アイシングは筋損傷後の回復を遅らせる 神戸大らの研究

2021年4月27日 08:36

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アイシングした群としていない群で比較した、筋損傷後の炎症性マクロファージの分布(神戸大学の発表資料より)

アイシングした群としていない群で比較した、筋損傷後の炎症性マクロファージの分布(神戸大学の発表資料より)[写真拡大]

 ケガや激しい運動の応急処置、早期回復のために施されるアイシング(冷却)。患部の温度や細部の新陳代謝を下げ、局所の炎症を軽減させたり、痛みを和らげたりすることから、最も有効なスポーツ外傷の応急処置(RICE処置)と考えられてきた。

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 しかし、神戸大学と千葉工業大学の研究グループは23日、筋損傷へのアイシングが筋再生を遅らせるとの研究成果を発表した。アイシングによって炎症反応を抑え、組織修復に向かわせる抗炎症性マクロファージについて、損傷細胞に浸潤する度合いが低下するためだと言う。

 研究グループは今後、筋損傷の程度に合わせたアイシングの処置方法を検討し、スポーツ現場や臨床リハビリでのアイシングの可否判断に役立つ材料を提供する。

 スポーツ現場や学校現場、医療現場では、外傷時の応急処置としてRICE処置が施される。安静(Rest)と冷却(Icing)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation)の頭文字を取った処置で、適切な処置が行われた場合に患部の治癒が進んだり、日常動作やスポーツへの復帰が早まったりする効果があると言われる。中でもアイシングは、炎症を抑えるとともに、患部の回復を早める手助けとなるとされ、重宝されてきた。

 しかし、組織損傷後に起こる炎症は正常な身体回復のプロセスの1つで、組織の再生に重要な反応であることが複数の研究成果により判明。これを受け、アイシングで炎症を抑制すると、損傷組織の再生が阻害される可能性があるとスポーツ医学の議論の俎上に乗せられている。

 一方で、スポーツ現場で起こり得る、筋が収縮して発生する損傷モデルへのアイシングの効果を検討する研究が、既存研究にはなかった。そこで、研究グループは今回、遠心性収縮モデルマウスを用い、損傷後にアイシングを施した影響を観察することにした。

 研究は、電気刺激と人為的な足関節の運動によって遠心性収縮を起こしているマウスの筋を採取した後、採取した筋を対象に皮膚の上から30分間、2時間ごとにアイシングを実施。アイシングは組織損傷の発生から2日後まで継続し、筋繊維の横断面と横断面積を調べた。

 すると、アイシングを施した群は、アイシングしてない群に比べ、横断面積の小さい再生筋の割合が多いことが判明。アイシングによって骨格筋の再生が遅れていることがわかった。

 さらに、アイシングした群としていない群で筋肉の経過を調べたところ、アイシングした群は、損傷筋の再生に不可欠な炎症細胞が流入しないことが確認された。損傷筋に流入する炎症細胞には、貪食して炎症反応を引き起こす炎症性マクロファージがあるが、アイシングを施すと、炎症性マクロファージの到着が遅れることも判明。

 これらの結果を踏まえ、研究グループは、「重篤な筋損傷ではアイシングしない方が、早期回復が見込める可能性がある」と指摘する一方、アイシングを施しても良い程度の軽微な筋損傷が存在する可能性も否定できないことから、今後もアイシングが筋損傷に与える影響を調べることにしている。(記事:小村海・記事一覧を見る

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