ソフトバンク孫氏が3割までのリスクには立ち向かう、とする理由

2017年5月22日 17:51

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 ソフトバンクグループの頭目である孫正義氏がM&Aを加速させる。5月10日に発表した前3月期決算の席上で、あらためて明らかにした。ちなみに前期の営業利益は1兆259億円。既存事業の枠内での利益創出体制が再確認される形となった。

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 そうした自信が、予定されているサウジアラビアとの間の「10兆円超ファンド」組成への背中を強く押した。孫氏の頭の中には例えばかつて動き出したばかりの米国ヤフーに出資し「ヤフージャパン」をその手にした様に、世界中の有力なIT系ベンチャービジネス(VB)に手を突っ込みその果実を享受し「あらたなソフトバンクグループ」を創造するという思いがある。

 決算発表から6日目には、アブダビ首長国のベンチャーキャピタルの責任者がブルームバーグの取材に対し「ソフトバンクグループのビジョン・ファンドに最大150億ドル(約1兆7000億円)を出資する計画」と明らかにしていると伝えられた。原油ビジネス頼りから新たな事業構築を図ろうとしている産油国の「孫ファンド」に寄せる期待が読み取れる。

 果たして孫氏がどんなVBに資金を投入するか、思惑通りにことが進むのかは今後の動向をウオッチする以外にないが、10兆円ファンドの報に接し頭に浮かんだのは、2006年4月の出来事である。

 VBではない。既に世界に冠たる存在だった携帯電話の雄ボーダフォンの日本法人の買収である。買収金額は1兆7500億円。05年3月期のソフトバンクの営業利益は約623億円という段階での巨額買収である。ドコモ・auという両雄の中に割って入ろうと企んだのである。結果的にはこの買収の成功がなければ今日のソフトバンクが存在していたかどうかは「疑問」と言わざるをえない。直後に孫氏からこう聞かされた。

 「携帯事業がこうも早く日本に浸透するとは正直、思ってもみなかった。僕は完全に出遅れた。そうじゃなければ、あんな事もしなかったはずだ」

 あんな事とは遡る数年前のある所業を指している。孫氏はゴルフ上手。ワンバーディ・ワンボギーのパープレイ記念として、表にスコア表を刷り込んだ「テレホンカード」を作り嬉々として配っていた。携帯事業進出を視野に入れていたら「そんなことはやるはずないよ」というわけである。

 そんな孫氏に、1兆7500投資に関しこう質した。「頭抜けた買い物だが、出遅れ分を巻き返す自信はあるのか」。孫氏から返ってきた答えは「絶対にある、とは言い切れない。が僕は、これはと直感した事業に対しては3割までのリスクを取りに向かうと決めている」。

 3割の理由を問うた。「トカゲの尻尾。トカゲのシッポというのは3割まで切り取られても、元に戻る」と「当然」といった顔つきで答えたものである。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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