日鉄のUSS買収で注目される黄金株

2025年6月16日 15:59

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●トランプ大統領が条件付きで承認

 トランプ米大統領は13日、日本製鉄によるUSスチール(USS)買収の大統領令に署名し、国家安全保障協定を締結すれば、100%子会社化の買収計画を承認する見通しであることを示した。

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 バイデン前政権の決定を覆したUSS買収承認の条件は、黄金株だった。黄金株は国家安全保障協定に含まれる。

 この黄金株の内容によっては、日鉄にとっては大きな足かせになる可能性もある。USS買収劇は、双方にとって前向きな合意となったのだろうか?

●黄金株とは?気になる中身

 黄金株は、株主総会や取締役会において、重要議案を拒否出来る特別な株式で、拒否権付き株式とも言う。例えば資源開発大手のINPEXは、エネルギー安全保障の観点から日本政府が黄金株を保有している。

 かねてトランプ氏は、「これは投資であり、部分的な所有だ。米国が支配することになる」と発言し、100%子会社化は容易ではないことが予想出来た。

 黄金株によって、米国政府が強い影響力を行使出来ることが確認出来たことで、承認されたと見られる。

 米国政府の拒否権は明らかにされていないが、ラトニック商務長官が明らかにした黄金株の内容は、本社移転や社名変更の他、140億ドル(約2兆円)の設備投資の削減・撤回・延期や生産・雇用の国外移転、工場の閉鎖・休止などの拒否権が含まれると言う。

●黄金株が経営の足かせに?

 トランプ政権は、公約である国内産業が保護出来、日鉄の米国事業にとっては、安い鉄の輸入を阻止出来ることから、双方にとって利害関係が一致している。

 ただUSSの経営に米国政府が介入することを認めており、米政府の方針に左右されることを認めたことは、不平等条約との声も聞かれる。

 リストラ権を放棄したに等しく、生産削減や従業員の削減が必要となった時に足かせになりかねない。

 しかし、これまでの交渉にリストラはしない、生産は維持、社名は残すことは元から合意されており、米政府からの強い圧力は無かったと思われる。

 人口とGDPが成長している米国で、高級鋼材の需要は増加が期待され、トランプ関税によって中国からの安い鋼材が入ってこないことなど、買収のメリットは大きい。

 データセンター建設などの需要がこれからも続くことが、USS買収成功のカギとなるだろう。(記事:森泰隆・記事一覧を見る

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