火星誕生の謎に迫る 火星コア物質を音速で測定 東工大の研究

2020年6月9日 07:07

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13万気圧における、鉄−10 wt%硫黄合金(Fe80S20)の超音波信号とX線画像(画像: 東京工業大学の発表資料より)

13万気圧における、鉄−10 wt%硫黄合金(Fe80S20)の超音波信号とX線画像(画像: 東京工業大学の発表資料より)[写真拡大]

 東京工業大学は8日、火星のコアの組成であると考えられている物質に関して、超高温高圧状況下で、音速の測定に世界で初めて成功したと発表した。コアとは芯を意味する英語で、火星のコアとはつまり火星の中心部に近い領域を指す。

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 火星のコアは20気圧以上という非常に高圧かつ2000度という高温にさらされていると考えられ、その組成は火星由来の隕石の分析結果から、鉄-硫黄合金であると推定されている。しかしながら、火星の芯部から物質を掘り出して、直接分析することは不可能である。

 そこで東京工業大学の研究チームは、30万気圧までの超高圧加圧が可能な川井型マルチアンビルプレスを用いて、電子を光速近くまで加速させ、20万気圧2000度の状況を実験室的に再現。鉄-硫黄合金における音速(地震波速度)の測定を試み、見事に成功させたのだ。

 ただし、このデータ単独では火星誕生の謎に迫ることはできない。現在稼働中のNASAの火星探査機インサイトで火星コアにおける地震波速度の測定を実施中であり、その結果が判明すれば、今回の音速測定データと比較し、それらの値が一致するか否かによって火星誕生時にどんなことが起きていたかを明らかにできるのだ。

 ところで火星には地球の衛星である月と比べると、岩という表現がふさわしいほど球体からは程遠い形をした小さな2つの衛星フォボスとダイモスがある。月が地球と比べて非常に大きい理由は、地球が誕生して間もないころに、かなり大きな微惑星が地球に衝突し、それがきっかけで月が誕生したというジャイアントインパクト説によって説明されるのが現在の一般常識だ。

 一方、火星の衛星フォボス、ダイモスがなぜ火星の周りを回るようになったのかは、微惑星衝突説と、火星の引力に偶然両衛星が捉えられたという、2つの説があるが、どちらが正しいのかは現在のところ結論が出ていない。

 だが、微惑星衝突でフォボスやダイモスが誕生したのであれば、火星のコアの組成は鉄-硫黄合金ではなく、シリコンや酸素が大量に含有されるはずだという。探査機インサイトにおける地震波速度測定値と東京工業大学の音速測定値が一致しなければ、火星のコアは鉄ー硫黄合金ではない可能性が高くなり、フォボス、ダイモスは微惑星衝突で誕生した可能性が高まることになる。

 もし火星のコアが想定通り鉄-硫黄合金であった場合、今度は宇宙の迷子であったフォボス、ダイモスを優しい火星が保護したことになるのだが、果たしてどちらが真相なのか、結論が出るのが待ち遠しい限りである。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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