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OpenAIの1兆ドルIPO計画に暗雲、アップル提訴と巨額赤字、競合の黒字化が迫る試練

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OpenAIが目指す歴史上最大規模の新規公開株(IPO)計画が、重大な局面を迎えている。アップルによる営業秘密侵害の提訴、2026年に140億ドル(約2兆2680億円)に達すると予測される巨額の年間赤字、そして競合Anthropicの台頭など、複数の課題が浮上した。これまで非公開市場の熱狂に支えられてきたAI業界は、2026年、法廷や株式市場、そして臨床試験の現場という現実の舞台で、その真価を問われることになる。
■アップルの提訴がIPOに与える重大なリスク
アップルは2026年7月10日、OpenAIと同社のチーフ・ハードウェア・オフィサーであるタン・ユー・タン氏、および元アップルの電気エンジニアであるチャン・リウ氏を相手取り、営業秘密の窃盗を訴える41ページに及ぶ訴状をカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に提出した(事件番号:5:26-cv-07078)。この提訴は、OpenAIがIPO申請を公表したわずか数週間後という、極めて戦略的なタイミングで行われた。
訴状によると、OpenAIは昨年、元アップルのデザイナーであるジョニー・アイブ氏のスタートアップ「io Products」を約65億ドル(約1兆530億円)で買収し、独自のAI搭載デバイス開発を進めていた。その過程で、アップルでiPhoneやApple Watchの製品デザイン担当バイスプレジデントを24年間務めたタン氏が、退職前にアップルのサプライヤー情報を自身にメール送信したほか、面接時にアップルの社内プロジェクトコードネームを用いて機密情報を引き出したとされる。また、2026年初頭にOpenAIに移籍したリウ氏は、アップル支給のノートPCを返却せず、認証バグを利用して未発表製品の技術仕様を含む多数の機密ファイルをダウンロードしたとされている。
アップルは2026年2月にOpenAIへ警告書を送付したが回答が得られず、5カ月後の提訴に至った。アップルは仮処分を求めており、これが認められればOpenAIのデバイス事業は出荷前に差し止められる可能性がある。予測市場では、OpenAIの2026年内のIPO実現確率が、提訴後の数日間で約22%から約18.5%へと下落した。なお、OpenAIは「他社の営業秘密には関心がない」とし、自社技術の開発に注力しているとコメントしている。
■売上成長を上回る巨額の赤字と構造的課題
OpenAIの財務状況は、売上こそ急成長しているものの、それを上回るペースでコストが膨らんでいる。同社は2026年に月額約20億ドル(約3240億円)の売上を計上しており、これはアルファベットやメタが同等の成長ステージにあった時期を上回るペースとされる。法人顧客からの売上は全体の40%以上を占め、年末までに消費者向け売上と同等になる見通しだ。
しかし、2026年の年間赤字は140億ドル(約2兆2680億円)に達すると予測されている。フィナンシャル・タイムズが確認した2025年の監査済み財務諸表によると、売上130.7億ドル(約2兆1173億円)に対し、純損失は38.5億ドル(約6237億円)だった。この差は営業損失に加え、非営利法人から営利目的のパブリック・ベネフィット・コーポレーション(便益企業)への転換に伴う非資金費用を反映している。内部予測では、累積損失は2029年までに1150億ドル(約18兆6300億円)に達し、黒字化は2030年代まで見込めないとされている。HSBCのアナリストは、楽観的なシナリオであっても、同社が2030年までにさらに2070億ドル(約33兆5340億円)以上の追加資金を必要とする可能性があると試算している。
この巨額赤字は一時的なものではなく、構造的な問題に起因する。OpenAIの規模で大規模言語モデル(LLM)を運用するには、GPUクラスター、データセンター、そして膨大な電力など、継続的かつ巨額の計算資源コストが必要となる。AI推論の提供コスト低下のペースは、ユーザーが支払うトークン単価と、そのトークンを計算するコストのギャップを埋めるほど速くはない。2026年3月の資金調達ラウンドにおける非公開市場での評価額852億ドル(約13兆8024億円)に基づくと、同社は2025年売上の約65倍で取引されていることになり、これは歴史的なテック企業のIPO基準をはるかに上回る。公募市場の投資家は、この倍率が妥当であるか、そして赤字幅がいつ縮小するのかを厳しく見極めることになる。
さらに、競争環境も厳しさを増している。シミラーウェブ(Similarweb)のデータによると、過去12カ月間でグーグルのGeminiのウェブトラフィックシェアが5.7%から21.5%に拡大した一方、ChatGPTは86.7%から64.5%に低下した。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、OpenAIは2026年を通じて週次アクティブユーザー数および月次売上の社内目標を達成できなかったと報じられている。
■競合アンスロピックの黒字化が突きつける基準
OpenAIのIPO評価額は、競合の動向と切り離して考えることはできない。元OpenAIの研究者らによって設立されたAIスタートアップのアンスロピック(Anthropic)は、OpenAIより1週間早い2026年6月1日にSECへS-1(目論見書)を秘密裏に提出し、早ければ2026年10月の株式公開を目指している。同社は5月下旬に評価額965億ドル(約15兆6330億円)で65億ドルのシリーズH調達を完了し、非公開市場の評価額で一時的にOpenAIを上回った。
アンスロピックの2026年第2四半期の売上予測は10.9億ドル(約1765億円)と、第1四半期の4.8億ドル(約777億円)から倍増し、同四半期に約5.59億ドル(約905億円)の初の営業黒字を計上する見通しを示している。もしアンスロピックが10月に965億ドル規模の評価額で上場すれば、その売上マルチプル(倍率)が、その後に上場するOpenAIの評価基準(分母)となる。
ただし、アンスロピックの黒字化には留意すべき点がある。アナリストの指摘によると、第2四半期の黒字はスペースX(SpaceX)との計算資源契約における段階的割引(月額12.5億ドルの契約で、本格的なコスト発生は黒字報告の翌四半期以降)が影響している。つまり、この営業黒字は契約のタイミングによる一時的な側面があり、現在の規模で推論ビジネスが構造的に黒字化した証明とは言えない。アンスロピック自身も、黒字が通年で維持できない可能性があるとしている。それでも、具体的な黒字額を示したアンスロピックに対し、OpenAIはそれを示せていないという事実は、投資家にとって重要な比較材料となる。
■サム・アルトマン氏がこだわる「1兆ドル」の代償
2026年6月下旬、OpenAIのアドバイザーらはサム・アルトマンCEOに対し、「2026年後半に低い評価額で上場するか、1兆ドル(約162兆円)の評価額を目指して2027年まで待つか」という選択肢を提示した。アルトマン氏は評価額の引き下げを拒否し、同社は2027年のIPOへ傾いているとされる。予測市場のカルシ(Kalshi)では、2027年3月1日までにOpenAIがIPOを正式発表する確率を約59%、2027年6月までには73%と予測している。
この上場延期の代償は一様ではない。OpenAIに約65億ドルを投じ、マイクロソフトに次ぐ約13%の株式を保有する第2位の外部株主であるソフトバンクグループ(SBG)は、この出資資金を賄うために2027年3月返済期限の40億ドル(約6480億円)のブリッジローンを組んでいる。OpenAIの上場延期は、SBGにとって債務償還に向けた流動性イベントの機会を遅らせることを意味する。S&Pグローバル・レーティングは2026年3月、OpenAIへの集中リスクを理由にSBGの格付け見通しを「ネガティブ」に引き下げた。上場延期の報道が流れた6月26日、ソフトバンクグループの株価は一時13%下落した。
サラ・フライアーCFOは、将来のインフラ投資コミットメントが約6000億ドル(約97兆2000億円)に上ることや、公開企業としての報告基準を満たす必要があることから、以前から周囲に2027年上場のタイムラインを示唆していた。彼女の見解とアルトマン氏の「1兆ドル」へのこだわりのギャップは、シリコンバレーにおける今年最も重要な内部対立の一つであったが、最終的にアルトマン氏の主張が通った形だ。
■アップルのApp Store違法評決抗告、iOSを超えた影響も
OpenAIとの訴訟とは別に、アップルはエピックゲームズ(Epic Games)との長年にわたる反トラスト法(独占禁止法)紛争において、司法妨害(侮辱罪)の認定に対する抗告を行っており、連邦最高裁判所は2026年6月30日にこの審理を行うことを決定した。この裁判の行方は、iOSだけでなくすべてのアプリプラットフォームの決済手数料ビジネスを再定義する可能性がある。
イボンヌ・ゴンザレス・ロジャース判事は2021年、iOSは違法な独占ではないとしつつも、アップルが開発者に対して安価な外部決済オプションへのリンク掲載を禁止することを防ぐ差し止め命令を下した。アップルは外部リンク経由の購入に27%の手数料を課すことで対応したが、同判事は2025年4月、これが差し止め命令の要件に意図的に違反しているとして民事不服従(侮辱)と認定した。第9巡回区控訴裁も2025年12月にこの判断を一部支持している。
最高裁が判断する法的論点は、「企業が差し止め命令の『精神』に違反したことで侮辱罪に問われるか、それとも命令の『具体的な文言』で明示的に禁止された行為のみが対象となるか」という点だ。もしアップルに有利な判決が出れば、企業は技術的な回避策を見つけやすくなり、逆にエピックに有利な判決が出れば、裁判所はプラットフォームの行為に対してより広範な是正権限を持つことになる。判決は2027年6月までに下される見通しだ。
■AI創薬の「信頼性のギャップ」が示す現実
2026年にAI業界が直面しているもう一つの検証は、AIデザインによる医薬品候補が臨床試験の「フェーズ3(第3相試験)」に到達したことだ。初期の試験結果は、AIが初期段階の創薬において極めて有効なツールである一方、最も巨額の資金が失われる臨床試験の後期段階においては、現時点で決定的な要因になっていないことを示している。
初期段階における効率化は本物だ。アブシ(Absci)などの企業は、従来の手法よりもはるかに少ない設計数のスクリーニングで有効な抗体候補を特定するワークフローを開発した。インシリコ・メディシン(Insilico Medicine)は、標的の選定から臨床試験が可能な候補物質の特定までを、従来の数分の一のコストと約18カ月という短期間で達成したと報告している。
しかし、有望な分子を設計することは、創薬プロセス全体において最もコストがかかる部分ではない。新薬を市場に投入するために必要な約26億ドル(約4212億円)の大部分は、臨床試験とその中での失敗に費やされる。ボストン コンサルティング グループ(BCG)の分析によると、AIが発見した分子のフェーズ1(安全性試験)における成功率は80〜90%と業界平均を大きく上回ったが、実際の患者を対象に有効性を検証するフェーズ2では成功率が約40%に急落し、業界の従来平均と同等にとどまった。
この理由は生物学的な根本問題にある。AIツールは、計算モデル上で分子が特定の標的タンパク質に結合するかどうかを予測することには優れているが、結合することと、生体内で望ましい治療効果をもたらすことは同義ではない。このシミュレーション(in silico)と生体内(in vivo)のギャップこそが多くの医薬品候補が脱落する原因であり、現在のトレーニングデータセットではまだ再現しきれない生物学的な複雑さが存在している。
ゴールドマン・サックスは、AIによる創薬支援の現在価値が、前臨床期間の短縮と初期コストの削減によって今後10年間で4000億ドル(約64.8兆円)に達すると試算している。しかし、これは初期探索段階のメリットに基づくものであり、フェーズ2やフェーズ3の成功率向上を示す証拠はまだない。市場予測では、AI創薬セグメントは2025年の約50億〜70億ドルから、2026年には約80億〜100億ドル(約1兆2960億〜1兆6200億円)規模に成長するとみられているが、初期の熱狂を正当化するほどの臨床結果はまだ得られていない。
■注目ポイントQ&A
●アップルによる提訴はOpenAIのIPOを阻止することになりますか?
自動的にIPOが阻止されるわけではありませんが、目論見書(プロスペクタス)に重大な法的リスクとして記載する義務が生じるため、プロセスは複雑化します。アップルは仮処分によるデバイス事業の差し止めも求めており、これが認められれば大きな打撃となります。また、2026年に予測される140億ドルの赤字や競合の黒字化といった逆風の中で、投資家への説明がさらに難しくなることは確実です。
●なぜアンスロピックの黒字化がOpenAIの投資家にとって重要視されるのですか?
同じエンタープライズ顧客を奪い合う2社において、先に上場する企業の売上マルチプル(倍率)が、後から上場する企業の評価基準になるためです。アンスロピックが2026年10月に高評価額で上場できればOpenAIの追い風になりますが、下回ればOpenAIの評価額の天井も押し下げられます。ただし、アンスロピックの第2四半期の黒字には契約上の割引という一時的要因も含まれており、真の構造的黒字化については第3四半期以降の結果を見る必要があります。
●2026年のAI業界における「検証の瞬間」とは何を意味していますか?
これまで非公開市場での資金調達や製品マーケティングにおいて、検証なしに受け入れられていた「AIの可能性」という主張が、公募市場、連邦裁判所、臨床試験プロトコルといった「客観的な証拠」を求められる厳しい環境で一斉にテストされていることを意味します。いずれのケースでも、事態は当初の楽観的なストーリーよりも複雑であることが明らかになりつつあります。
元記事: OpenAI’s $1 Trillion IPO Bet Faces Apple Lawsuit, Market Doubt, and Rival’s Profit
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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