ロボットがハンバーガーを配達 実用化進むデリバリーロボット

2019年5月14日 18:15

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「Starship」のデリバリーロボット。(画像: Starshipの発表資料より)

「Starship」のデリバリーロボット。(画像: Starshipの発表資料より)[写真拡大]

 インターネット通販が浸透するにつれて、多くの業界でホームデリバリーも広く受け入れられてきているが、その配送のコストと手間をいかに効率化するかが重要な問題となっている。この課題に対しては以前から、ロボットによるデリバリーサービスの開発が進められてきたが、アメリカをはじめ海外ではすでに、いくつもの企業がこのデリバリーロボットサービスの実用化に着手している。

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 小型の配送ボックスに車をつけ、注文された場所まで自動で走行して届けてくれるこのデリバリーサービスは、便利だととても好評だ。現時点では交通量の少ない、限定された領域での配送に限られているが、例えば米Amazon(アマゾン)は、これを一般の公道での配送まで実現したい意向だ。

 自走式のロボットカーが人や自動車が移動する道路を走ることには、技術上の問題だけではなく、さまざまな運用上の問題があるだろう。そして配送サービスのロボット化による配達員の失業も懸念される。

 今回はデリバリーロボットの実用化と宅配サービスの将来、そしてロボットと人の関係について、海外の事例や報道から紹介する。

●フードデリバリーロボット、スターシップとキーウィ

 丸みのある箱型の胴体に6つのタイヤがついた小型の自動運転車。Starship(スターシップ)が開発したデリバリーロボットは、米バージニア州のジョージ・メイソン大学キャンパス内のフードデリバリーロボットとして導入された。この電動の自動配送ボックスはキャンパス内の建物と学生寮の間を自走し、注文された食べ物、飲み物を積んで走りまわる。

 学生はアプリをダウンロードし、スマホでサンドイッチやドリンクを注文すれば、オーダーを積んだロボットが講堂や寮の指定の場所まで届けにきてくれる。配達予定時間が通知されるため、その時間に指定した場所でデリバリーを待ち、アプリの操作でロボットのケースをあけて中身を受け取ればよい。支払いはカードか大学がサポートするカレッジデビットで可能、配送料金は商品価格にプラス$1.99(約220円)だ。

 学内のフードサービスではドーナツ、ベーグル、ピザ、ハンバーガー、サンドイッチそしてスターバックスが40台以上のロボットを使ってファーストフードやコーヒーをキャンパス中に配達している。ピーク時にはキャンパスの中を走りまわるロボットの姿を見ることができる。1月の導入以来、すでに3万件を超えるオーダーをこなし、評価は上々という。営業時間を延長し、現在は午前2時まで配送を受け付けている。

 工事中の場所で引っかかってしまったスターシップのロボットを、学生が拾い上げて道に戻してくれたこともあったという。学生達は、フードコートまで行かずに食事を採れるようにしてくれたロボットを好意的に受け入れてくれているようだ。

 Kiwi(キーウィ)は、カリフォルニア州UCバークレーとスタンフォード大学で活躍する4輪のデリバリーロボットだ。6台のHDカメラを搭載し、250度の視野で周囲の状況を見ながらAIで状況を判断して配達する。学習機能を使って次第に配送作業に習熟することができるため、回りとのトラブルを回避できるようになるだろう。

●アマゾン、ローカルデリバリーロボット導入

 米アマゾンは、自社の配送にロボット配達のテストを開始すると発表した。来年1月をめどにワシントン州の一つの町で限定的に試験運用を始める計画だ。6台の配達ロボットは「スカウト」の名がつけられ、当面は平日の昼間だけの運用になるという。

 この動きを受けて、ワシントン州知事は早々にロボットが公道上を自走して配達する場合のルール作りを進めている。ロボットは側道を走ること、必ず人が監視していること、夜間は点灯すること、などが定められている。この規定には保険の内容や事故の場合の対処なども記述されている。

 キャンパスの中を走るのに比べると公道でロボットが配達することには、多くの問題点があることが予測される。車道を走らないとしても、自転車と衝突した場合、人にぶつかって怪我をさせた場合、ペットにからみつかれて進めない場合にどう対処するのか。悪意のある人間に邪魔されたり、ひっくり返された場合などに対する策は取れるだろうか、車道に放り投げられた場合はどうするのか。

 アマゾン同様に配送のロボット化の検討を進めているUSPS(アメリカ郵便公社)では、アマゾンの実験に先立って2018年、「自律型宅配ロボットによる郵便配達」についての報告書を作成し、その中で「経済的、技術的に尚早である」と結論づけている。

 この報告によれば、郵便のロボット宅配に関しては、不確定な要素が非常に多い。玄関に階段がある家や、雨が降って配達のルートが取れない場合、受取人が配送物を受け取らない場合など、配達が阻害されるケースは少なくない。配達したときに受取人がいない場合には、ロボットから荷物を取り出してくれる人がいないことになる。こういった懸念が全て配達遅延の原因になる。

 受取人が荷物を受け取っていないと嘘をつき、代償を求めるような詐欺をどう防ぐのかも問題だ。2億件のオンライン取引を管理しているチャージバック911社も、アマゾンの取り組みに懸念を示す。同社によれば数年前に、いくつかの街でロボット「HitchBot(ヒッチボット)」がヒッチハイクで街を通り抜ける実験をしたことがある。このとき、ヒッチボットはフィラデルフィアを通過する途中で首を切り落とされてしまったという。

 アマゾンの有料サービスであるプライム会員の中には、衝動的に買い物をして早急にもってこいと要求するユーザーがいる。このような注文者にとっては、注文して即座に同日配送が手配される「スカウト」のようなサービスは、お金を払ってでも使う価値があるかもしれない。

 スターシップやキーウィのようなフードデリバリーロボットは、イギリスや中国でも導入が進められている。店舗やショッピングモールなど比較的狭い、目的が明確な地域の中であれば、今後このようなロボットの導入に成功する事例が多くなってくるだろう。テーマパークやリゾートホテルなどでは人気のあるサービスになるかもしれない。

 一方でアマゾンがやろうとしているような、不特定多数の人々がいる地域でロボットが目的地までどれだけ安全に、そして効果的に商品を配達できるかについては、まだ事例がほとんどない。だがアマゾンのような巨大企業が先鞭を切ることで、社会的な認知が高まり、地域行政を動かしたり法整備を促進することになるかもしれない。

 宅配ロボットが多数配備されるようになれば、配達員の職が奪われることになるだろう。これに対して企業は、ユーザーの使い勝手が上がることで購入の件数が増えるため、配達の仕事が減っても顧客対応の仕事はむしろ増えることになるだろうといっている。配達員のユニオンでは、このような理屈は「ありもしない作り話」だとしてロボット導入に反対している。

 キャンパス内で動けなくなったロボットを学生が助けたように、ロボットが人の役に立ち、人がロボットを助けるような関係が、もっといろいろな場面で見られるようになるだろうか。朝のうちに注文しておいた弁当を、オフィスのデスクまでロボットがランチタイムに配達してくれる、そんな日はもうすぐにでも来るかもしれない。(記事:詠一郎・記事一覧を見る

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