三菱重工業 のたうち回る「巨艦」(上)

2017年8月17日 16:48

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 10日の日本経済新聞は「三菱重工、リニア新幹線の車両撤退 業績不振で事業選別 」との見出しで「重工」の苦境を伝えている。「しょうじ」と言えば三菱商事、「ぶっさん」と言えば三井物産を意味していた時代がある。そのころ「じゅうこう」は三菱重工業を意味していた。まさに日本が日の出の勢いの高度成長時代に、大きな産業分野を分類するための用語が特定の企業を意味するという夢のような時代であった。

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 その「重工」がのたうち回っている。

 (1)国産ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」は、1月下旬に5度目となる初号機の納入延期を発表した。1月23日に記者会見した三菱重工の宮永俊一社長は「我々に旅客機製造に関する知見が足りなかった」と述べたと伝えられる。MRJは現在、440機超を国内外で受注しているものの、そのうちの170機はキャンセル可能なオプション契約契約とみられ、納入遅れに対する顧客の反応が懸念される。

 しかも開発費は、当初見積もり1,500億円が5,000億円に及びそうな勢いで増加している。三菱重工業が長年培った防衛省向け戦闘機の設計ノウハウと、民間機のそれが大きく相違していることが開発直後に判明したという。そのため監督官庁による安全認証の「型式証明」を取得できないことが開発の遅れにつながった。世界でリージョナル機のトップシェアを握るブラジルのエンブラエルは、低燃費・低騒音の新型エンジンを採用した次世代機「E2シリーズ」の「E190-E2」及び、シリーズ最大の機体である「E195-E2」を発表している。納入の遅れが他社への関心を高め、もしキャンセルが発生したら、開発コストがそのまま損失につながりかねない危機にある。

 MJRは完成機納入時期を2年延期して20年半ばと発表しているが、競合機の離陸が21年に迫っている。6度目の延期は全く許されない状況に追い込まれている。19年度が開発費用のピークとなる見通しもあり、いかに効率を上げてコストを最小化するかが問題だが、逆に表現するとコストはまだまだ膨らむ余地があるということだ。MRJは初の国産ジェット旅客機という国家プロジェクトだが、発表当初の浮かれた雰囲気は何処にもない。1,000機規模の受注が事業採算の目安と語る声も聞こえなくなった。それどころではない。関係者は息を詰めて成り行きを見守っている。
 (中)に続く(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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