経済的な火星旅行にクマの冬眠メカニズムを応用 欧州宇宙機関の研究

2022年2月2日 08:03

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ESAが公開した冬眠カプセルのイメージ図。水を含んだ寝具によってクルーは宇宙放射線から保護され、各種センシング機能により健康状態が監視されている。 (c) ESA

ESAが公開した冬眠カプセルのイメージ図。水を含んだ寝具によってクルーは宇宙放射線から保護され、各種センシング機能により健康状態が監視されている。 (c) ESA[写真拡大]

 SF映画では、宇宙船のクルーがカプセルで冬眠するシーンをよく見かけるが、そんな光景が現実となる時代がもう間近に迫っている。欧州宇宙機関(ESA)は1月31日、火星旅行にクマの冬眠メカニズムを応用し、宇宙船のサイズを3分の1として、ミッションコストを大幅に削減するアイデアを発表した。

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 アポロ月面探査の際に用いられた宇宙食は、1日当たりの栄養量が2800kcalで重さ600gだった。これはチューブ入りの味気ないもので、短期間なら我慢できたが、2年間のミッションでは耐えられない。これでも3名のクルーが2年間(730日)に消費する食料は、1.3トンにも及ぶ。但し、飲料水は含まれない。快適生活のための食料や飲料水はこの何倍もの重量になる。

 冬眠でクルーの基礎代謝を通常の25%に抑制できれば、宇宙船に搭載する物資の重量を大幅に削減でき、宇宙船サイズを小さくできる上、火星現地ミッション遂行期間を大幅に伸ばせる。また、長期間航行のクルーの不安やストレスを激減できる。

 但し、人間はそもそも冬眠の習慣も経験もない。長期間人工冬眠状態を作り出すのは容易ではなく、何か参考となる情報源が必要である。そのために最も参考になる動物は、体重の大きなクマだという。

 クマは冬眠時に体温をほんの数度下げるだけで、6カ月間低代謝状態を維持する。しかも筋肉量の減少もごく僅かに留められる。人間の場合、6カ月間寝たきり状態になると、筋肉や骨の強度が大幅に低下し、心不全のリスクが高まってしまい非常に危険だ。

 宇宙では放射線から人体を防御する必要もある。宇宙船の冬眠カプセルは、放射線シールドとして水の採用が想定されている。また体温、姿勢、脈拍などを常にセンシングして健康状態を把握しながら、異常発生時には人工知能が人間の代わりに適切な判断を下して対処できる仕組みが検討されている。

 おそらく近い将来、このような技術で、人類はより遠くの宇宙を目指して旅立てるようになるだろう。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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