任期満了目前にして、余りに静かな日銀の黒田総裁 悟った訳では無かろうが?

2022年12月16日 17:00

印刷

 日本銀行は黒田東彦氏が総裁に就任した13年4月に、大胆な「量的・質的金融緩和」策を実施した。翌14年3月20日に日本商工会議所で行った黒田総裁の講演、「なぜ2%の物価上昇を目指すのか」が、日銀の HPに掲載されている。

【こちらも】キャッシュレスの進展で、意気上がるコード決済とクレカ、黄昏れる銀行 (下)

 旧日本軍が戦力の損耗を恐れて小出しにしたことが、敗戦の理由の1つに挙げられれいることを意識してか、「戦力の逐次投入はしない」と大見えを切って始めた「量的・質的金融緩和」策だったが、1年後の講演にもその高揚感は色濃く打ち出されている。

 尤も、一気にゼロ金利にまで突き進んでしまったため、その後に追加的な対策が必要になっても「撃つ弾がない」状態に陥った。窮余の策として初めての「マイナス金利」導入に追い込まれ、潤沢な融資先を持たない民間金融機関の中には、預金を「忌避」するところが出たと話題にもなった。

 13年に日銀が「インフレターゲット」として、2%のインフレ目標を設定したと耳にした時の違和感は、今も消えない。古来物価の上昇は社会的な騒乱や動揺の原因となっていたから、為政者が物価の上昇に「何%以上という目標を定める」ことはあり得ないことだ。

 インフレに関する目標を設定するのであれば上限を設定して、その上限を超えないことが政策目標だった。例えば、物価の騰勢が激しくて何とかしなければならない時、インフレ率が「○%」を超えないように努力するというのが、本来のあるべき姿なのである、

 黒田総裁は講演の中で「14年度の終わり頃から15年度にかけて、『物価安定の目標』である2%程度に達する可能性が高いと考えています」と述べている。いくら高揚感があったとしても、その後8年間も鳴かず飛ばずの状態続いていることを考えると、その当時の洞察力に疑問を持たれてもやむを得まい。

 黒田総裁はインフレ率2%を「グローバルスタンダード」であると力説しているが、国際金融の世界ではニュージーランド連銀総裁の失言がインフレ率2%の始まりであるとの説が有力だ。その後カナダが続いて各国が採用したため、何となくスタンダードっぽくなったというのが実体のようだ。

 中国におけるゼロコロナ政策の歪みが経済活動の停滞を招き、ロシアのウクライナ侵攻という誰もが予想もしない事態により、今まですくみあっていたタガが外れたかのような値上げラッシュが続いている。

 2%のインフレ目標は充分達成したはずだが、賃金上昇はまだこれからだ。もちろん、これから賃金上昇が続くことが望ましいことは、言うまでもない。そのためにインフレ目標を達成しても、すぐに金融引き締めは行わない、という意見も理解はできるだろう。

 日銀は、「今のインフレは、賃金の上昇を伴わない悪いインフレ」だからと、当面は静観する考えのようだ。インフレに良いインフレと悪いインフレがあると、初めて知った人も多いだろう。

 現状のインフレが「悪いインフレ」であれば、尚更静観してはいけないのではいか、との考えもあるだろう。

 日銀はHP上で、「物価の安定」を図ることと、「金融システムの安定」に貢献することが「日銀の目的です」と宣言している。これまで掲げてきたインフレ目標を達成しつつある今、日銀の姿勢が注視される。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事