シリコンバレー銀行破綻による、ALM見直しへの期待

2023年3月24日 16:02

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 シリコンバレー銀行が3月10日に破綻し、2日後にはシグネチャー銀行も破綻した。その波は欧州にも波及し、老舗のクレディ・スイスが危機に陥り、UBSによる救済が検討されている。金融機関の危機がグローバルで続くのはリーマンショック以来の事態である。

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 シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻の詳細は、FRB(連邦準備制度理事会)のレポートなどから明らかにされるだろうが、現時点でも原因は、取り付け騒ぎによって資本不足を引き起こしたことにあったと言えるだろう。

 背景には、真偽の定かではない特定の意見がSNSを通じて一瞬にして「事実」のように語られるようになったことや、オンラインバンキングの進展による資金移動のしやすさもあるだろう。だが根底にはALMの失敗がある。

 ALMとは、銀行のように預金を預かる金融機関(保険会社の場合は保険払込金)に対するリスク管理の手法で、資産(Asset)と負債(Liability)を統合して管理することを指す。市場金利や為替、有価証券価格の変動に対しシミュレーションを行い、適切なリスク管理を図る銀行経営の基本とも言うべきものだ。

 今回のケースでは、シリコンバレー銀行はFRBによる金利引き上げにより債券運用で評価損が発生していたことに加え、顧客は、預金引き出しの早い起業家や富裕層がメインだった。そのため個別状況を考慮したバランスシートになっているべきであったが、その管理が不十分もしくは出来ていなかったということだろう。これを見過ごした監督官庁にも問題の責任の一端はあると言える。

 一方で、シリコンバレー銀行の破綻は、アメリカの金融機関全体の危機を招くようなシステミックリスクには陥っていない。これは、リーマン・ブラザーズに比べてシリコンバレー銀行の規模が大きくないこともあるが、リーマンショック以降適用された「バーゼルIII」規制に拠るところがある。

 「バーゼルIII」規制では、1つの金融機関の破綻が連鎖しないよう、大手金融機関には一定程度の流動性を確保することを課している。具体的には、流動性の高い普通株式と過去の利益の積み重ねで構成される「CET1」と呼ばれる自己資本部分の保持水準を定めている。これによりシステミックリスクの発生確率は下がり、実際今回のケースで初めてその有効性が検証されたことになるだろう。

 FRBがシリコンバレー銀行の預金全額保護の声明を出し、信用不安の払拭に努めてはいるが、ALMの管理が杜撰であれば今後も同様の破綻が続く可能性を否定できない。

 「バーゼルIII」を規定するバーゼル委員会は欧州に本拠を置くが、システミックリスクを考慮して、新たに「預金引き出し」に対するリスク管理強化に動くことも想定される。これを機に、ALMが過去からのなあなあの踏襲となっていないか、最近のマーケット動向を適切に反映できているのか、といった観点で日本を含む金融機関において見直しが進むことを期待する。(記事:Paji・記事一覧を見る

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