ガン領域の伸長が収益動向のカギとなる大手製薬企業の、内情を覗く

2022年6月15日 16:19

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 大手製薬の前3月期決算を振り返って「制癌剤」が収益動向の依然として牽引役だと実感した。

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 例えば、アステラス製薬(東証プライム)。前3月期は「3.7%増収(1兆2961億6300万円)、14.4%営業増益(1556億8600万円)、2.9%最終増益(1240億8600万円)、8円増配50円配」。そして今期も「11.3%の増収(1兆4430億円)、72.8%の営業増益(2690億円)、67.6%の最終増益(2080億円)、10円増配60円配」計画。

 アステラスは前期のガン領域で売上高6015億円と業界トップ。総売上高比で2分の1近くを占めた。決算資料を繰ってみても、こんな結果が記されている。『イクスタジン(除去不能な前立腺がんの治療薬)』が前々期比16.6%増の5343億円と大型化した。

 また『ゾスパタ(急性白血病治療薬)が42.9%増の341億円』『パドセブ(尿路上皮がん治療薬)が69.5%増の217億円』。イクスタジンが斯界で言う「大型医薬品」としての地位を確実にし、ゾスパタ・パドセブが大型化への歩みを強めている。

 業界専門紙:日刊薬業では、こう見通している。「今期は総売上高比率でガン領域は5割を超えよう。(前記の)3品目のうちイクスタジンは1000億円以上の上乗せが見込まれる。そして3品目のピーク時の総売上高は1兆~1兆3000億円が想定される」。見通し通りとすれば、アステラスの当面の収益動向は好調に推移することが濃厚と言える。

 抗がん剤に注力する姿勢は他社も同様。例えば第一三共(同)は「エンハーツ(手術不能or再発乳がん治療薬)」が成長速度を速めている。前期のガン領域は83.3%増(869億円)。今期についても約2倍の1668億円を見込んでいる。更には非小細胞肺がん治療剤(ファーストライン)でグローバルに第III層の臨床試験を開始している。「至26年3月期の中計に掲げているADC(抗体薬物複合体)6000億円以上に向かいスピードを上げる構えだ」(日刊薬業)。

 また前期にガン領域が30%の増収になったエーザイ(同)は周知の通り、認知症治療薬「アデュヘルム」への収益貢献期待が低下する分を「レンビマ(肝細胞がん治療薬)」の伸長計画(2180億円)がカギを握っている。

 ガン領域をこの間高めてきた中外製薬(同)は、ロシュを通じ海外での「アレセンサ(非詳細胞肺がん治療薬)」「ノイトロジン(急性骨髄性白血病等治療薬)」の600億円近い売り上げ目標を公にしている。

 ガン領域の推移が暫くは、大手製薬各社の収益動向を背負うことになりそうである。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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