セミと冬虫夏草の不思議な関係 ― 産総研などの研究

2018年6月19日 11:28

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アブラゼミ(左)オオセミタケ(右)セミタケ(下)。(画像:産業技術総合研究所発表資料より)

アブラゼミ(左)オオセミタケ(右)セミタケ(下)。(画像:産業技術総合研究所発表資料より)[写真拡大]

 冬虫夏草はセミに寄生し、セミを栄養源にしてしまうキノコである。しかし、セミにとって必要不可欠な共生真菌の進化に、冬虫夏草の進化が深く関わっているということが明らかになった。産業技術総合研究所生物プロセス研究部門の深津武馬首席研究員、同部門生物共生進化機構研究グループの森山実主任研究員、琉球大学熱帯生物圏研究センターの松浦優助教(元産総研技術研修員)らの共同研究と、米国モンタナ大学の協力によるものだ。

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 セミの幼虫は根から、成虫は樹木から、植物の道菅液というものを吸って生きている。この道菅液は、わずかにアミノ酸や糖を含んではいるが栄養的には極めて乏しいものである。

 一方、セミの細胞内共生細菌にサルシア、ホジキニアというものがいる。ゲノムが著しく縮小していてセミの体内でしか生きられない細菌であるが、サルシアは多くの必須アミノ酸、ホジキニアはいくつかの必須アミノ酸とビタミンの合成に特化した菌である。彼らの存在によって、セミは道菅液だけで生きていくことができるものと考えられる。

 さて、今回の研究では、沖縄などの南西諸島を含む日本各地から24種のセミが集められた。うち9の種はサルシアとホジキニアを保有していた。

 ところが、アブラゼミやミンミンゼミ、ツクツクボウシなど他の15の種では、ホジキニアが検出されない代わりに、酵母のような形の細胞内共生真菌が見られた。

 これについて詳細な分析を行ったところ、日本のセミの歴史においては過去に少なくとも3回、ホジキニアが失われて冬虫夏草に由来する共生真菌に置き換われるプロセスが繰り返されたものと考えられる、という。

 また、ツクツクボウシから共生真菌を単離・培養したところ、この共生細菌はホジキニアと同じ必須アミノ酸、ビタミンの合成能力を持っていた。

 研究の詳細は、米国の学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences USA」(米国科学アカデミー紀要)にオンライン掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

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