Anthropicの著作権訴訟、15億ドルの和解を最終承認――1作品3000ドル、拘束力ある判例にはならず

2026年7月22日 11:59

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記事提供元:Tech Times

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米連邦地裁は2026年7月20日、AI企業Anthropicが、Claudeのトレーニング用に数百万冊の海賊版書籍をダウンロードしたとして同社を訴えた著者・出版社との間で合意した15億ドル(約2445億円、1ドル=163円換算)の和解を最終承認した。米国の著作権集団訴訟として史上最大の支払額となり、著作物をAIに大規模に取り込む行為について、市場によって決まった価格が初めて示された形だ。

しかし、この判断で最も重要なのは、何が決着しなかったのかという点かもしれない。先行して2025年6月に当時の担当判事ウィリアム・アルサップ氏が示したフェアユース判断は、連邦地裁による一つの判断にすぎない。Anthropicが訴訟を控訴審まで争わず和解を選んだため、この判断が拘束力のある判例になることはない。Googleに対して2026年7月10日に提起された出版社らの新たな訴訟をはじめ、OpenAI、Meta、Midjourneyなどを巡って連邦裁判所で進行中の多数のAI著作権訴訟では、まったく異なる結論が示される可能性が残る。

訴訟が解決することと、法的な問題への答えが確定することは同じではない。この違いが、今回の判断が実際に達成したことを明確にしている。

■裁判所が15億ドルの和解を承認、著者側の異議を却下

アルサップ判事の退任後に訴訟を引き継いだ米連邦地裁のアラセリ・マルティネス=オルギン判事は、サンフランシスコで最終承認命令に署名し、和解を「公正かつ適切」と認定した。また、支払額が請求権の価値を過小評価していると主張した一部の著者による異議を退けた。最終承認命令によると、判事は和解額への不満について「裁判に伴う全体的なリスクと利益を現実的に評価したものではない」と判断した。

和解金は、対象となる約50万作品について、1作品あたり約3000ドル(約48万9000円、同)を、その作品の権利を持つ著者や出版社に支払う計算となる。適格な著作権者の92%以上が請求を提出した。和解の条件として、Anthropicは蓄積していた海賊版ファイルの破棄にも同意した。世界有数の規模とされる民間の書籍コーパスを構築していた同社にとって、運用面で大きな譲歩となる。

Anthropicの副法務顧問アパルナ・スリダール氏は、「和解の対象となる著者と出版社の91%以上が支払いの取り分を請求したことをうれしく思う。この件を終結させることを楽しみにしている」と述べた。原告側の主任弁護士ジャスティン・ネルソン氏は、「これは知られている限り、史上最大の著作権賠償である。可能な限り速やかにクラスの構成員への分配を進めたい」と評価した。

■Anthropicのデータ収集――購入書籍の裁断・スキャンと海賊版のダウンロード

この訴訟「Bartz et al. v. Anthropic PBC」(事件番号3:24-cv-05417、カリフォルニア州北部地区連邦地裁)は、小説家のアンドレア・バーツ氏、チャールズ・グレーバー氏、カーク・ウォレス・ジョンソン氏らを代表原告として、2024年に提起された。原告側の中心的な主張は、AmazonとAlphabetから出資を受けるAnthropicが、合法な方法と違法な方法の二つを使って書籍のトレーニング用コーパスを構築したというものだった。

合法とされた方法では、Anthropicは数百万冊の紙の書籍を大量に購入し、製本を外してページを裁断したうえで、機械で読み取れるデジタル形式にスキャンしていた。一方、違法とされた方法では、「Library Genesis」と「Pirate Library Mirror」から数十万冊のデジタル書籍をダウンロードしていた。両サイトは、著作権法に反して書籍や学術論文の海賊版を公開するシャドウライブラリとされる。

2025年6月、アルサップ判事は実質的に判断を二つに分けた。著作権のある書籍を使ったAIモデルのトレーニングについては、米国著作権法第107条に基づく変容的フェアユースに該当すると判断した。この判断は、AI業界にとって初の主要なフェアユース上の勝利として広く引用された。

しかし、700万冊を超える海賊版書籍を恒久的な「中央ライブラリ」として保有する行為については、フェアユースの保護対象外と判断した。この海賊版の取得・保有が、Anthropicを巨額の法定損害賠償リスクにさらした。米国著作権法第504条(c)(2)では、故意の著作権侵害に対し、1作品あたり最大15万ドル(約2445万円、同)の法定損害賠償が認められる。対象となり得る書籍が700万冊を超えるため、理論上の損害賠償額の上限は数千億ドルに達し、双方に和解を強く促す要因となった。

Anthropicが支払うべき金額を決める裁判は2025年12月に予定されていたが、同社は裁判開始前に和解した。

■他のAI企業が依然として訴訟リスクに直面する理由

ほかのAI企業、著作権者、関連訴訟を担当する連邦判事にとって、今回の和解における最も重要な限界は構造的なものだ。集団訴訟の和解は、拘束力のある判例を作らない。

アルサップ判事によるフェアユース判断は、カリフォルニア州北部地区連邦地裁の第一審判断だった。Anthropicが控訴せず和解したため、この判断が第9巡回区控訴裁判所や連邦最高裁判所で審理されることはない。他の連邦裁判所は、この判断に拘束されない。

ニューヨーク州南部地区連邦地裁では、Hachette Book Group、Cengage Learning、Elsevier、作家のスコット・トゥロー氏が、Geminiのトレーニングデータに海賊版が使われた疑いを巡り、Googleに対する新たな集団訴訟を2026年7月10日に提起している。同地裁は、AIトレーニングが変容的フェアユースに該当するかどうかについて、カリフォルニア州北部地区連邦地裁とは正反対の結論を出すこともできる。

HachetteらによるGoogleへの訴状には、Bartz訴訟にはなかった主張も含まれる。Googleが、取り込んだ作品の著作権情報を削除または改変し、「Geminiモデルが盗まれた素材でトレーニングされたことを隠す」行為をしたとされる点だ。これは、不注意なデータ調達にとどまらず、意図的な隠蔽があったとする主張である。訴状で引用されたGoogleの内部文書は、この慣行を「極めて問題がある」と表現し、100億~1000億ドル(約1兆6300億~16兆3000億円、同)の制裁金が科される可能性を警告していたと報じられている。

Metaを相手取った「Kadrey et al. v. Meta Platforms」(カリフォルニア州北部地区連邦地裁)も係争中だ。同訴訟では、大規模言語モデルのトレーニングに関する請求について、裁判所がフェアユースを理由とする一部棄却の申し立てを認めた一方、Torrent経由で取得された書籍に関する主張など、海賊版を巡る請求は残っている。トレーニング目的の利用は擁護できる可能性があるが、シャドウライブラリからの取得は擁護できないという構図が、一つの型になりつつある。

法的専門家は、拘束力のある控訴審判例が存在しないことこそ、残るすべての訴訟を巡る最大の不確実性だと指摘している。ある法的専門家は、大手AI企業について「これらの訴訟がもたらす知的財産権上の法的リスクを懸念する必要があるが、他者の創作物を海賊版として取得した、盗んだ、あるいは許可や対価なしに利用したと主張されることで、ブランドが傷つくリスクも懸念しなければならない」と述べた。

米国著作権局も2025年5月の報告書で、すべてのAIトレーニングが変容的フェアユースに該当するとの考えに懐疑的な見方を示した。特に商業目的で行われ、モデルの出力がライセンスされた原作品と直接競合する場合を問題視している。

■クリエイティブ業界にとって「1作品3000ドル」が意味するもの

今回の和解は、AIトレーニングデータを巡る議論で目立って欠けていたものをクリエイティブ業界にもたらした。それは市場価格である。約50万作品を対象とする1作品あたり約3000ドルという金額は、著作権のある書籍をAIトレーニングに利用する際の作品単位の評価額として、裁判所が初めて承認したものとなる。

ただし、この金額の受け止め方は立場によって大きく異なる。

著者コミュニティーの批判的な立場からは、3000ドルは商業的に成功した書籍が存続期間を通じて稼ぐ金額のごく一部にすぎないとの声が出ている。また、資金力のあるAI開発企業による著作物の大規模な取り込みについて、事実上の市場価格を設定するものであり、ライセンス料として直接提示されていれば、多くの著者は同意しなかっただろうとの主張もある。

Anthropicの企業評価額は、和解が発表された2025年9月以降に大幅に上昇し、2026年7月までに未公開株の流通市場で約1兆2000億ドル(約195兆6000億円、同)に達したとされる。これを前提にすると、15億ドルの和解総額は推定評価額の0.1%未満となる。

一方、テクノロジー業界の弁護士で、元第9巡回区控訴裁判所書記官のセシリア・ジニティ氏は、今回の結果を構造的な転換の始まりと捉えている。同氏は「この和解は、トレーニングデータについて、合法的かつ市場に基づくライセンス制度へと進化するために必要な一歩の始まりを示すものだ。AIの終わりではなく、音楽業界がデジタル配信に適応したのと同じように、クリエイターが対価を受け取る、より成熟した持続可能なエコシステムの始まりである」と述べた。

音楽業界との比較は示唆的だ。Napsterは訴訟を受けて2001年に閉鎖され、その後に登場したストリーミング配信のライセンス制度が成熟するまでには10年以上かかった。Anthropicの和解は一つの価格データを示したにすぎない。この金額が新たな市場における下限となるのか、それとも他のAI企業が同水準の支払いを避けようとする例外的な事例になるのかは、Google、Meta、OpenAIを巡る訴訟の展開に大きく左右される。

Eckert Seamansの弁護士ニック・シュナイダー氏は、今回の和解が業界全体に明確なメッセージを送るものだと指摘した。それは「新しいAI企業は、合法的なデータ取得に投資し、ライセンス契約を交渉し、すべてのトレーニング資料を慎重に記録しなければならない」というものだ。

今回示された重要な法的境界線は、AI企業がシャドウライブラリの海賊版を使ってトレーニング用コーパスを構築し、その後、トレーニング目的のフェアユースを持ち出して取得行為まで遡って正当化することはできないという点にある。海賊版の取得とトレーニングへの利用は、法的に分けて判断できる行為であり、フェアユースの保護を受け得るのは一方だけである。

■異議申し立て、オプトアウト、そしてAnthropicの次なる課題

和解は原告クラス内で満場一致だったわけではない。一部の著者や出版社は、請求権の価値が過小評価されている、弁護士への報酬が過大である、特定の著作権者が不当に対象外とされているなどと主張したが、マルティネス=オルギン判事はいずれの異議も退けた。判事は、和解基金から原告側弁護士に支払う報酬と訴訟費用として、約1億2200万ドル(約198億9000万円、同)を認めた。

和解からオプトアウトした著者らがAnthropicに対して提起した別の訴訟は、現在も係争中である。さらにAnthropicは、Universal Music Group、Concord Music Group、ABKCOが2026年1月に提起した30億ドル(約4890億円、同)の音楽著作権訴訟にも直面している。この訴訟では、Claudeのトレーニングに歌詞や楽譜を使用した疑いを巡り、Anthropicだけでなく、CEOのダリオ・アモデイ氏と共同創業者のベンジャミン・マン氏も個人として被告に指定されている。

法的責任を認めていないAnthropicは、自社に有利な判断、すなわち書籍を使ったAIトレーニングがフェアユースに該当するとの判断を強調した。スリダール氏は「裁判所が、書籍を使ったAIトレーニングは著作権法上のフェアユースに当たるという画期的な判断を示した後、当社は2025年にこの和解に達した。その判断は現在も有効な法である」と述べた。

ただしAnthropicは、この主張の限界には公に言及していない。「現在も有効な法」であるのは、カリフォルニア州北部地区連邦地裁による第一審判断としてであり、他の裁判所を拘束するものではない。

15億ドルという金額は、今後何年にもわたり、AIと知的財産に関係する証言録取の場や企業の役員会議で参照されることになるだろう。しかし、業界が最も答えを必要としている問題を解決するものではない。著作権のある作品を使った商用AIモデルのトレーニングについて、裁判所が最終的に変容的フェアユースと認めるのか、認めないのかという問題である。この問いは未解決のままであり、その答えが示される法的な舞台はサンフランシスコの外にも広がっている。

■注目ポイントQ&A

●この和解により、AI企業が著作権のある書籍をモデルのトレーニングに合法的に使用できるようになりますか?

拘束力のある法的判例として、そのような結論が確定したわけではありません。和解に先立ち、アルサップ判事は著作権のある書籍を使ったAIトレーニングが変容的フェアユースに該当し得ると判断しました。しかし、これはカリフォルニア州の一つの連邦地裁による判断であり、和解によって控訴審で審理されることもなくなりました。Geminiのトレーニングデータを巡るGoogleへの訴訟を審理するニューヨーク州の連邦地裁を含め、他の連邦裁判所は異なる結論を出すことができます。米国著作権局も、特にAIの出力がライセンスされた原作品と競合する場合、商業的なAIトレーニングのすべてがフェアユースに該当するとの考えに懐疑的な見方を示しています。

●個々の著者や出版社は、この和解から実際にいくら受け取ることになりますか?

対象となる推定約50万作品について、1作品あたり約3000ドル(約48万9000円、同)が分配されます。適格な著作権者の92%以上が請求を提出しました。各請求者が実際に受け取る金額は、対象となるコーパス内の作品を何点保有しているかによって異なります。集団訴訟からオプトアウトした著者は個別の訴訟を進めており、今回の和解基金から支払いを受けることはありません。

●Anthropicのどのような行為が法的責任を問われる原因となったのですか?

判断では、二つの行為が区別されました。アルサップ判事の分析では、著作権のある文章を使ったAIトレーニングはフェアユースに該当する可能性があり、この部分についてはAnthropicに有利な判断が示されました。一方、Library GenesisやPirate Library Mirrorなどのシャドウライブラリから700万冊を超える書籍をダウンロードし、恒久的に保管する行為は保護されませんでした。その後の書籍の用途にかかわらず、海賊版を取得する行為は著作権侵害となり得ます。下流工程であるトレーニング利用についてフェアユースを主張しても、先行する海賊版の取得行為まで合法化されるわけではありません。Anthropicに1作品あたり最大15万ドルの法定損害賠償リスクを生じさせたのは、トレーニングそのものではなく、データの取得方法でした。

●この和解は、現在進行中の他のAI著作権訴訟にどのような影響を与えますか?

強力な金銭的基準を示すとともに、シャドウライブラリからのデータ取得に対する明確な警告となりますが、他社を巡る法的問題を解決するものではありません。Google、Meta、OpenAI、Midjourneyを巡る訴訟は現在も継続しており、それぞれ異なる事実関係に基づいて判断されます。Googleへの訴訟を扱うニューヨーク州の連邦地裁は、カリフォルニア州の連邦地裁による判断に拘束されません。今回の和解によって他の訴訟でも和解協議が加速する可能性がありますが、1作品あたりの価格が示されたことで、被告側がその水準を受け入れず争う可能性もあります。

元記事: Anthropic Copyright Settlement Gets Final Approval: $3,000 Per Book, No Binding Precedent

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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