物価高に備えよ! 円安・原油高に翻弄される次期政権と、ほくそ笑む黒田日銀総裁 後編

2021年10月13日 17:13

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 アメリカのFRBは、リーマンショック後から大規模な金融緩和を行ったが、コロナ禍前には段階的な利上げも行っており、すでにテーパリング(金融緩和の縮小)が済んでいた状態だ。その後、コロナ禍によって再度大規模な金融緩和を実施することになり、振り出しに戻ったわけだが、強力な金融緩和が功を奏し、株価がV字に回復したことは記憶に新しい。

【前回は】物価高に備えよ! 円安・原油高に翻弄される次期政権と、ほくそ笑む黒田日銀総裁 前編

 それから1年以上が経ち、仮想通貨バブルやロビンフットアプリによるゲームストップ株騒動など、大規模な金融緩和で余剰した資金による副作用が広がるなか、各種経済指標の改善や個人消費の回復を背景に、FRBがテーパリングの議論を加速し始めたのが今年の夏頃である。

 つまり、円安が独歩的に進んでいるわけではなく、FRBのテーパリングをきっかけに、世界中でドル高が進んでいるのである。ユーロ安、ポンド安が進む価格動向だけではなく、海外投資家の売買動向を確認できるシカゴ先物市場の通貨取引建て玉において、ユーロ、ポンド共にロング(買い)からショート(売り)に転じていることからも、ドル高が進んでいることは明らかだ。

 もちろん、円安が進むことで日本の輸出企業は潤う。円安が日本の経済にとってはマイナスではない。懸念すべきは、家計への影響だ。食料自給率の低い日本は、食品を輸入に頼らざるを得ない側面があるため、円安は直接的に物価高につながり家計を圧迫する。

 さらに、ここにきて原油高も止まらない。コロナ禍後には未曽有のマイナス価格となった原油であるが、経済が正常化していくにつれて原油需要が高まり、たったの1年半で1バレル80ドルを超えた。この価格はアベノミクス以前の価格水準であるが、円高であったアベノミクス前に比べ、現在は円安である。原油はガソリンなどの輸送費にも直結するため、物価上昇抑制に対しては二重苦となるだろう。

 さて、アメリカのFRBがテーパリングに舵を切るなか、日銀はなぜアベノミクス以降でテーパリングをしてこなかったのだろうか。それが、日銀の目標とするインフレ率(物価上昇率)2%の安定的上昇である。日本では、いくら金融緩和を継続的に行っても、物価が安定的に上がってこなかったため、金融緩和を続けざるを得なかったというわけだ。

 つまり、円安と原油高で物価高が実現できれば、日銀も堂々とテーパリングへ舵を切ることができる。面舵一杯で金融緩和に舵を取り続けてきた黒田総裁としては実に望ましい状況ではあろうが、これは決して理想的な物価高ではない。

 本来は金融緩和によって経済が刺激され、企業が成長することで賃金が上がり、消費が促され、その需要と共に、相乗効果として物価が上がっていくことが、健全な物価高なのである。ドル高の影響による円安や原油高のような外部要因によって引き起こされる物価高は、ただただ家計を圧迫するだけなのだ。

 新しい自民党総裁の岸田文雄氏は、成長と分配を掲げているが、直面するであろう物価高に対して、もはや猶予は限られている。今週から始まる衆議院総選挙において、与野党どちらが政権を獲ったとしても、物価高に苦しむ可能性は高い。その時、日銀の黒田総裁はどういう判断を下すだろうか。今度の為替動向や原油価格には十分に注視されたい。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

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