焦点距離を自在に調節できる極薄メタレンズを開発 東京農工大

2020年11月14日 09:09

印刷

2枚のレンズで構成され、回転によって凹レンズ、凸レンズに変えられる新規開発のメタレンズ(画像: 東京農工大学の発表より)

2枚のレンズで構成され、回転によって凹レンズ、凸レンズに変えられる新規開発のメタレンズ(画像: 東京農工大学の発表より)[写真拡大]

 東京農工大学は10日、自然界に存在しない反射特性を持つ人工表面・メタサーフェスを利用し、凹レンズから凸レンズまで幅広く焦点距離を調節できるメタレンズの開発に成功したことを発表した。焦点距離を変えられるレンズは大型化しやすいという従来の常識を覆した研究成果で、超小型映像技術への実用化が期待される。

【こちらも】新型コロナウイルス検査を全自動化するシステム開発 東京農工大など

 メタサーフェスは、自然界に存在しない反射特性がある人工表面だ。表面に入射した電磁波の反射をコントロールできる特徴を持つ。電波を遮断する周波数帯数(バンドギャップ)があるマッシュルーム構造と、空間周波数に基づいて画像を強調・抑制する周波数選択板(FSS)と地板からなる2層構造のものがあり、加工技術による作製が容易なことから、さまざまな技術開発に応用されている。

 そのうち、メタサーフェスの考えに基づいて作られたのが、レンズの革命と称されるメタレンズである。メタレンズは、2016年に大手科学雑誌サイエンスの表紙を飾り、化学界に颯爽と登場した。厚さが600nmなどと極めて薄い一方、表面に付いた突起物が異なる波長の光を集めることを可能とした。小型ドローンに搭載する小型カメラ用レンズや複眼カメラへの導入が見込まれている。

 しかし、メタレンズにも問題はある。焦点距離が変えられる機能を付与すると、レンズが大型化してしまったり、焦点距離を変えられる範囲が狭かったりする課題があった。そこで、東京農工大の研究チームは、課題解消に向けた基礎研究に、東京大微細加工拠点や東京工業大の協力を得て取り組むことにした。

 試行錯誤の結果、ガラス基板上に、アモルフェスシリコンのナノ柱構造をメタアトム(メタサーフェスを構成する光、電磁波の波長に比べて小さいサイズの構造)として1700本置いたメタレンズを作製。2枚のレンズで形成され、回転によって凹レンズ、凸レンズに変えられるよう、工夫を凝らした。

 2枚のレンズの回転角を調整することで焦点距離が連続的に変化し、凹レンズ、凸レンズへと変わるため、通常のズームレンズと違い、レンズ間に一定距離の間隔が不要。小型カメラの導入に適しているという。点状に絞り込んだ電子線によって、パターンを描く電子線描画装置を用いてレンズを制作したといい、波長900nmの近赤外線の焦点距離を変化させることも実証できたという。

 研究グループは今後、人の目で見える可視光などによる短波長での動作や、違う色を混ぜても焦点距離が変わらないカラー化を進めていく。手動で回転角を変えるメタレンズの仕組みの自動化も実現させる考えだ。(記事:小村海・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事