抗HIV薬と脱毛症の治療薬が新型コロナの治療薬候補に 東京理科大などの研究

2020年5月3日 21:08

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 世界中の研究機関が、総出で取り組む新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬、ワクチンの開発。海外での臨床研究成果が先行するが、国内屈指の研究機関が主導する研究プロジェクトグループがこのほど、他疾患対象の既承認薬の多剤併用により、COVID-19の増殖を効果的に抑えられるとの治療メカニズムを突き止めた。実験に用いた薬剤は、薬効効果が広い抗ウイルス薬で、開発レベル全体の底上げに繋がりそうだ。

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 研究プロジェクトは、東京理科大学や国立感染症研究所など国内外25の研究機関が共同で行ったもので、抗HIV薬「ネルフィナビル」と脱毛症治療薬「セファランチン」の併用投与により、COVID-19に感染した細胞から検出限界以下までウイルスを排除できたとの研究結果を明らかにした。すでに他の病気の治療に投与されている薬の複合投与による研究成果で、新薬開発を早期に実現させる可能性がある。

 新薬開発は通常、基礎研究に始まり、非臨床試験や臨床試験(第1~3相試験)、承認申請、製造販売といった段階的なプロセスを踏まねばならず、世に出るまで10年以上の期間を要する。そこで、研究プロジェクトグループは、第2相の臨床試験から開始でき、薬事承認までの期間短縮を可能にする既承認薬を使ったアプローチを実験手法に選んだ。

 国立感染症研究所における、分離されたCOVID-19を用いた実験研究では、すでに何らかの疾患に対して臨床で使用認可されている約300の承認薬が、ウイルス増殖に有効かどうかを検討した。すると、調査した承認薬のうち、5剤がウイルス増殖による細胞障害を抑えることを見出し、特にネルフィナビルとセファランチンの効果が高いことがわかった。この2種類の薬剤を実際の臨床で使用する投与量で併用した場合に顕著な成果が表われ、累積ウイルス量が約7%まで、ウイルス排除までの期間も約5.5日短縮した。

 ネフィナビルは抗HIV治療薬、セファランチンは白血球減少症やマムシ咬傷、脱毛症などに使用される薬剤で、両方ともウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス薬にあたる。治療薬候補となっているロピナビルやクロロキンなどより強い活性を持ち、それぞれ感染細胞から放出されるウイルスRNAを1日で最大0.01%にまで減少させる効果がある。それらの作用が多剤併用で増幅し、短期間でウイルスを検出限界以下まで排除できたとみられる。 

 研究グループは「COVID-19に対する新たな治療法を提案し、新規伝播の抑え込みに有用な知見を提供する」と成果を強調。グループの一員からは「いくつか進む治療薬開発でも、この2種類の実験レベルでの効果は高い」と将来性の高さを示唆する声が上がっており、第3相臨床試験など、今後の進展に期待がかかる。

 COVID-19の治療薬候補は現在、米国のバイオ製薬会社と米国国立衛生研究所が、重症患者を対象にした治験で有用性を示した抗ウイルス薬「レムデシビル」が筆頭格に挙がる。米国医薬品局は5月1日に重症患者への緊急使用を許可。これを受け、日本政府は早ければ5月中に薬事承認する方向で調整に入っている。(記事:小村海・記事一覧を見る

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