肥満を抑える糖鎖とは 理研が発見、生活習慣病の治療法開発に期待

2017年1月22日 08:01

印刷

記事提供元:エコノミックニュース

 日本の肥満者(BMIが25以上)数は増加傾向にあり、2015年の成人の肥満者は約2,500万人と推定されている。肥満は、糖尿病や高血圧、動脈硬化など生活習慣病の発症リスクを高めることが知られている。その原因の一つが、肥満に伴って肥大化・増殖した脂肪細胞の機能異常にあると考えられている。しかし、脂肪細胞の肥大化や増殖のメカニズムはまだ完全には明らかになっていない。

 糖鎖とは、グルコースなどの糖が鎖状につながってタンパク質などに結合したもので、体内の半分以上のタンパク質は糖鎖を持った状態で存在している。糖鎖はタンパク質の修飾の中で最も多く、体の中でさまざまな役割を果たしている。また糖鎖は種類が多様で、それぞれの糖鎖が異なる役割を持っていることから、特定の糖鎖の増減が、がん、糖尿病、アルツハイマー病などの疾患の原因の一つとなることが分かっている。しかし、肥満時に起こる脂肪細胞の肥大化や増殖の過程で、どの糖鎖がどのような役割を果たしているのかはほとんど明らかになっていなかった。

 今回、理化学研究所(理研)グローバル研究クラスタ疾患糖鎖研究チームの蕪木智子客員研究員、木塚康彦研究員、北爪しのぶ副チームリーダー、谷口直之チームリーダーらの研究チームは、マウスを用いて、「α2,6シアル酸」と呼ばれる糖を持つ糖鎖が肥満を抑えることを発見した。

 研究チームが高脂肪食を与えて肥満にしたマウスの脂肪組織を調べたところ、末端にα2,6シアル酸を持つ糖鎖の量が、肥満細胞への分化に伴って大きく減少していることを発見した。これは、α2,6シアル酸を作る酵素であるST6GAL1[4]の遺伝子が、DNAメチル化という仕組みによって“オフ”になるためであることがわかった。

 逆に、培養した脂肪細胞においてST6GAL1の量を強制的に増やすと、脂肪の蓄積量が減少することもわかった。また、脂肪細胞を詳しく解析した結果、インテグリンβ1と呼ばれる接着性のタンパク質がα2,6シアル酸を持っており、α2,6シアル酸が少なくなるとインテグリンβ1の働きが弱まり、それが脂肪細胞の増殖や分化を促進することがわかった。

 これらのことから、ST6GAL1が作るα2,6シアル酸を持った糖鎖は、インテグリンβ1などの働きを調節することで脂肪細胞の増殖と肥満を抑えることが明らかになった。実際、ST6GAL1欠損マウスに高脂肪食を与えると、通常マウスよりも体重や脂肪の増加量が大きくなった。ヒトの遺伝子解析でも、ST6GAL1が肥満や糖尿病と関係があることが、最近、報告されている。今後、肥満に関連する疾患の治療を考える上で、α2,6シアル酸を標的とした新しい治療法の開発が期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)

■関連記事
睡眠時間の短縮が肥満リスクを増加させる 花王らが解明
隠れ肥満は大丈夫? 日本人の30%が抱える脂肪肝
ビールのホップ成分がアルツハイマー病予防に効果 キリンが解明
父親の加齢が子孫の行動に影響を及ぼす 東北大と理研が解明
「健康格差」は所得だけの問題ではない 雇用形態も要因に

※この記事はエコノミックニュースから提供を受けて配信しています。

関連キーワード

関連記事