LGBT(性的マイノリティ)フレンドリーなビジネスが成長

2018年11月19日 09:16

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LGBTに関する研修の様子(アウト・ジャパンのプレスリリース資料より)

LGBTに関する研修の様子(アウト・ジャパンのプレスリリース資料より)[写真拡大]

 LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどの性的マイノリティ)に対する社会の理解や支援の動きは確実に大きくなりつつある。LGBTの権利を守り、当事者が生活しやすい環境を整えるための行政や企業などの取り組みも出てきており、国内でもLGBT旅行者をマーケティングの対象にしたホテル・観光施設が増えてきた。東京オリンピックを前に外国人旅行客が増加するなか、LGBTフレンドリーな環境整備としてLGBTツーリズムも注目されている。

■LGBTに対する社会の意識はまだまだ低い

 LGBTについて最近話題になったのが自民党の杉田水脈衆院議員が『新潮45』に発表した文章の内容だった。「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」などという意見が各方面から批判を浴び、雑誌が休刊するところまで追い込まれた。

 LGBTに対する社会意識の一端として、NPO法人虹色ダイバーシティと国際基督教大学が6月から7月にかけて行った「LGBTと職場に関するアンケート調査(niji VOICE 2018)」(速報値/有効回答数2,262人、うちLGBT1,612人)をみてみよう。

 それによると、「この1年以内に職場で差別的言動を頻繁に見聞きしている(よくある、ときどきある)」と答えたLGBTは45.8%、「誰かが同性愛者なのではないかと噂する」のを見聞きしているLGBTが33.3%、「誰かの性別を勝手に推測したり、噂したりする」という回答が21.2%という結果だった。職場における差別的言動や、性的指向・性自認に関連する言動が多いことがわかる。

 職場の対応としては、「LGBT施策が何も行われていない」と回答したLGBTが71.2%に上ったほか、「職場に理解者・支援者がいない(わからないも含む)」も58.8%と高かった。

 虹色ダイバーシティは「職場におけるLGBT施策がまだ不十分であり、職場で当事者が孤立している状況が伺える結果となった」としている。また、求職時に性のあり方に関連した困難を経験している人は、LGB他で29.7%、トランスジェンダーで61.4%だった。

 この調査結果の詳細は12月16日、国際基督教大学で開かれる報告会で発表され、その後虹色ダイバーシティと国際基督教大学のWebサイトで公開される。

■行政や企業などのLGBTフレンドリーな取り組み

 日本にLGBTが何人いるかについてはっきりしたデータはないが、2015年に電通が調べた結果によると、20~59歳の男女約7万人のうちLGBTに該当する人の割合は7.6%だった。この数値の受け取り方は人によって異なるだろうが、LGBTは日本社会の一定の割合を占めていると認識すべきだろう。

 前述したように、LGBTに対する偏見が根強い一方で、その権利を守り、当事者が生活しやすい環境を整えるための行政や企業などの取り組みも地道に行われるようになってきた。

 たとえば、2015年に東京渋谷区で同性カップルに結婚に相当する関係などを認める同性パートナーシップ制度が施行された。以降、東京世田谷区や那覇市、札幌市なども導入。東京国立市では2018年4月、個人の性的指向や性自認を第三者が勝手に公表することを禁じる全国初の条例を施行した。

 文部科学省は2015年にLGBT生徒へのきめ細かな対応を求める通知を出し、翌年には教職員向けにLGBT生徒への対応をまとめた手引きを発行するなど対策を講じている。

 企業の取り組みも見られるようになり、日本航空や野村証券グループ、損害保険ジャパン日本興亜、住友生命、イオングループなどは性的指向や性自認による差別を禁じる社内規定を策定したり、社員研修やパンフレットの配布などを行ってLGBTへの正しい理解と対応を呼びかけている。

 日本航空は、トランスジェンダー当事者が使いやすい更衣室を用意したり、人事部内にLGBT、女性、高年齢者、障がい者、外国籍社員などダイバーシティに関する各種施策に取り組む「ダイバーシティ推進グループ」を設置するなどしている。JALマイレージバンク(JMB)の利用客に対しても公的機関が発行するパートナーシップ証明書や同居を証明する住民票などがあれば同性パートナーも配偶者に準じたサービスを受けられるようにした。

 これらの企業の取り組みに対して、2016年には任意団体「work with Pride」(wwP)が、職場におけるLGBTなどへの取組みを評価する「PRIDE指標」を策定した。以降毎年、NPO法人グッド・エイジング・エールズが、取り組み企業を対象に募集・選考・評価業務を行っている。これまで、日本航空やイオン、日産自動車、クボタ、キリングループ、KDDI、NTTデータなど多くの企業がPRIDE指標「ゴールド」を受賞した。

■ビジネスチャンスを生むLGBTツーリズム

 LGBTの人権に対する理解と支援の動きと同時に、LGBTの人々に向けたサービス・商品の提供をビジネスとして取り組む動きも広がっている。その一つがLGBTツーリズムへの取り組みだ。

 アウト・ジャパンは、日本国内でLGBTツーリズム支援事業を展開している企業である。小泉伸太郎代表は、IGLTA(国際ゲイ・レズビアン旅行協会)のアジアアンバサダーを務めており、「Ambassador of the year 2016」を日本人として初めて受賞した人物。国内外のLGBTツーリズム事情に詳しい。

 LGBTツーリズムとは、LGBT旅行者をマーケティング対象にした観光施策をさす。LGBT旅行者は差別や暴力を受ける心配がないLGBTフレンドリーな旅行先のリピーターになる傾向があるという調査結果が出ており、それもビジネスチャンスと捉える一つの要素であろう。

 アウト・ジャパンによると、国際旅行においてゲイ・レズビアンの旅行客は約10%を占めるとされており、世界のLGBTツーリズムの市場規模は約22兆円という試算もあるという。実際、欧米のLGBTフレンドリーな環境を整備し、観光施策を進めている都市では、毎年100億円単位の経済効果をもたらしているという話もある。ホテルや観光施設がより多くの観光客を誘致しようとすれば、LGBTフレンドリーな対応も十分にビジネスの一つになるというわけだ。

 同社は、これまで東北地方で復興選定事業の一環としてLGBTツーリズム支援事業を行ったほか、国内各地の観光協会やホテルなどでもLGBT研修やプロモーション支援の事業を展開している。研修では、LGBTの基礎知識やLGBTツーリズムにおけるプロモーションなどについて説明するが、同性カップルの挙式やゲイの人だけのスキーツアーの進め方など具体的実践的な内容だという。

 LGBTに対する社会の理解や支援が進み、LGBTツーリズムがビジネスとしてどの程度膨らむか、予想はつかないが、2020年の東京オリンピックを控えて海外からの旅行者が増える中、LGBTツーリズムに対する業界の関心はますます強まるだろう。

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