問題への直接的な答えと捉えることはできない。それでも、複数のAI人格が一つの基盤を共有すること、異なる目的を持つ存在の影響を抑えながら共存すること、記憶と感情から一貫した自己を組み立てることには、AIや認知科学の議論と共通する構造がある。
本作でより重要なのは、そうした構造がヴィジョンの人物描写につながっている点だ。J.A.R.V.I.S.はヴィジョンの起源の一部であり、F.R.I.D.A.Y.はトニー・スタークを失った記憶を持ち、ウルトロンはヴィジョンが排除しきれなかった創造者として存在する。それぞれが、ヴィジョンの過去や価値観、他者との関係を異なる方向から照らす。
マタラスは、ヴィジョンが経験するトラウマや人間関係、愛を受けた経験と受けられなかった経験への反応は、誰もが何らかの形で向き合うものだと語っている。AI人格が暮らす内面世界は、ヴィジョンの心を技術的に説明するためというより、彼が自分の履歴と感情をどう引き受けるかを映像化する舞台なのである。
『ヴィジョンクエスト』は、ヴィジョンを単独作品の機会を待っていたヒーローとしてだけでなく、複数の起源と記憶を抱え、自分が何者なのかを選び直そうとする存在として描く。AIアラインメントや心の理論との類似は、その自己探求を読み解く興味深い補助線になる。
元記事: VisionQuest Arrives October 14: Ultron Firewall Cannot Solve Marvel Alignment Failure
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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