百貨店はトンネルの出口見えず、「製造小売」の専門店チェーン強し

2017年4月17日 07:38

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記事提供元:エコノミックニュース

■インバウンド消費は、夢まぼろしの如くなり

 4月12日、小売業の百貨店、専門店業界の主要各社の2017年2月期本決算がほぼ出揃った。

 百貨店は、日本百貨店協会が発表する全国百貨店売上高(既存店ベース)が、2017年2月期の12ヵ月間は毎月、前年同月比マイナスが続いた。直近のプラスは2016年2月で12ヵ月連続マイナス継続中。2016年通年の既存店売上高は-2.9%で2年連続でマイナスになり、1980年以来36年ぶりの年商6兆円割れ。バブル経済下の1991年のピーク年商9兆7138億円から約4割も減った。そのため主要百貨店の2月期決算、3月期決算見通しで、増収や増収見込みは1社もない。

 高島屋<8233>は営業収益0.6%減、営業利益3.1%増、当期純利益12.4%減の減収と2ケタ最終減益。2015年2月期の2ケタ増益、2016年2月期の増収増益と比べると、業績は明らかに悪化した。年間配当は12円で据え置きだった。専門店やネット通販におされて婦人服の販売が振るわなかったが、国内収益のマイナスをコスト削減でカバーした。最終減益の要因は、2016年2月期に計上したH2Oリテイリングの持ち合い売却益がなくなったため。百貨店で唯一インバウンド消費が踏みとどまっているが、宝石・貴金属の売上が3%減になるなど主力商材は高級品から日用品に移り、客単価は下がっている。

 セブン&アイHD<3382>傘下の西武・そごうは営業収益5.3%減、営業利益41.4%減の減収、大幅減益で、営業利益43億円は2015年2月期の102億円の半分以下に落ち込んでしまった。最終赤字が40億円から284億円に拡大した要因は、9月末にそごう柏店と西武旭川店を閉店し、早期退職にからむリストラ費用を特別損失に計上したため。

 決算期が2月期ではなく3月期なので通期見通しだが、三越伊勢丹HD<3099>は売上高は2.9%減、営業利益は27.5%減、当期純利益51.0%減と減収、大幅減益の見込み。衣料品や訪日外国人向けの販売が低迷。利益面ではパートタイマーの採用抑制、宣伝費カットを行っているが減益見通し。3月に三越の千葉店、多摩センター店が閉店した。業績不振を受けて4月、社長が杉江俊彦氏に交代した。

 阪急百貨店と阪神百貨店のH2Oリテイリング<8242>は前期の増収増益から一転、売上高は1.5%減、営業利益は6.8%減。土地売却益の計上で当期純利益は0.3%増と、かろうじて前期比プラスを確保できる見込み。「婦人服とインバウンド」の販売減が業績を押し下げているが、それに加えて買収したGMS、イズミヤの不採算店閉鎖、店舗改装費用が業績に影を落としている。

 松坂屋と大丸のJフロントリテイリング<3086>は売上高4.7%減、営業利益7.2%減、最終利益2.4%増で減収、最終増益。年間配当は1円増配して28円だった。最終利益は減益見通しだったが、大丸心斎橋店の建て替えに伴う特別損失の減少などで14億円上振れし、前期比プラスで着地した。ここも婦人服が不振で、百貨店売上高の4割を占める衣料品の売上が4%減。訪日外国人向け売上高は13%も減った。

 東京、大阪の中心部に店舗がある百貨店各社は2期前の2015年2月期が業績のピークで、その要因は言わずと知れた訪日外国人観光客の「インバウンド消費」の恩恵だった。しかし昨年4月、中国政府が帰国者が持ち帰った物品に課す関税率の引き上げを実施した影響などで「爆買い」は影をひそめた。「来店する外国人客数は依然多いが、客単価が悪化した」「利益率が高い宝飾品や時計など高級品が売れなくなった」といった影響が出て、最終利益がピーク時の半分以下に落ち込んだ百貨店もある。つかの間、いい夢を見させてくれた「爆買い」「インバウンド消費」も、夢まぼろしの如くなり。今期に多少、持ち直すとしても、中期的には「ポスト・インバウンド」の戦略が重要になるだろう。

■「製造小売」は国内でも海外でも好調持続

 専門店チェーン大手は概して言えば、2016年2月期に改善した業績が、2017年2月期もその好調さを持続させていた。マーチャンダイジング(販売施策)の成功が目立つ。

 「無印良品(Muji)」の良品計画<7453>は、営業収益は8.4%増。営業利益は11.1%増、当期純利益は18.9%増。いずれも増加率は2016年2月期より鈍化したが、それでも2ケタ増益の好調さを持続し、最終利益は2期連続で過去最高益を更新した。年間配当は47円増配の293円で、従来予想を19円積み増している。欧米の「Muji」は物流コスト増で利益が抑えられたが、国内の「無印良品」は化粧水や調理用品など生活雑貨、カレーやチョコレートなど食品を中心に販売が好調で、為替の円高で輸入品の調達価格が下がったことも利益面で寄与した。

 カジュアル衣料のしまむら<8227>は売上高3.6%増、営業利益22.3%増、当期純利益32.8%増で、2016年2月期と比べると売上高の増加率は鈍化したが、利益は経常利益も含め揃って念願の2ケタに乗せ大幅加速。営業利益は4期ぶりに最高益を更新している。「製造小売」業態の収益力の強さを見せつけ、年間配当は35円増配して230円。夏場の天候不順で秋物は出遅れたが、冬物衣料は販売好調。売れ行きに応じて独自ブランドの人気商品を柔軟に値引きし、在庫処分による過度の値引きが避けられたことで利益が大きく伸びたという。

 靴のABCマート<2670>は、売上高0.3%増、営業利益0.8%増、当期純利益8.6%増。増収増益ながら2ケタ増収が途切れ、営業利益は14期連続最高益でも伸びは鈍化。しかし当期純利益は2016年2月期の7.2%増から増加幅が1.4ポイント伸びて4期連続最高益。年間配当は120円で据え置き。例年、決算期末の年末年始から冬場にかけて在庫処分の大規模セールを行っていたが、計画的な在庫圧縮に成功してそれをせずにすんだことにより、増収増益で着地できたという。

 家具・インテリア用品の「製造小売」ニトリHD<9843>は、売上高12.0%増、営業利益17.4%増で30期連続の最高益、当期純利益27.7%増の2ケタ増収増益。いずれも2016年2月期から増加幅が拡大し過去最高という好決算。年間配当は17円増配の82円だった。客層をひろげる「都心出店」を進めつつ、既存店売上高も5.5%増。冷感寝具の「Nクール」、保温寝具「Nウォーム」などオリジナル機能性商品が引き続き好調で売上が伸び、原材料の共通化による原価低減などコストの削減も進んだ。

 ホームセンターのDCMHD<3050>は営業収益1.3%増、営業利益6.4%増。当期純利益は9.9%増で4期ぶりに過去最高益を更新した。増収増益ながら経常利益以外は2016年2月期から増収幅、増益幅が縮小した。年間配当は3円増配して24円。うち1円は記念配当。26店舗増加した積極出店策、サンワドー、ケーヨー、くろがねやと続いた大型M&Aによる統合効果、PB商品の拡販などで粗利益率は約2ポイント改善した。仕入れ段階、物流段階でのコスト削減も過去最高益に寄与している。

■百貨店はそれでもインバウンド再来を期待

 百貨店、専門店業界の2018年2月期の通期見通しは、概して言えば百貨店はそれでもやっぱりインバウンド消費の盛り返しを期待している。一方、専門店チェーンは無敵の「製造小売」業態の中に強気の業績見通しを出しているところがある。

 百貨店は、高島屋は営業収益2.1%増、営業利益2.9%増、当期純利益3.0%増と増収増益を見込んでいる。年間配当予想は12円で据え置き。2017年2月期は「引き続き伸びる」とみたインバウンド消費が予想を下回ったが、4月27日に大型免税店が新しく東京・新宿の「タカシマヤ・タイムズスクエア」内に開業する。決算記者会見で木本茂社長は「インバウンド消費は今期も増加を見込んでいる」と述べており、免税売上高は31%増の450億円の見込み。

 西武・そごうは営業収益6.8%減、営業利益15.2%増の減収増益を見込んでいる。柏そごうと西武旭川の閉店の影響で減収になっても、利益ベースではリストラによるコスト削減効果が出ると踏んでいる。

 Jフロントリテイリングは2018年3月期から国際会計基準(IFRS)の任意適用を受ける。前期の業績をIFRSで計算した参考値だが、今期の売上収益は3.5%増、営業利益は6.6%増、最終当期利益は税負担の関係で2.3%減で、増収、最終減益を見込んでいる。予想年間配当は4円増配し32円で、そのうち2円は経営統合10周年の記念配当。

 百貨店は松坂屋上野店南館が秋に「新南館」として開店し、訪日外国人と富裕層の消費回復を見込むが、それよりも期待できそうなのが不動産事業。「世界のギンザ」松坂屋銀座店跡に4月20日オープンする商業施設「GINZA SIX」は、初年度約20億円の黒字を出す計画。決算と同時に中期経営計画を発表し、最終年度の2022年2月期に今期計画比約3割増の営業利益560億円を目指す。

 専門店チェーン大手は、良品計画は営業収益12.2%増、営業利益10.5%増で連続2ケタ営業増益、6期連続最高益の見通し。当期純利益は10.3%増で3期連続2ケタ増益を見込んでいる。予想年間配当は31円増配して324円。国内は売れ筋商品を見極め、値引きを抑えて利益率を改善させる戦略で、在庫管理の徹底で粗利益率の改善も図る。海外事業は東アジア中心に積極出店を続ける方針で、松崎暁社長は「中国では年間30店舗を新規出店し、20店舗を改装したい」という意向。赤字続きのヨーロッパは「2019年2月期の黒字化」がミッション。

 しまむらは売上高は7.9%増、営業利益は16.2%増、当期純利益は17.2%増で2ケタ増益、2期連続最高益更新を見込む。予想年間配当は230円で据え置き。見通しの数字が控えめなので、中間期など今期途中での上方修正もありうるだろう。国内では前期61店だった新規出店を85店舗に増やす。在庫管理を徹底して在庫処分による過度な値引き販売を抑制。分散している生産工場の集約化を進めて仕入れ原価から減らしていく方針。それによりテレビCMを増やして販管費が増加する分を吸収できると説明している。

 ABCマートは、売上高6.3%増、営業利益1.5%増、当期純利益1.3%増と、営業利益は15期連続、当期純利益は5期連続で過去最高益更新の見通し。予想年間配当は120円で据え置き。派手さはなくても着実に増収増益を見込んでいる。新規出店は国内約50店舗、海外30店以上を予定。既存店舗も好立地への移転、増床も積極的に進める。都心店に比べて採算が厳しい郊外店は低価格商品を投入しテコ入れする。海外からの仕入れコストの増加分はPBの婦人靴の販売拡大でカバーできると想定。韓国など海外店舗の売上増も増収増益に寄与する見通し。

 ニトリHDは売上高10.7%増、営業利益15.4%増、当期純利益14.2%増と、2ケタ増収増益の強気の見通し。似鳥昭雄会長は「40期連続の増収増益を達成したい」と話している。予想年間配当は10円増配の92円。「都心出店」戦略は6月に渋谷に大型店を開店させるなど今期も継続し、さらに約80億円を投資して郊外型の既存店60店舗を大改修する。都心部積極出店と商品の品質向上で客層をひろげ、大型改装で既存店の客足を伸ばすなど、今期も攻めに攻める。

 DCMHDは営業収益は3.0%増、営業利益は5.0%増、当期純利益は5.2%増と、増収増益で2期連続最高益だがやや堅めの見通し。予想年間配当は2円増配して26円。新規出店は29店舗(退店7店舗)。昨年12月に子会社化したくろがねやの統合効果も通期で効いてくる。(編集担当:寺尾淳)

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