書店員が本を復刊させるーTSUTAYAプロデュース文庫が累計140万部突破

2018年10月5日 19:59

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映画化も決まった「9月の恋と出会うまで」。(画像: TSUTAYA)

映画化も決まった「9月の恋と出会うまで」。(画像: TSUTAYA)[写真拡大]

 TSUTAYA(本社・東京都渋谷区)が発行する「TSUTAYAプロデュース文庫」が好調だ。同社は4日に「TSUTAYAプロデュース文庫」の累計発行部数が140万部を超えたことを発表した。出版不況の中でも特に苦しい立場にある文庫本にスポットライトを当て、目覚ましい効果を上げている。

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 「TSUTAYAプロデュース文庫」ではTSUTAYA書店員がすでに廃刊となった文庫本の中でも良書と思うものを発掘する。それらについて新たに装丁などを施し、再度出版するというものだ。2013年に試験的にスタートした。

 最初に復刊した11作のうち9作について重版がかかり、その後は廃刊の他に既刊や新刊についてもプロデュース対象となった。現在までに30タイトルが同文庫から発刊されている。

 なかでも復刊プロデュース文庫第一弾となった「9月の恋と出会うまで」(作・松尾由美)は復刊後も売り上げを伸ばし、来年の映画化が決まっている。TSUTAYA三軒茶屋店の書店員が推薦した作品であり、同企画内の「今、本当におススメしたい文庫」恋愛部門1位を取るほどになった。

 すでに廃刊となった同作品を選定した理由として、同店では「時間ミステリー&恋愛小説という今の読者ニーズにあった内容であり、また読後感が素晴らしい。最近の恋愛ミステリーは精神的な内容に片寄りすぎており本来の物語としての意味を失くしてしまっている中で、読者に物語として完成度の高い恋愛小説を読んでいただける、貴重な機会になるのでは」と述べている。

 現在の出版業界を取り巻く環境は厳しい。紙の出版物全体の販売額は13年連続でマイナスとなり、特に昨年の減少幅は過去最大のものとなった。人口減少による購買層の縮小や電子書籍、定額読み放題サービスの台頭などが大きな原因と考えられる。

 その中でも特に文庫本の落ち込みは深刻だ。書籍点数全体の中で3割を占めているが、2017年の販売実績は前年実績を下回り低迷している。販売額は2006年の約1,400億円をピークに下落傾向を続け、昨年は1,100億円を下回るなど不振を極めた。

 人気作家の新刊に注目が集まる一方、既に発行されているものについては重版がかかりづらい状況だ。廃刊となる作品が増える一方で、そうしたなかにも廃刊を惜しむ声も少なくない。

 「TSUTAYAプロデュース文庫」はそうした声を拾うべく立ち上げられた企画だ。書店員という本の現場に一番近い存在が良書を発掘することで、より読者に近い視点からの販売展開が期待できる。

 出版業界における書店員の役割は無視できないものになっている。書店員からの投票によって年ごとのノミネート作が決まる「本屋大賞」も注目を浴びて久しい。昨年同賞を受賞した「蜂蜜と遠雷」(作・恩田陸)は、同年に直木賞をも受賞し話題となった。書店の声が作品を後押しし、暗いムードの出版業界に活況を呼んだ格好だ。

 廃刊になった作品に、書店員が命を与える。命を与えられた作品は世に受け入れられ、映画にまでなることとなった。出版業界を救うには作家や出版社の力量のみならず、書の現場に立ち続ける書店員の力も今後はより必要となるだろう。

 読者に訴求できる現場からの作品作りや販売展開こそが、顧客を書店へと向かわせる強力な原動力となる。「TSUTAYAプロデュース文庫」の快進撃はそのことを裏付ける販売戦略と言えそうだ。(記事:藤原大佑 ・記事一覧を見る

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