関連記事
紅海でサウジ原油タンカー2隻被弾、ブレント100ドル超え——フーシ派攻撃で「ホルムズの迂回路」も封鎖の危機
イエメンのイラン支援勢力フーシ派が23日、紅海でサウジアラビアの原油タンカー2隻を攻撃した。北海ブレント原油は5月26日以来初めて1バレル100ドルを突破し、サウジがホルムズ海峡閉鎖に備えて敷設した迂回パイプラインの出口であるヤンブー港から出航するタンカーも、フーシ派のミサイル攻撃にさらされ得るという構造的な脆弱性が浮き彫りになった。これはホルムズ海峡とは別の脅威ではなく、ホルムズ海峡の代替ルートそのものに対する攻撃である。
■フーシ派、インド・中国向けサウジタンカー2隻を攻撃
フーシ派の軍事報道官ヤヒヤ・サリーは23日、インドと中国に向かっていたサウジのタンカー「Encelia」と「Layla」の2隻に対する攻撃を認めた。同氏は「武装組織が発出した封鎖決定への違反」を理由に、「複数の弾道ミサイルおよび巡航ミサイル、ならびにドローンを用いて」攻撃し、両船で火災が発生したと述べた。
サウジアラビア国営通信は、Enceliaが被弾したことを確認し、乗組員は全員無事だと伝えた。英海事貿易機関(UKMTO)も、サウジ沿岸のアル・シュカイクから約130キロメートル(81マイル)の地点で、タンカーが正体不明の飛翔体に被弾したとの報告を受けたことを確認した。いずれの攻撃でも死傷者は報告されていない。
今回の攻撃は、7月20日にフーシ派がサウジアラビアに対する海上封鎖を宣言して以降、初めて確認された商船への攻撃となる。フーシ派はこの措置を、10年以上にわたりサウジ側がフーシ派支配地域に課してきたとする封鎖への報復と位置づけている。同派は国際的な海運会社に対し、サウジの港湾で貨物を積み下ろしする船舶は、「イエメン武装勢力の作戦到達圏内」であればどこでも標的になり得るとメールで警告していた。
Lloyd's ListとWindward Maritime AIが報じた船舶追跡データによれば、木曜の攻撃前に少なくとも7隻、多ければ10隻の船舶が針路を反転させた。その中には中国企業が運航するコンテナ船や、複数の超大型原油タンカー(VLCC)が含まれる。フーシ派はさらに、約10隻を退避・引き返しさせたと主張している。この数字は独立には確認されていないものの、船舶の針路変更データとは整合している。
■なぜ「もう一つのチョークポイント」問題ではないのか
23日の攻撃が、2023~2024年のフーシ派による海運攻撃キャンペーンと質的に異なる理由を理解するには、パイプラインの構造を押さえる必要がある。
サウジのペトロライン(正式名称:東西原油パイプライン)は、ホルムズ海峡閉鎖への備えとして1981年に建設された全長約1,200キロメートル(746マイル)のパイプラインで、東部州のアブカイク原油処理施設から紅海沿岸のヤンブー輸出ターミナルまでを結ぶ。2月28日以降、米国とイスラエルによるイランへの攻撃でホルムズ海峡が事実上閉鎖されたことを受け、サウジ・アラムコはペトロラインを主要な輸出ルートとして稼働させた。3月11日までに通油量を物理的な上限である日量700万バレルまで引き上げており、これは並行する天然ガス液(NGL)用パイプラインを緊急に原油輸送用へ転用して実現した記録的な水準だった。この日量700万バレルのうち約200万バレルはサウジ国内の製油所に供給されるため、ヤンブーから輸出できる原油の実質的な上限は日量400万~500万バレル程度となる。
このパイプラインが、現在サウジに残された唯一の輸出ルートである。第二の陸上パイプライン回廊は存在しない。クウェート、カタール、イラクは同等の陸上インフラを持たず、ホルムズ海峡の閉鎖により輸出が完全に停止している。サウジが世界の最後の石油供給源となったのは、ペトロラインによって唯一輸出を継続できたためだ。そのヤンブーから出航するタンカーを、いまフーシ派が狙っている。
フーシ派は、自らの艦艇を一隻も出港させることなく、こうした攻撃を実行できる。陸上配備の対艦弾道ミサイル「Asef」は射程約400キロメートル(249マイル)とされ、幅約32キロメートル(20マイル)のバブ・エル・マンデブ海峡全域と、その外側までを十分にカバーできる。標的となる船舶の識別には、船舶自動識別装置(AIS)の公開データも利用している。総トン数300トン超の商船は、自船の位置、識別情報、目的地をAISで発信することが法的に義務付けられている。フーシ派はこれらの情報をサウジの港湾寄港記録と突き合わせ、標的を特定している。
木曜の攻撃を受け、EUの海軍任務部隊「アスピデス」は、直近にサウジの港湾へ寄港した船舶に対し、「AIS発信を最小限に抑え、標的の特定を容易にし得る公開デジタル情報を制限することで、電子的な痕跡を減らす」よう勧告した。ただし、AISを停止すればフーシ派が利用できる標的情報を減らせる一方、AISがもたらす航行安全や捜索救助上の恩恵も失われる。船主は難しい選択を迫られている。
■石油市場は即座かつ明確に反応
北海ブレント原油先物は23日に7%超上昇し、1バレル100ドルを突破した。日中高値は約101ドルに達し、終値は100.69ドルとなった。WTIも約6.2%高の92.19ドルとなり、6月初旬以来の高値で取引を終えた。これで5営業日連続の上昇となり、ブレントは7月初めの約72ドルから、7月だけで30%以上値上がりしている。
Pepperstoneのリサーチストラテジスト、アフマド・アシリ氏は、市場が第二のチョークポイントで供給が途絶する可能性を織り込みつつあるため、原油価格の目先の見通しは引き続き底堅いと述べた。ANZグループ・ホールディングスのシニア・コモディティ・ストラテジスト、ダニエル・ハインズ氏は、今回の攻撃を「深刻なエスカレーション」と表現し、供給逼迫は「さらに悪化する一方だ」と警告した。
ゴールドマン・サックスは今週の事態悪化に先立ち、ホルムズ海峡の混乱が続けば、第4四半期にブレントが1バレル120ドルを超える可能性があると予測していた。バブ・エル・マンデブでも実際に攻撃が起きたことで、その水準に達する可能性はより現実味を帯びている。RBCキャピタル・マーケッツのグローバル商品戦略責任者ヘリマ・クロフト氏は、地域で全面戦争が起きるシナリオでは、2022年のロシア・ウクライナ戦争時の高値である128ドル、さらには2008年のピークである146ドルに迫る可能性があると指摘した。
キャピタル・エコノミクスの気候・コモディティエコノミスト、ハマド・フセイン氏はCNNに対し、「この1週間の動き——フーシ派によるバブ・エル・マンデブの海上封鎖、ホルムズ海峡経由の原油輸送の停止、そしてウクライナのドローン攻撃によるロシアの輸出ターミナルからのカザフスタン産原油輸送の混乱——のすべてが、ブレント原油価格を1バレル100ドル超に押し上げた」と述べた。米国とイラン、ロシアとウクライナ、フーシ派とサウジという3つの別個の紛争が、同時に3方向から世界の原油供給を圧迫している。
ガソリン小売価格にも、すでに影響が及び始めている。米自動車協会(AAA)によれば、木曜のレギュラーガソリン全米平均価格は1ガロン4.09ドルとなり、1週間で15セント上昇した。これは、原油価格が最後に100ドルを継続的に上回っていた2022年夏の水準への回帰を意味する。原油はガソリン小売価格の半分以上を占めるうえ、値上がりは値下がりより速く反映される、いわゆる「ロケットと羽根」効果がある。このため、ブレントがさらに上昇すれば、数日以内に米国のドライバーが支払う価格にも反映される。
■トランプ氏はイランを威嚇、ルビオ氏はフーシ派を「だまされている」と表現
ドナルド・トランプ大統領は木曜、Truth Socialに投稿し、フーシ派によるさらなる船舶攻撃についてイランに直接責任を負わせると述べ、テヘランとフーシ派の双方に「重大な軍事的懲罰」を科すと威嚇した。Axiosとの別のやり取りでは、イランに対する大規模な戦闘作戦の再開を検討しており、「決断は近い」と語ったと報じられている。
マルコ・ルビオ国務長官は東南アジアで開かれた外交会合で、テヘランが持続的な和平合意を受け入れるまで、イランが支払う代償は「毎晩さらに高くなる」と述べた。ルビオ氏は別の発言で、フーシ派を「だまされている」と表現し、攻撃を停止するよう要求した。米中央軍(CENTCOM)によれば、米軍はイランの標的に対する攻撃を12夜連続で実施し、ミサイル貯蔵施設、ドローン関連施設、沿岸監視インフラを攻撃した。
この姿勢は、米国の戦略が抱える矛盾の拡大を反映している。米軍の攻撃は、船舶を脅かすイランの能力を低下させることを目的としている。しかし同時に、テヘランから一定の自律性をもって行動するフーシ派が、自らの封鎖を正当化する理由として利用している地域的な圧力を高めている可能性がある。
国際社会による自制の呼びかけは、引き続きほとんど効果を上げていない。パキスタンのシャバズ・シャリフ首相はタンカー攻撃を非難し、イラクのアリー・アル・ザイディ首相は対話を求めてテヘランを訪問した。匿名を条件に語ったアラブ外交官は、湾岸諸国は「出口を見つけることについて、ますます悲観的になっている」と述べた。これに対しルビオ長官は、イランは合意を求めて「毎日のように懇願している」が、成立した合意を繰り返し破ったり、修正しようとしたりすると主張した。
■イランにとっての「第二のチョークポイント」の戦略的意味
国際危機グループ(ICG)のイエメン担当上級アナリスト、アフメド・ナギ氏はAP通信に対し、米国の空爆が激化している現時点では、フーシ派による事態のエスカレーションがテヘランに直接的な利益をもたらすと述べた。「イランの視点からすれば、地域内に新たな圧力点を設けることで、より大きな交渉力を得られる。フーシ派は、世界で最も重要な海上チョークポイントの一つに対する影響力をテヘランにもたらしている」
武力紛争に関する国際法上、フーシ派による封鎖がどのような地位にあるかについては見解が分かれている。海上武力紛争に適用される国際法に関するサンレモ・マニュアル(1994年)は、承認された交戦当事者による合法的な封鎖を規律する。しかし、フーシ派は承認された国家ではない。このため、フーシ派による封鎖宣言の法的有効性は曖昧であり、中立国の旗を掲げる船舶への攻撃は、合法的な封鎖に通常認められる法的正当化の範囲外となる可能性がある。
また、米国がイランの電力インフラを攻撃した場合には、バブ・エル・マンデブの閉鎖を検討するよう、イラン指導部がフーシ派に指示したとの報道も出ている。トランプ氏が7月15日にイランの電力網を攻撃すると威嚇したことを受け、その一線はすでに越えられた可能性がある。アルジャジーラが報じたサヌア拠点のジャーナリストによれば、フーシ派の目的は、フーシ派支配地域の港湾と空港に対する禁輸をリヤドに解除させることだという。これは米国とイランの戦争とは別の二者間の要求であり、ワシントンとテヘランが停戦しても解決しない。フーシ派は、この封鎖をサウジによる「12年間のイエメン包囲」への報復と位置づけている。
この構造的な相違こそが、現時点における中心的な戦略リスクである。米国とイランが停戦すれば、理論上はホルムズ海峡が再開される可能性がある。しかし、それだけではバブ・エル・マンデブを再開させることはできない。フーシ派とサウジの対立には、独自の要因、独自の時間軸、独自の要求があるためだ。
■両海峡が閉じたらサウジはどう原油を出すのか
端的にいえば、極めて困難で、多額のコストがかかる。
フーシ派による封鎖の実行によって、サウジがヤンブーからの出荷を断念せざるを得なくなれば、輸出ルートの選択肢は極めて限られる。ペトロラインで運ばれた原油を北上させてスエズ運河経由で輸送するか、別のターミナルから、より長い喜望峰回りのルートで欧州やアジアの市場へ運ぶ必要が生じる。これによって航海期間は数週間延び、1航海当たり数十万ドルの追加費用が発生する。そのコストは世界のエネルギー価格に直接反映される。
サウジは2018年にも同様のフーシ派による攻撃を受け、バブ・エル・マンデブ経由の出荷を停止したことがある。海軍が船舶の安全を保証できるようになってから出荷を再開したが、操業上の圧力により、停止期間は約2日間にとどまった。現在の状況では、陸上に配備され、運用に海上戦力を必要としないフーシ派の対艦弾道ミサイルを、確実に無力化できる能力を示した海軍部隊はない。
複数の紛争地域にまたがる複合的な影響は深刻だ。ウクライナによるロシアの輸出ターミナルへのドローン攻撃はすでに、カスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)の黒海ターミナルを経由するカザフスタン産原油の輸送を混乱させている。カザフスタン産原油の80%は同ターミナルを経由する。ロシアの製油所での混乱によって供給が減少したため、欧州のディーゼル精製マージンも7月中旬に過去最高を記録していた。オブザーバー・リサーチ・ファウンデーション中東の調査によれば、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブが同時に閉鎖されるシナリオでは、世界の貿易のうち1日当たり約100億ドル相当が影響を受け、世界の石油供給の約30%が遮断される。
UBSのストラテジスト、ジョバンニ・スタウノヴォ氏は、市場の状況を次のように総括した。緊張の継続と供給途絶リスクの拡大によって、価格リスクは「上方向に偏っている」という。
■注目ポイントQ&A
●バブ・エル・マンデブ海峡とは何か、なぜ木曜の攻撃で原油が100ドルを超えたのですか。
バブ・エル・マンデブはアラビア半島南端にある幅約32キロメートル(20マイル)の海峡で、紅海とアデン湾を結んでいます。米エネルギー情報局(EIA)によれば、世界の海上石油貿易の約1割と、世界のコンテナ輸送の約4分の1がこの海峡を通過しており、スエズ運河へ出入りするにはここを通る必要があります。今回の攻撃が重要なのは、バブ・エル・マンデブがホルムズ海峡と並行する代替ルートではなく、サウジが構築したホルムズ海峡迂回ルートの出口だからです。ここが閉じれば、単に第二のルートが脅かされるのではなく、2月以降サウジの原油輸出を維持してきた唯一のルートが脅かされます。
●フーシ派はどのようにして標的タンカーを識別しているのですか。
主な手段は、公開されている船舶自動識別装置(AIS)のデータです。AISは、総トン数300トン超の商船に国際海事法上の搭載・運用が義務付けられている船舶追跡システムで、船舶の識別情報、目的地、位置、針路をVHF電波で継続的に発信します。フーシ派はAISの目的地データとサウジの港湾寄港記録を突き合わせ、サウジに向かう船舶を特定しています。米海事局は紅海の船舶に対し、標的となるリスクを下げるためAIS発信を最小限に抑えるよう明示的に勧告しています。ただし、それによってAISがもたらす航行安全や捜索救助上の恩恵も失われます。今週、フーシ派による脅威が高まるなか、バブ・エル・マンデブ海域にいた2隻がAISトランスポンダーを停止しました。
●ホルムズとバブ・エル・マンデブの双方が事実上閉鎖された場合、原油価格はどうなりますか。
2024年の両海峡の通航データに基づけば、世界の石油・ガス供給の約25~30%へのアクセスが遮断されます。ゴールドマン・サックスは、ホルムズ海峡の混乱だけが続いた場合でも、第4四半期にブレントが1バレル120ドルを超える可能性があると予測していました。RBCキャピタル・マーケッツは、最悪の場合の地域全面戦争シナリオでは、2022年の高値である128ドルや、2008年の最高値である146ドルに迫る可能性を指摘しています。現在の米国の消費水準では、ブレントが1バレル当たり10ドル上昇した状態が続くごとに、ガソリン小売価格は1ガロン当たり約24セント上昇する計算です。原油価格はすでに7月初旬の水準から28ドル以上上昇しています。
●旅行者や企業はさらなる燃料価格上昇に備えるべきですか。
現在の動向に基づけば、備えるべきです。23日の全米平均価格である1ガロン4.09ドルには、バブ・エル・マンデブを巡る脅威が市場で織り込まれ始めた影響が、すでに表れています。小売燃料市場には「ロケットと羽根」と呼ばれる非対称性があり、原油価格の上昇はガソリン小売価格に速く反映される一方、下落の反映には時間がかかります。EIAが23日の攻撃前に公表した7月の短期エネルギー見通しは、第3四半期のガソリン平均価格を現在の全米平均より大幅に低く予測しており、この予測はほぼ確実に現状に合わなくなっています。紅海経由の輸送に依存するサプライチェーンを持つ企業は、1航海当たり2~3週間長くなる喜望峰回りのルートと、紅海およびアデン湾を通過する船舶の保険料が引き続き上昇する事態の双方に、積極的に備える必要があります。
元記事: Red Sea Tanker Strikes Push Brent Past $100, Trapping Saudi Arabia Between Two Blocked Chokepoints
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク

