本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第12回 評価制度の検討(5)

2013年4月15日 12:21

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 引き続き、「評価制度」を検討する上での留意事項についてです。

■評価プロセスの話
 評価制度においては、評価結果そのものの決定方法とともに、評価を進めるプロセスについても決める必要があります。

 評価制度の中身というのは、
「誰が?」・・・考課者の決め方、多面評価(360度評価)の実施有無、など
「何を?」・・・評価項目、何を成果(評価ポイント)とみるか、など
「いつ?」・・・年何回やるのか、その実施時期、スケジュール、など
「どうやって?」・・・評価回数(何次の評価まで)自己評価や面談などの実施有無、その他最終評価決定までの手順(プロセス)など

 ということになりますが、このうち「誰が?」と「何を?」が、主に評価結果そのものの決定方法にあたり、「いつ?」と「どうやって?」が、主に評価を進めるプロセスの部分になります。

 「誰が?」「何を?」については、前回までに書かせて頂きましたので、今回は残りの「いつ?」と「どうやって?」という手順、プロセスの部分について、少しご説明しようと思います。

■実施時期やスケジュールは活用目的によって決める
 まず、「いつ?」という部分ですが、よく見られるオーソドックスな形は、半期ごとの年2回評価、結果を主に夏冬の賞与支給に反映するというものです。

 これにプラスして、期末に年間の評価を行って、その結果を次期の昇給昇格に反映する会社もありますが、この場合期末に多くのものが集中してしまい、作業として進められずに昇給昇格の時期が遅れる、無理に前倒しにして対象期間の結果をきちんと見極められない、などというデメリットが出たりします。これを避けるために、半期ごとの評価を機械的に合算して期末評価に替える方式をとったりします。

 いずれにしても、評価というのは何に反映するのかの目的があってのものですから、それによっておのずと実施回数やスケジュールは決まってきます。

 例えば、四半期ごとに給与改定をするのでその都度評価を行う会社、賞与が年3回ある会社、年俸制をとっていて年1回の評価で十分な会社、その他いろいろあります。どんなやり方をするかによって当然メリットもデメリットもありますが、これは会社の考え方によっていろいろでしょうから、自社の事情に合わせて考えればよいと思います。

 留意点として一つだけ挙げさせて頂けば、回数が多ければ相応の労力はかかるということと、目的がその労力に見合っているのかどうかを考えておくことが必要ということです。

 私がときどき見かけるのは、例えば
「例年通り評価を行っているが、業績不振で結果を反映する賞与支給がない」
「給与改定のために評価を行っているが、実際に改定される人はごく一部だけ」
「評価反映にあてる原資が少なく、評価が良くても悪くてもあまり違いがない」
など、評価に労力をかけているわりに、結果にあまり差がないような場合です。

 もちろん評価を通じての人材育成、キャリア認識といった面はありますが、他人を評価するということには時間も労力もかかりますし、真面目にやってもやらなくても同じということでは、運用はどんどん形骸化し、手抜きがされるようになり、評価結果は固定化されるようになってしまいます。社員の不満も増長されるでしょう。

 ただ手をかければよいということではなく、目的に見合った合理性のあるやり方が求められるでしょう。


■制度の成否に実は大きく関わる実施プロセス
 次に「どうやって?」という手順、プロセスの部分です。これも最近の一般的な形だと、本人に一定の自己評価をさせ、上司との面談を実施してお互いに評価を確認し合い、二次評価や最終調整を経て評価を決定するようなものが多いです。

 評価のプロセスというのは会社ごとに考え方の違いが大きく、一次評価、二次評価、さらに結果のフィードバックといった各段階ですべて面接を行ったり、三次、四次といった評価までやるところがあるかと思えば、自己評価や面接はあまり意味がないから行わない、金額を見れば評価結果はわかるからいちいちフィードバックはしないというところもあり、会社によって本当にやり方は様々です。

 これらもそれぞれメリット、デメリットがあり、会社によってその発現のしかたは異なりますが、この部分の制度設計や運用方法を間違うと、実は不満や不信感が一番出やすいところであり、評価制度そのものの成否に大きくかかわるところでもあります。この部分は十分に議論を尽くしていただきたいと思います。

 さらにもう一歩進めていえば、「決めた運用はきちんとやる」「不具合があればどんどん直していく」という姿勢が重要です。特に評価制度の運用は、現場に委ねる部分が多いので、勝手なアレンジや手抜きが横行しがちです。また中小企業の場合は、決めているのに実行しないというところから制度が破綻していくことが多いように思います。

 やはり制度として決めたならばきちんとやる、できないならばできるように制度を見直すといったことをやっていかなければ、人事制度が意味をなさなくなるどころか、制度なんかない方がマシという事態にもなり兼ねません。実際に人事制度がうまくいっていない企業のお話をうかがうと、このあたりに問題があるケースがとても多いです。

 「制度で決めたならばきちんとやる」
 「できないならできるように制度を直す」

 基本的なことですが、あらためて心に留めて頂きたいと思います。

 次回は評価制度の留意事項について、まとめをしていこうと思います。

著者プロフィール

小笠原 隆夫

小笠原 隆夫(おがさわら・たかお) ユニティ・サポート代表

ユニティ・サポート 代表・人事コンサルタント・経営士
BIP株式会社 取締役

IT企業にて開発SE・リーダー職を務めた後、同社内で新卒及び中途の採用活動、数次にわたる人事制度構築と運用、各種社内研修の企画と実施、その他人事関連業務全般、人事マネージャー職に従事する。2度のM&Aを経験し、人事部門責任者として人事関連制度や組織関連の統合実務と折衝を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表。

以降、人事コンサルタントとして、中堅・中小企業(数十名~1000名規模程度まで)を中心に、豊富な人事実務経験、管理者経験を元に、組織特性を見据えた人事制度策定、採用活動支援、人材開発施策、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務の支援など、人事や組織の課題解決・改善に向けたコンサルティングを様々な企業に対して実施中。パートナー、サポーターとして、クライアントと協働することを信条とする。

会社URL http://www.unity-support.com/index.html

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