60年間幻だったカーボンナノベルトの合成に成功

2017年4月15日 21:25

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固体のカーボンナノベルトを蛍光発光させたもの。(名古屋大学発表資料より)

固体のカーボンナノベルトを蛍光発光させたもの。(名古屋大学発表資料より)[写真拡大]

 1954年にその存在の可能性が理論的に提唱され、しかしその後実際に合成に成功した者が誰もいなかった夢の分子、「カーボンナノベルト」の合成に名古屋大学などの研究グループが成功した。

 そもそもカーボンナノベルトとはいかに定義されるかというところから話を始めるが、簡単に説明すれば、ベンゼン環同士が互いに辺を共有し、筒状の構造を構成している炭素分子、だそうである。ちなみに、カーボンナノチューブが発見されたのは1991年だが、このとき、カーボンナノベルトはカーボンナノチューブの部分構造であることが明らかにされた。

 しかし、それでもなおカーボンナノベルト単体での合成はできなかったのである。カーボンナノベルトが初めて文献に登場してから約60年の間、それがどのような構造体であるか、様々な化学者たちが知恵をひねり、合成に挑戦してきたが、カーボンを筒状構造にする際に大きなひずみが生じることから困難を極め、合成は難しいと考えられてきた。

 しかし今回、研究グループは、石油の成分であり安価で入手が容易なパラキシレンを炭素原料に用い、ひずみのない環状分子を筒状構造に変換する方法を用いて、11段階の合成手順を経、カーボンナノベルトの合成に成功したという。また、各種の分析によって、このカーボンナノベルトがカーボンナノチューブと非常に近い性質・構造を持つことも確認された。

 さて、カーボンナノベルトができると何が変わるかというと、単一構造からなるカーボンナノチューブが製造可能になる、少なくともその開発のとっかかりとなる、のだという。単一構造のカーボンナノチューブがあれば、自在に曲げられる軽量なディスプレイ、省電力型の超集積CPU、より効率化された太陽電池やバッテリーなど、極めて幅広い応用の可能性が期待できるという。

 なお、研究の詳細は、アメリカの科学誌「Science」の電子版に掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

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