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相場展望7月5日 「雇用」に重きを置くFRBは、判断遅れる可能性 原油・商品・賃金が高騰、膨らむインフレリスク
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)7/1、NYダウ+131ドル高、34,633ドル(日経新聞)
・新たな四半期(7~9月)が始まり、新規の投資資金が流入するとの期待が広がり先高観が台頭した。
・ただ、7/2発表の6月雇用統計を見極めたいという投資家も多く、上値は限定。
・米株式市場では、雇用統計が予想以上に強い内容となり、米連邦準備制度理事会(FRB)による「テーパリング(量的緩和の縮小)」の前倒し観測が強まることを警戒する声もある。
【前回は】相場展望7月1日 米国株は好需給で循環取引(景気敏感⇔ハイテク)が続く 日本株は閑散相場で身動きとれず
2)7/2、NYダウ+152ドル高、34,786ドル
・6月雇用統計は、米連邦準備制度理事会(FRB)がテーパリング(量的緩和縮小)を早めるほどの内容ではないと受け止められ、米長期金利が低下した。
・長期金利の低下で買われやすいハイテクなど高PER(株価収益率)銘柄を中心に買い優勢となった。NYダウ、ナスダック総合、SP500は最高値を更新した。
●2.米FRBの『雇用』に軸にした金融政策では、政策転換が遅れ、インフレリスク膨らむ
~原油価格・商品・賃金など急上昇で、米インフレ懸念の灯は大きく膨らんでいる~
1)FRBは『雇用回復遅れ』と超金融緩和政策を継続し、『インフレ懸念は一時的』と軽視
(1) 米連邦準備制度理事会(FRB)が『一時的』とする判断理由。
・インフレ指数に占める、中古車価格・住宅価格と家賃等の高騰は収まる見通し。
・10年長期金利は3月に一時1.7%台まで上昇したが、1.5%以下に低下。
(2)雇用は依然として、失業者が約800万人もおり、新型コロナ前に戻っていない。
(3)金融市場も、『一時的』としてインフレ懸念後退を容認。
2)インフレ懸念が膨らむとする理由
(1) 中古車・住宅価格下落は、高騰に対する一時的調整で、元の低い価格に戻るとは思えず。いずれ需給が引き締まって反騰すると予想。
(2) WTI原油価格は下落することなく上昇継続中。
・予想では2021年末80ドル⇒2022年以降100ドル説。
・世界経済が、米国・中国の力強い経済成長で牽引され、原油需要が増大。2021年GDP成長率予想:米国6.9%、中国8.5%
・バイデン大統領の環境重視政策が、米国内の原油生産増加を抑制し、価格上昇の一翼を担っている。
・OPECプラス(ロシアなど含む)の減産幅縮小の交渉が中断するなど、原油供給増が見込めず。OPECプラスは原油減産縮小の協議中だが、決裂なら原油のタイト化が速まり、原油価格が急上昇し、急激な物価上昇の恐れがある。(ブルームバーグ)
(3) CRB指数(国際商品先物指数)高水準で上昇中、インフレ懸念強まる傾向を示唆。
・CRB指数の推移 2018年5/22 2019年12/27 2020年4/21 2021年7/2
206 187.18 106.29 214.99
・国際商品価格の急騰の要因は、需要増に加えて、米欧日などの中央銀行による資金供給の余剰マネーが流入して高騰させていると言われている。特に、大豆・小麦など農産物の価格急上昇にも余剰マネーの介在が見て取れる。
・CRB指数とは、エネルギーや貴金属、農産物などのコモディティを幅広く網羅(28品目)し、世界的な物価や景気の代表的な指標として使われる。
特に、製品原材料として使う商品を多く含むため、物価上昇率(インフレ動向)
の先行指標として国際的に注目されている。
1967年を100として算出している。
3)『雇用回復は、政府施策で回復』するもので、『金融政策では課題解消できず』
(1) 失業者はコロナ前と比べ約800万人いるとFRBは言うが、求人数は900万人超という事実に、FRBは目を向けていない。
(2) 米経済は力強く回復しているが、人手不足が原因となり、経済成長を阻害している。賃金を引上げても、人手不足を解消できない状態が続いている。民主党の言う最低賃金目標は15ドルへの引上げだが、アマゾンなどでは16ドルというように産業界では賃金引上げ状況にある。
(3)就業しない理由は、
・失業保険の加算支給が週300ドルされており、働いて得られる賃金より高い。つまり、加算支給が雇用促進を阻害している。
・学校閉鎖のため、子供の世話で働けない。
・新型コロナ感染が終息しないうちは、仕事に戻らないという方針。
(4) 政府政策で課題解消が必要
・ワクチン接種のさらなる拡大で、学校の解除とコロナ感染の終息。
・失業保険加算金制度の見直し。
4)以上の観点から、FRBは『雇用』から『インフレ対策』に金融政策を転換するべき時期にある。現状の雇用回復を解消するには、FRBの範囲を超え、政府の問題と見る。FRBの政策転換の遅れが、インフレ退治をより困難なものにさせよう。バイデン政権は、求人不足の解消に向けた政策を早急に実施することが必要。
●3.雇用の過熱感は見られず、米連邦準備制度理事会(FRB)は当面、超緩和策を維持(フィスコ)
1)米6月非農業部門雇用者数は85万人増と、予想71.1万人・5月55.9万人を上回る。
2)失業率は5.9%と、予想5.6%・5月5.8%から悪化。(フィスコ)
3)非農業部門雇用者の増加は、昨年8月来で最大を記録した。
4)平均時給は、前月比+0.3%と鈍化したものの、前年比では+3.6%と伸び拡大。
5)7月の雇用統計をにらむ展開に、焦点は移った模様。
●4.ハーカー米フィラデルフィア連銀総裁、「2022年終わりに、テーパリング開始を支持」
1)「月100億ドルの国債購入規模の縮小が理に適う」とも発言。(フィスコ)
(注)現状の国債購入規模は、月1,200億ドル
●5.IMF、「米国のテーパリングは2022年前半に開始が必要となる可能性が強い」(フィスコ)
●6.IMF、「2021年の米国経済+7%を予想、2022年は+5%前後」(フィスコ)
●7.米議会予算局幹部、「FRBの利上げは、2023年下半期を想定」(フィスコ)
●8.米先週分新規失業保険申請件数36.4万件と、前週比▲5.1万人と予想以上に改善(フィスコ)
1)逆に、米失業保険継続受給者数は346.9万人と、前回341.3万人から悪化
●9.米6月ISM製造業景気指数60.6と、予想60.9・5月61.2から鈍化した(フィスコ)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)7/1、上海総合指数▲2安、3,588
・6月財新中国製造業PMIは51.3と、市場予想51.9を下回り、5月52.0からも低下した。
・業種別では、飛行機製造やセラミック、電機、発電設備の下げが目立った。半面、バイオ医薬品や酒造株が高かった。
・中国共産党建党100周年式典が開かれていることもあり、下げ渋った。
2)7/2、上海総合指数▲70安、3,518
・対外関係の悪化が警戒される流れとなった。習近平・国家主席は昨日の式典で、「いかなる外来勢力による圧迫も許さない」と米国を強くけん制した。
・6月財新製造業PMIが予想以上に前月から低下し、売りに拍車がかかった。
・業種別では、金融や酒造など大型株に売りがかさんだ。
●2.中国恒大集団、フィッチに続いてムーディーズも「B2」に1段階格下げ(ブルームバーグ)
1)中国恒大は、中国不動産開発の大手で、本社は深圳。
●3.中国当局、配車大手「滴滴出行」を調査、IT規制強化の一環か(共同通信より抜粋)
1)国家インターネット情報弁公室の発表によると、国家安全法やインターネット安全法に基づいた調査で、国家データの安全にかかわるリスクを防ぐ、としている。
2)調査期間中は、顧客の新規登録が停止され、経営への打撃となりそう。
3)滴滴出行は、中国の市民生活に浸透しており、トヨタやソフトバンクGとも提携。
●4.中国の自動車ディーラーの在庫指数、6月は56.1と基準値50を上回り在庫過多(新華社)
1)特に、広東省など南部は60.0で、広州、仏山、深圳など各市は新型コロナ感染が再流行したことが、在庫圧力の上昇につながった。
2)北京市など北部は54.5、上海市など東部が56.8、重慶など西武が54.6だった。
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)7/1、日経平均▲84円安、28,707円(ブルームバーグより抜粋)
・米NYダウ上昇を受けて景気敏感株に買いが先行したが、勢いは続かなかった。米半導体株指数(SOX)が下げたため、値嵩半導体関連株に売りが膨らんだ。
・新型コロナ新規感染者増加が懸念されるなか、今晩の米ISM製造業指数や、週末の米雇用統計を前に取引を控えるムードが広がった。
・電機・情報・通信。サービス・商社・海運などが安い。
・東証1部売買額は1兆9,862億円と、3日ぶりに2兆円を下回った。
2)7/2、日経平均+76円高、28,783円
・米株高で投資家心理が上向き、幅広い銘柄が買われた。円安進行は、自動車株などに追い風となった。
・日銀短観を受けて、上げ幅を一時+100円超となったが、新型コロナ感染者数が増加傾向にあり、景気回復が遅れるとの懸念が重荷となった。
●2.日本株式市場は、閑散相場で今週も方向感に欠ける状況が続く
1)ただし、テーマに乗った業績銘柄を仕込む時期と思われる。
●3.ドル円は7/1、一時111.64円と、年初来高値を更新した(DZHフィナンシャル)
●4.日銀短観、宿泊・飲食などで3カ月先の景気判断は大幅改善の見通し(NHKより抜粋)
1)日銀短観(企業短期経済観測調査)で、宿泊・飲食、遊園地・劇場などの対個人サービスの改善が見込まれるとした。新型コロナ感染拡大で厳しい業種の先行きが大幅改善するという見通しになった。
2)ワクチン接種が期待通り進むかどうかが、今後の景気回復を大きく左右することになりそう。
●5.フランス司法当局は、人道に対する罪の隠匿の疑いで、ユニクロなど4社捜査(NHKより抜粋)
1)フランスのNGOが、中国の新疆ウイグルで強制労働で作られた材料を使った疑いがあるなどとして、今年4月に告発していた。
2)捜査対象:ユニクロ・フランス、「ZARA」のインディテックス、米スケッチャーズ、仏SMCP
●6.OECDで大枠合意のデジタル課税、対象は世界100社で日本も数社か(共同通信より抜粋)
1)デジタル課税:国内に視点や工場などの拠点がなくても、通信販売などのサービス利用者がいれば各国が課税できる仕組み。
2)対象基準:世界売上が200億ユーロ(約2兆6,000億円)超で、売上に占める税引き前利益の割合が10%超の多国籍企業が対象。銀行や保険などは対象外となる。
3)日本の対象各社:トヨタ、ソニー、NTT、武田薬品など
●7.企業動向
1)三菱UFJ銀行 他行振込手数料を10月から値下げ(日テレ)
2)日産 英国に大規模EV(電気自動車)バッテリー工場を新設へ(AFP)
総投資額は1,500億円、年間最大10万台のEV向けバッテリー製造
3)フィデア、東北銀行 経営統合し、秋田・山形・岩手の広域銀行へ(ABS秋田放送)
4)マツダ 21年上期の米国販売は前年同期比46.8%増(レスポンス)
■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
・6182 ロゼッタ 自動翻訳機。業績堅調。
・5805 昭和電線 電線・ゲーブルに強み。業績堅調。
・6289 技研製 油圧式杭圧入機等を製造。業績堅調。
著者プロフィール
中島義之(なかしま よしゆき)
1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou
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