Trimが完全個室型ベビールームを開発した理由とその推移

2021年8月27日 07:51

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ベビーケアルーム「mamaro」(画像: Trimの発表資料より)

ベビーケアルーム「mamaro」(画像: Trimの発表資料より)[写真拡大]

 こんな私でもいまや40歳を超えた長女・長男が乳児だった頃、おむつを取り換えた体験はある。だが授乳の体験はない。なんでこんなことを書きだしたのか・・・

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 Trimというスタートアップ企業を知ったからだ。2015年に現代表の長谷川裕介氏により起業された。17年に設置型ベビールーム「mamaro」(高さ2000mm、奥行き900mm、幅1800mmの授乳・おむつ替え用の鍵付き完全個室型ベビールーム)の展開を開始している。

 既に商業施設や公共機関などに280台余が導入されている。同時に授乳室をマップ上で検索できるアプリ「Baby map」でmamaroの空き状況を調べることも可能な仕様となっている。

 長谷川氏は、「全国の子育て世代の助けとなるように展開を進める中で、授乳室の数がニーズに追い付いていない実態に気づいた。あっても共用型の授乳室で、『カーテンで仕切られただけでは授乳中に誰か入ってこないか不安』という声もあった。そこで場所をとらず、誰もが安心して使えるベビールームの必要性を感じmamaroの企画開発を進めた」とする。

 だが私にはむしろベビールーム(授乳室・おむつ替え室)を起業の対象とした背景というか、契機が気になった。こんな事実を知った。

 長谷川氏は学校を卒業後、大手広告代理店に入社。コピーライターとしての一歩を踏み出した。没頭した。そんな最中、未だ50歳代の母親がガンで急逝した。葬儀の席で母に想いを馳せるうちに「自分は母になんら恩返しができなかった・・・」という気持ちが重くのしかかった。当時、長谷川氏は「発がん性物質が云々」と問沙汰されていた清涼飲料水企業を担当していた。「いてもたってもいられなくなった」。

 そんなタイミングに、医療系ベンチャーを立ち上げた企業家と出会った。新規事業責任者兼CIOとして加わった。そこで生み出したのがBaby map。が、身を置いた企業はIPOに際し、医療関連事業にフォーカスすることを選択した。Baby mapは宙ぶらりんの危機に。この時に長谷川氏が「果たせなかった母への恩返しの為にも、次世代の母親たちの役に立てれば」と思い立たなければ・・・。Trim創業には、そんな背景(ドラマ)があったのである。

 mamaroの外観は、柔らかな丸いフォルム(形状)。導入する施設側にもメリットが多い。例えばモニタリング機能。施設の管理者は、モニターを通して利用頻度を把握できる。設置場所の検討などで、商業的な観点を生かすことが可能。例えばベビールームにはキャスターがついているので、レイアウトを変更する際にも移動が容易。ちなみに施工コストは従来型授乳室の10分の1程度という。

 導入の第1号は、車の販売店。(契約に結び付ける)説明には時間がかかる。「お子さんをあやせる場所が必要」というニーズから実現した。

 長谷川氏は、「社員の福利厚生の一環として、『個室型授乳室』が普及する日も近いのではないか」とする。企業には「子育てをしながらでも働きやすい環境を整える時代」が求められると考えているからだ。

 Trimではこの秋にも「mamaro2」の販売を予定している。ベビーカーも一緒に入れる。かつ乳幼児を専用ソファに寝かせると、付帯する体重計で体重測定が可能。専用アプリに保存すると、成長を確認することもできる。

 少子化の時代が危惧されるいまだからこそ、子育てに優しい環境の充実が望まれる。Trimの進捗を見守りたい。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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