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三菱重工業 のたうち回る「巨艦」(下)
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(中)から
日本商事仲裁協会は、裁判所を介さず商取引上の紛争を解決する仲裁機関である。今後は弁護士などが仲裁人として審理し、話し合いによる和解や法的拘束力のある判断などが下されることになるが、ここまでこじれては和解への道は険しい。三菱重工業の非を認めれば7743億円の支払い、喧嘩両成敗でも3871億円である。100%非が日立にあると判断されて初めて三菱重工業の支払いは逃れるが、果たしてそこまで完璧な勝利が見込めるのか?
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0~7743億円まで今のところ着地点は見いだせないが、日立との関係が修復不可能になれば、マイナスは計り知れないだろう。しかも、三菱重工業の担当役員として日立との事業統合を主導したのが宮永俊一社長だ。事業統合前に自分が詰めたはずの南ア案件の費用負担問題で安易に妥協することはできない。
MRJと豪華客船と南アでのボイラー建設で現在見込まれる損失の最大値は1兆5000億円にも達してしまうヴォリュームだ。東芝問題をデジャブ(既視感)としても、改めてその深刻さが際立っている。
それに加えて、三菱重工業は2027年に開業を予定するリニア中央新幹線の車両の開発・製造から撤退し、営業車両の量産は業績不振で断念するという。通常、赤字の試験車両の開発を引き受けるのは、大幅な利益の見込める営業車両の量産を見込んでいるからだ。今回の報道だけではどのくらいの痛手を被ったのか不明であるが、未知の領域に踏み込んでの試験車両の開発である。かすり傷で済むはずがない。さらに三菱重工業にとってショックなのは、同社が撤退しても「営業車両の発注先は別に決める予定で、開業スケジュールに影響はない」とJR東海が言っているということではないのか。
「官僚以上に官僚的」とは外部からの三菱重工業評だが、内部的には長崎から相模原まで散らばった6事業所の独立意識が強く、「重工は中小企業の集合体」との評価すら聞かれ、本社の役員と事業所長の権限が逆転することさえあったという。事業所制は現在の宮永社長に至る3代の社長の努力により事業本部制を経てようやく現在のドメイン制度に辿り着いた。しかし、本件の3つの事例に触れるだけで社内の様子を十分感じることができるのではないだろうか。“ガバナンス喪失”としか言いようのない混沌の中に三菱重工業は漂っている。果たして今の状況から逃れ出る道はあるのか?遥かに急峻な絶壁を登りきる余力を残しているのか?MRJが世界の空を舞い、南アのボイラーが軽快な音を上げる日が来ることを祈るのみである。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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