鮮明な夢を見ると疲れる理由の手掛かりか―東北大がレム睡眠中の「エネルギーのパラドックス」を発見

2026年7月30日 11:25

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鮮明な夢を見た後に妙な疲労感を覚える現象には、細胞レベルの背景があるのかもしれない。東北大学の研究グループはマウスを用いた研究で、REM睡眠中は脳血液量とアストロサイト内のピルビン酸が増加する一方、神経細胞内のエネルギー分子であるATPの濃度が低下するというパラドックスを明らかにした。ただし、このATP濃度の低下が、夢を見た後の主観的な疲労を引き起こすことまでは確認されていない。この成果は睡眠科学だけでなく、血流や血液量などを手掛かりに脳活動を推定する脳機能イメージングの解釈にも、新たな視点を与える可能性がある。

■REM睡眠の新たなパラドックス

鮮明な夢を見た後に妙な疲労感を覚える現象について、細胞レベルの説明につながる可能性のある知見が示された。東北大学の研究グループは、2026年7月27日付で学術誌『Communications Biology』に発表した研究で、REM睡眠における脳エネルギーのパラドックスを報告した。

REM睡眠では、体を支える筋肉が強く弛緩する一方、脳は活発に働く。このため、REM睡眠は「逆説睡眠」とも呼ばれてきた。今回の研究で新たに示されたのは、夢と深く関連するこの睡眠段階で、エネルギー供給の増加を反映すると考えられる脳血液量が増えるにもかかわらず、神経細胞が実際の活動に利用するATPの細胞内濃度が低下するという現象である。

研究を監督した東北大学大学院生命科学研究科の松井広教授は、「睡眠は穏やかに見えるかもしれないが、脳は非常に活発であり、特に夢を見ているときはそうだ」と述べた。「私たちはこのパラドックスに興味を持ち、夢を見るとなぜ疲れるように感じるのか、その科学的な背景を調べたいと考えた」。

REM睡眠は「急速眼球運動睡眠」を意味する。1950年代後半、フランスの研究者ミシェル・ジュヴェが、眠っている猫の脳が覚醒時と同程度の電気活動を示す一方、体はほぼ完全に静止していることを観察したことから、「逆説睡眠」と呼ばれるようになった。人間では、一晩の総睡眠時間の約20〜25%がREM睡眠に当たり、通常は一晩に4〜6回の周期に分かれて現れる。REM睡眠は、鮮明な夢や記憶の整理、感情の処理と関連すると考えられているが、具体的な機能については議論も続いている。

東北大学大学院生命科学研究科の高橋佑輔大学院生、生駒葉子助教、松井教授らによる今回の研究は、REM睡眠にもう一つの逆説的な現象があることを示した。REM睡眠中には脳血液量が増え、アストロサイト細胞内のピルビン酸濃度も増加した。アストロサイトは神経細胞と血管の間に位置するグリア細胞の一種であり、ピルビン酸は糖代謝の中心に位置してATP産生の材料となる代謝物である。こうした変化が見られた一方で、神経細胞が電気信号の発生や細胞内外のイオン環境の維持などに使うATPの細胞内濃度は低下していた。

■頭蓋骨を開けずに生きた脳を観察

脳血液量、アストロサイト内ピルビン酸、神経細胞内ATPという3つの指標を調べた研究手法も注目される。従来のマウス脳イメージングでは、頭蓋骨を取り除いて観察用の窓を設けたり、頭蓋骨を薄くしたりする方法が用いられてきた。しかし、こうした侵襲を加えると、血管系やグリア細胞の活動に影響を及ぼす可能性がある。

マウスの頭蓋骨は、頭皮の下では比較的透明だが、露出して乾燥すると急速に不透明になることが知られている。東北大学の研究グループは、露出した頭蓋骨をUV硬化樹脂でコーティングし、湿潤で透明な状態を保った。これにより、頭蓋骨を開けずに、マウスの大脳皮質を広域蛍光イメージングで観察した。

研究グループは同時に、脳皮質電位と筋電図を記録し、覚醒、ノンREM睡眠、REM睡眠の各状態を判定した。これにより、マウスが自然に眠っている状態を保ちながら、睡眠状態の変化と大脳皮質全体の血管・代謝動態を対応付けて解析できるようになった。

脳血液量は、血液中のヘモグロビンが蛍光を吸収し、血管が「影」として写る性質を利用して推定した。血管が拡張して局所的な血液量が増えると影が強くなり、脳実質から検出される蛍光は弱くなる。この変化から、大脳皮質の広い範囲における脳血液量の変動を追跡した。

これに加え、アストロサイトにはピルビン酸センサーを、神経細胞にはATPセンサーを発現させ、それぞれの細胞内の代謝状態を調べた。この方法により、血管からのエネルギー源供給を間接的に反映すると考えられる脳血液量、アストロサイトの糖代謝状態を示すピルビン酸、神経細胞内のエネルギー状態を示すATPを、互いに関連する一連の過程として比較した。

■ノンREM睡眠中は神経活動と血管反応が連動

REM睡眠への移行を調べる前に、研究グループはノンREM睡眠中の脳血液量変動を解析した。ノンREM睡眠ではデルタ波が目立つことが知られているが、シータ帯を含むほかの周波数成分も存在する。今回の研究では、ノンREM睡眠中におけるシータ帯活動の時間的な揺らぎに着目した。

その結果、脳皮質電位で捉えたシータ帯活動の変化から、約4〜5秒後の脳血液量変化をよく予測できることが分かった。これは、睡眠中の脳でも神経活動と血管反応が密接に連動し、必要に応じてエネルギー源の供給が調節されていることを示唆している。

ノンREM睡眠中には、比較的速い脳血液量の揺らぎが、前方の大脳皮質から後方へと約1秒の時間スケールで伝わる波として繰り返し観察された。神経活動の変化に数秒遅れて血管が反応するという結果は、神経活動に応じて局所的な血管反応が起きる神経血管結合の考え方と整合する。

研究グループはさらに、脳血液量の速い変動成分に、数秒程度の特徴的な時空間パターンが複数存在することを確認した。こうしたパターンの出現頻度は睡眠状態によって異なり、ノンREM睡眠とREM睡眠では変動の方向性にも違いが見られた。この結果は、脳血管の活動が単なるエネルギー供給の背景過程ではなく、脳の状態に応じた複雑な時空間構造を持つ可能性を示している。

■REM睡眠の開始前から脳血液量が増加

REM睡眠への移行時には、ノンREM睡眠中とは異なる大きな変化が観察された。脳皮質電位と筋電図から判定されるREM睡眠の開始よりも約50秒前から、脳血液量が増え始めていた。

この変化は大脳皮質の後方で始まり、約15秒かけて前方へと広がった。これは、REM睡眠への移行が脳全体で一様に起こるのではなく、後方皮質から始まる代謝的な準備過程を伴う可能性を示している。

伝播の方向にも違いがあった。ノンREM睡眠中の比較的速い脳血液量の波は前方から後方へ伝わったのに対し、REM睡眠への移行前に起きる脳血液量の増加は後方から前方へ広がった。REM睡眠が脳皮質電位と筋電図から判定できるようになる前から、血管反応を含む代謝状態の時空間的な再編成が進んでいる可能性がある。

■脳血液量は増えるが神経細胞内ATPは低下

自然に生じるREM睡眠中には、脳血液量とアストロサイト細胞内のピルビン酸濃度が増加した。脳血液量の増加は、酸素やグルコースなどのエネルギー源の供給増加を反映すると考えられる。また、ピルビン酸はグルコースが分解される過程で作られ、ATP産生の材料となる代謝物である。

通常であれば、脳血液量が増え、酸素やグルコースなどの供給が高まれば、神経細胞内のATPも増加すると考えられる。実際、研究グループが血管拡張薬のニトロプルシドナトリウムを投与し、人為的に脳血液量を増やしたところ、アストロサイト内ピルビン酸と神経細胞内ATPはいずれも増加した。

ところが、自然に生じるREM睡眠では異なる現象が起きた。脳血液量が増え、アストロサイト内ピルビン酸濃度も上昇したにもかかわらず、神経細胞内ATP濃度は明確に低下した。ATP濃度の低下は、特に大脳皮質後方の領域で強く見られた。

この結果は、脳血液量の増加が、そのまま神経細胞内のエネルギー増加を意味するわけではないことを示している。REM睡眠中には、血管からの供給、アストロサイトの代謝、神経細胞内のエネルギー状態が単純に同じ方向へ変化するのではなく、それぞれ異なる動きを示していた。

■神経細胞内ATPが低下する3つの可能性

今回の研究は、REM睡眠中に生じる脳エネルギーのパラドックスを示したが、その詳しい仕組みまでは解明していない。研究グループは、同時に成立する可能性のある複数の説明を挙げている。

1つ目は、REM睡眠中に神経細胞によるATP消費が大きく増えている可能性である。REM睡眠時には、記憶の整理、神経回路の再編成、情動処理など、エネルギーを必要とする情報処理が行われると考えられている。こうした処理に伴ってATPの消費が増え、産生を上回れば、神経細胞内ATP濃度が低下する可能性がある。

2つ目は、アストロサイトから神経細胞への代謝物の受け渡しが、一時的に変化する可能性である。アストロサイト内では、グルコースが解糖系によってピルビン酸に変換される。ピルビン酸はアストロサイト内のミトコンドリアでATP産生に利用される一方、乳酸に変換される場合もある。

アストロサイトで作られた乳酸は、モノカルボン酸トランスポーターを介して細胞外へ排出され、神経細胞に取り込まれる可能性がある。神経細胞内に取り込まれた乳酸は再びピルビン酸に変換され、ミトコンドリアでのATP産生に使われると考えられている。REM睡眠中にこの代謝物輸送が変化すれば、アストロサイト内にピルビン酸や乳酸が蓄積する一方、神経細胞内ATP濃度が低下する可能性がある。

ただし、アストロサイトが乳酸を神経細胞へ供給する「アストロサイト・神経細胞間乳酸シャトル」は仮説であり、神経細胞が細胞外からグルコースを直接取り込む経路との使い分けについても議論が続いている。今回の研究は、アストロサイトから神経細胞への代謝物輸送そのものを直接測定したものではない。

3つ目は、神経細胞内でのATP産生様式やミトコンドリア機能が、一時的に変化している可能性である。神経細胞が利用可能な代謝基質をATPへ変換する効率がREM睡眠中に変わるなら、エネルギー源の供給が増えてもATP濃度が低下する可能性がある。今後は、代謝物輸送、ミトコンドリア機能、乳酸輸送体、細胞内pHの変動などを詳しく調べる必要がある。

■脳機能イメージングへの影響

今回の発見は睡眠科学にとどまらず、血管由来の信号を手掛かりに脳活動を推定する脳機能イメージングの解釈にも、新たな視点を与える。

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)は、神経活動そのものを直接記録する方法ではない。主に脳血流、脳血液量、血液中の酸素化状態などの変化を手掛かりに、脳活動を推定する。代表的な血中酸素濃度依存性(BOLD)信号も、血流や血液量だけではなく、血液の酸素化状態を含む複数の要因を反映する。

今回の研究は、REM睡眠中には脳血液量が増加しても、神経細胞内ATP濃度が増えるとは限らないことを示した。ただし、研究グループが主に測定したのは脳血液量であり、今回の結果だけから、REM睡眠中のBOLD信号が増加するか低下するかを直接判断することはできない。

一方、血流や血液量などの血管由来信号だけでは、神経細胞内のATP状態や、エネルギーの供給と消費のバランスを十分に把握できない可能性が示された。血管由来の信号を脳活動の指標として使う際には、その背後で神経細胞やアストロサイトの代謝状態がどのように変化しているのかも考慮することが重要になる。

この結果は、神経活動と血管反応の連動そのものがREM睡眠中に失われることを示したものではない。また、過去のfMRI研究が誤っていたことを意味するものでもない。血管からのエネルギー源供給、アストロサイトの代謝、神経細胞内のATP状態が、必ずしも単純に同じ方向へ変化しないことを示す研究成果と位置付けるのが適切である。

■先行研究を広域代謝イメージングへ発展

研究グループは先行研究で、REM睡眠中に視床下部のアストロサイトが酸性化するとともに、血流が増大することを報告していた。今回の研究は、この知見を大脳皮質の広域代謝イメージングへ発展させたものである。

また、2020年には松井教授も共著者に名を連ねた研究で、マウスの大脳皮質にある興奮性神経細胞内のATP濃度がREM睡眠中に低下することが、遺伝子コード型センサーを使って示されていた。

今回の研究では、頭蓋骨を開けずに大脳皮質の広い範囲を観察し、脳血液量の時空間変動、アストロサイト内ピルビン酸、神経細胞内ATPの関係を解析した。これにより、神経細胞内ATPの低下だけでなく、その際に血管とアストロサイトでどのような変化が起きているのかを、より包括的に捉えた。

■受動的な休息ではなく、能動的な情報処理としてのREM睡眠

今回の研究は、REM睡眠の概念的な理解にも影響する。睡眠はしばしば休息と捉えられるが、脳内では睡眠状態に応じた情報処理が行われている。特にREM睡眠では、夢を見たり、記憶を整理したりしていると考えられている。

今回観察された神経細胞内ATP濃度の低下は、こうした情報処理に伴う一時的なエネルギー再配分を反映している可能性がある。脳はエネルギーを均一に配るのではなく、脳の状態や情報処理の目的に応じて、血管からの供給、アストロサイトの代謝、神経細胞内での消費の関係を動的に組み替えている可能性がある。

現代のコンピューターとは異なり、生体の脳は限られた代謝エネルギーの下で、感覚、運動、記憶、感情、意思決定などの柔軟な情報処理を実現している。REM睡眠中に見られる動的なエネルギー配分を調べることは、脳が省エネルギーで柔軟な情報処理を実現する仕組みの理解にもつながると期待される。

東北大学大学院生命科学研究科の高橋佑輔大学院生は、「脳がエネルギーの供給と消費のバランスをどのように取っているのかを理解することは、生物学的知能がなぜこれほど効率的なのかを説明する助けになるかもしれない」と述べた。「REM睡眠は、複雑な内部処理を支えるために脳がエネルギー収支をどのように再編するのかを示す、自然な例を提供してくれる」。

REM睡眠中に神経細胞内ATP濃度が低下することが、鮮明な夢を見た後に感じるだるさや疲労の直接的な原因なのかは分かっていない。今回の研究が示したのは、主観的な疲労との因果関係ではなく、REM睡眠中には脳血液量とアストロサイト内ピルビン酸が増加する一方、神経細胞内ATP濃度が低下するという細胞レベルの現象である。

■注目ポイントQ&A

●なぜ鮮明な夢を見ると疲れるのですか?

この研究は、神経細胞内ATP濃度の低下と、夢を見た後に感じる主観的な疲労との間に直接的な因果関係があることを示したものではありません。東北大学の研究グループが確認したのは、REM睡眠中には脳血液量とアストロサイト内ピルビン酸が増加する一方、神経細胞内ATP濃度が低下するという現象です。このATP濃度の低下が、鮮明な夢の後に感じるぼんやりした感覚や消耗感を引き起こすかどうかは、今後の研究課題です。

●研究者はどのようにして頭蓋骨を開けずに生きた脳を観察したのですか?

マウスの頭蓋骨は、頭皮の下では比較的透明ですが、露出して乾燥すると急速に不透明になります。研究グループは、露出した頭蓋骨をUV硬化樹脂でコーティングし、湿潤で透明な状態を維持しました。これにより、頭蓋骨を開けずに、大脳皮質を広域蛍光イメージングで観察しました。

脳血液量は、血液中のヘモグロビンが蛍光を吸収し、血管が「影」として写る性質を利用して推定しました。これに加え、アストロサイトにはピルビン酸センサーを、神経細胞にはATPセンサーを発現させ、それぞれの細胞内の代謝状態を調べました。

●この発見は、fMRIによる睡眠研究が間違っていたことを意味するのですか?

過去のfMRI研究が間違っていたことを意味するわけではありません。今回示されたのは、REM睡眠中には脳血液量が増加しても、神経細胞内ATP濃度が増えるとは限らないということです。

fMRIのBOLD信号は、脳血流、脳血液量、血液の酸素化状態など複数の要因を反映します。そのため、今回の脳血液量の測定結果だけから、BOLD信号が増加するか低下するかを直接判断することはできません。一方、血管由来の信号だけでは、神経細胞内ATPの状態や、エネルギーの供給と消費のバランスを十分に把握できない可能性があります。

●この研究は人間にも当てはまりますか、それともマウスだけですか?

今回の研究は、すべてマウスを対象に実施されました。マウスと人間では睡眠の長さや現れ方が異なりますが、覚醒からノンREM睡眠に入り、その後REM睡眠へ移行するという基本的な睡眠状態の流れには共通点があります。

ただし、人間の脳でもREM睡眠中に同じような脳血液量、アストロサイト内ピルビン酸、神経細胞内ATPの変化が起きるかどうかは、この研究だけでは判断できません。今後、ほかの動物モデルを用いた検証や、人間を対象とした別の方法による研究が必要です。

元記事: Dreaming Drains Neuronal Energy Even as Blood Flow Rises, New Study Finds

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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