乾癬の新たな治療薬候補を発見 東大らの研究

2022年5月19日 16:14

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cPLA2εはNAE の産生を介して乾癬を抑える(画像: 東京大学の発表資料より)

cPLA2εはNAE の産生を介して乾癬を抑える(画像: 東京大学の発表資料より)[写真拡大]

 乾癬は皮膚に赤く盛り上がった皮疹ができ、表面の白いフケ状のものがボロボロ剥がれてくる慢性の皮膚疾患だ。東京大学らの研究グループは、体内で作られる脂質が乾癬の症状を抑制することを発見し、その産生を制御するメカニズムを明らかにしたと発表。この研究結果が、乾癬の治療法の1つとなっていくことが期待される。

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 今回の研究は、東京大学大学院医学系研究科の村上誠教授らの研究グループが、東京都医学総合研究所の平林哲也研究員らと共同で実施。研究結果は、4月28日のFASEB Journalに掲載された。

 乾癬は見た目や病名から誤解されやすいが、感染しない慢性の疾患だ。皮膚に症状がでるため人目につきやすく、温泉やプールなど皮膚を出さなくてはならない状況にストレスを感じる患者も多い。従来の乾癬の治療法としては、ビタミンDやステロイドの塗り薬、免疫抑制剤や一部のリウマチの薬、レチノイド製剤などが行われている。また紫外線による光線療法も用いられる。だが症状を完全に抑えるのは、まだまだ難しい病気だ。

 そのような中、近年新しい治療法として生物学的製剤が用いられるようになった。これは血液中の免疫に関わる物質であるサイトカインの働きを抑える薬で、注射や点滴で用いられる。ただし、副作用などに対応できる病院でのみで使用でき、治療費が高額になることなどまだまだハードルの高い治療となっている。

 今回研究グループは、人工的に乾癬の症状を起こしたマウスの皮膚で作られている、脂質の変化を解析。すると脂質の一種で炎症を抑える作用を持つ物質NAEが、乾癬の症状の進行に従って増加していることを見つけた。そしてこれらNAEの産生に関わる酵素のうち、cPLA2εの量が乾癬の症状と相関しており、マウスと人で同様に乾癬皮膚の角質表面で増加していた。

 次に研究グループは、cPLA2εを作れないノックアウトマウスを作成。すると、このノックアウトマウスではNAEの産生量が減少し、野生型のマウスと比べ乾癬の症状が悪化。このことからcPLAεが乾癬の症状を抑えていることを確かめられた。また、NAEを皮膚に塗布したマウスでは乾癬の症状が改善。つまりNAEは、乾癬の症状を改善させることがわかった。

 これらの研究結果から、cPLA2εの働きで産生されたNAEが皮膚の異常な角化を抑え、乾癬の悪化を防ぐ働きをしていることが初めて明らかにされた。今後、cPLA2εやNAEの働きを利用した新たな乾癬の治療法や治療薬の開発につながることが期待される。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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