川崎重工、防衛政策追い風で成長期待 指名停止懸念は株価の重荷に

2025年12月21日 18:04

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 川崎重工業の橋本康彦社長は17日の会見で、防衛事業の売上高見通しが従来想定を上回る可能性があるとの認識を示した。

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 防衛装備品需要が堅調に推移していることに加え、高市政権の下で防衛政策の方向性が明確になり、事業環境の予見性が高まっていると指摘。防衛投資の継続性が見通せることが、受注拡大と中長期的な業績安定につながるとの見方を示した。

 川崎重工は航空機、艦艇、潜水艦関連機器、ミサイル関連装備などを手がける国内有数の防衛関連企業で、防衛省向け案件が事業の中核を占める。日本政府が防衛力整備を国家的課題として位置付ける中、装備品の更新需要や能力強化投資が拡大しており、同社の防衛事業は計画を上回るペースで推移しているという。

 背景には、日本を取り巻く安全保障環境の緊張がある。東シナ海や台湾海峡を巡る中国の軍事的動きが活発化する中、日本政府は抑止力強化を重視し、防衛費の安定確保と中長期防衛力整備計画の実効性を一段と高めている。

 高市政権が掲げる防衛政策では、単年度予算に左右されにくい枠組みが重視され、防衛関連企業にとっては複数年にわたる受注や設備投資を前提とした経営判断が可能になりつつある。

 防衛事業は研究開発負担が大きい一方、契約の安定性が高く、景気変動の影響を受けにくい特性を持つ。地政学リスクの高まりを背景に、防衛関連支出は構造的な拡大局面にあり、中国を含む周辺国の軍事動向が続く限り、防衛力整備の重要性が後退する可能性は低いとの見方が市場では根強い。

 中長期的にみれば、防衛産業全体の成長が同社の業績を押し上げ、株価にもプラスに作用するとの期待は崩れていない。

 一方、足元では短期的な懸念材料も浮上している。海上自衛隊の潜水艦用ディーゼルエンジンを巡り、燃費性能に関するデータが改ざんされていたとして、防衛省が川崎重工に対し指名停止を検討している可能性があると報じられ、これを受けて株価は大きく下落した。

 報道によれば、防衛省は装備品契約における性能データの信頼性が損なわれた点を重くみており、契約不履行が横行していたとの判断から、指名停止処分に向けた調整を進めているという。

 指名停止が実施された場合、防衛省向けの新規受注が一定期間制限される可能性があり、短期的には受注動向や業績への影響が意識されやすい。

 市場では、既存契約への影響は限定的との見方がある一方、指名停止の有無や期間が明確になるまで、株価の上値は抑えられやすいとの慎重な声も出ている。防衛政策の明確化という中長期の追い風がある一方で、短期的には行政判断を巡る不透明感が重荷となる構図だ。

 防衛費拡大と装備品調達の継続が見込まれる中、川崎重工業の防衛事業は成長性と安定性を兼ね備えた分野としての評価を維持している。長期的には防衛産業拡大の恩恵を受ける期待が持てる一方、当面は指名停止問題の行方が株価の上値を左右する局面が続きそうだ。(記事:Osaka Okay・記事一覧を見る

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