創業90余年:日本特殊塗料の足元と中計を読む

2022年9月8日 16:03

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 投資雑誌:株主手帳のZoomミーティングで過日、日本特殊塗料(東証プライム)の遠田比呂志社長と財務担当最高責任者の田谷純副会長の話を聞く機会を得た。航空機塗料で創業し、いまは自動車の防音(制振、吸・遮音)材を主軸とする、特色ある塗料メーカーである。

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 誘いを受けミーティングに参加させてもらったのは、そもそも今期の下方修正の「何故」を確認したかったからである。

 前3月期の「14.1%増収、72.6%営業増益、2円増配40円配」を受け、今期は「11.4%増収、102.4%営業増益、2円増配」計画で立ち上がった。だが8月10日に、「続伸」傾向は維持しつつ「10.4%増収(605億円)、65.3%営業増益(24億5000万円)」に下方修正した。

 自動車事業のサプライチェーンの混乱や原材料価格高騰がその理由だが、意地悪な私は「計画積算時の甘さによるものか」と質問した。遠田氏の答えは、真摯だった。「それぞれの自動車メーカーが想定する生産台数や原材料費をベースに、各メーカーが想定する以上のマイナスで積算した。だがそれでも対応できない状況になった。ご案内の通り、値上げも容易ではない状態にある。結果・・・」。

 また「EV時代に移行しようという現実がある。防音材の需要に影響はないのか」という問いにも、前向きな応対を示した。「EV化の進捗で新たな防音材の需要が発現してくると捉えている。これまではエンジン音にマスキングされていた(消されていた)、耳慣れない音だ。EV時代のそうした新たな防音対策に関する製品開発も進めている」。

 田谷氏からは、こんな話を聞いた。株主対応策だ。「安定配当+αが基本」とした上で、「配当性向30%を常に目標としている」。ちなみにミーティング当日の日本特殊塗料株の終り値は957円。予想税引き後配当利回り3.5%強。投資妙味は覚える。が、予想PER7.70倍、同PBR0.47倍。投資家を惹きつけている、とは言い難い。

 同社は大きな課題を背負っている。プライム市場上場の必須要件のうち「流通株式時価総額(100億円)」の実現だ。

 進行中の中計の最終年度:2025年3月期までの達成を公約している。田谷氏は、「配当政策の徹底遂行に加え、中計で掲げた収益目標数値の達成が不可欠と認識している」とした。具体的には「売上高650億円(今期計画比7.4%強)、経常利益61億円(52.5%増)」。現段階では「見守りたい」としか言えない。

 ただ同社が事業拡充・持続可能な企業に向け、前向きな歩みを進めていることは紛れもない事実。例えば注力分野として「土木分野(の防水材)」を掲げている。道路公団や建設業界がビジネスの対象となるが、遠田氏は「今期、専門部署を発足させた」とした。

 株式投資の対象としてはどうか。株価は、過去9年半余で分割等を勘案した修正値ベースで2.65倍のパフォーマンスを残している。中長期構えで取り組む株と言えよう。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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