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忘れ去られたCLIから年間売上25億ドルへ、Anthropic「Claude Code」誕生の軌跡

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現在、GitHubのパブリックコミット全体の約4%を占めるとされるAnthropicの「Claude Code」。2022年の大半において開発チーム自身から「ほぼ忘れ去られていた」というVS Code拡張機能が、いかにして企業向けソフトウェア史上最速の急成長を遂げたのか。その誕生の軌跡と、自律型(エージェンティック)コーディングツールの未来を探る。
■計画になかったAnthropic初の製品
ダリオ・アモデイ氏とダニエラ・アモデイ氏が2021年にOpenAIを去り、十数名の研究者とともにAnthropicを設立したとき、同社の目的は「AIの安全性研究」であり、製品のリリースではなかった。共同創業者のベン・マン氏によれば、当時、何らかの製品を構築するという決定自体が「社内でかなり物議を醸す決断だった」という。
議論の末にチームが開発を決めた最初の製品は、一般的なアシスタントではなく、プロンプトごとに4つのコード候補を提示するVS Code拡張機能だった。当時入社したばかりの研究エンジニア、ドーン・ドレイン氏は、モデルのコーディング能力を「少なくとも自分と同等にする」という、控えめながらも明確な目標を掲げていた。
同時に、強化学習リードのショーナ・クラベック氏のチームは、より野心的なビジョンを追求していた。彼らが目指したのは単なるコード補完ではなく、自律的にソフトウェア開発を行う「仕事ができる」モデルだった。AIがいずれ複雑な知識労働を担うようになるなら、まずはソフトウェア開発をマスターしなければならないという考えから、2022年を通じて強化学習を用いたモデルの訓練を重ねた。しかし、クラベック氏自身が振り返るように、初期の成果は「本当にひどいもの」だったという。
このコーディングアシスタントは、約100人の外部ユーザー向けに一時的に公開されたものの、チームがAnthropic APIの提供へと舵を切ったため、マン氏の言葉を借りれば「しばらくの間、ほぼ忘れ去られた存在」となった。
■「エージェンティック・ループ」への技術的飛躍
後にClaude Codeへと結実する技術的基盤は、2つの並行した進歩から生まれた。2022年末までに、クラベック氏のチームはモデルに「Bashツール呼び出し機能」(コードベース内でコマンドを自由に検索・実行する能力)を与えた。また、ドレイン氏は、既存コードの修正に最も適した形式である「コードの差分(diff)」をClaudeに書き込ませる手法の開発に、長い時間を費やした。
これらの進歩は、エンジニアのエリ・トラン=ジョンソン氏が考案した「clide」と呼ばれる社内コマンドラインツール(CLI)で融合した。clideの重要なアーキテクチャ革新は、単一のコンテキストウィンドウには収まらない大規模なコードベースに対し、最大100個の「Claude Haiku」モデルを並列に呼び出して質問に答えられる点にあった。GitHub Copilotが「次の1行」を提案するのに対し、clideはリポジトリ全体を理解し、数十のファイルにまたがる変更を同時に提案できた。
この「エージェンティック・ループ(自律的ループ)」と呼ばれるアーキテクチャは、コード補完とは根本的に異なる。エージェントは指示を受け取ると、コードベースの現状を評価し、実行すべきツール(ファイルの読み込み、テストの実行、シェルコマンドの実行など)を決定し、その結果を受けて次の行動を繰り返す。Claude Codeのリードエンジニアであるアダム・ウォルフ氏が初期の「エージェント機能」を追加し、不完全な変更からユーザーの意図を推測できるようにした際、初めてそれが機能した瞬間を振り返り、ウォルフ氏は「台所で踊り出すほどうれしかった」と語っている。
この構造的な違いこそが、開発者の高い支持につながっている。The Pragmatic Engineerが2026年2月に実施した開発者906人への調査によると、Claude Codeの「最も気に入っている」という評価は46%に達し、GitHub Copilotの9%を大きく上回った。Copilotが1行ずつの提案を得意とするのに対し、Claude Codeは機能そのものを完成させることができるためだ。
ドレイン氏は「モデルの能力の閾値を超えたとき、製品としての形が自ずと明らかになる」と指摘する。clideはその閾値を超える何年も前から存在していたが、制作者の一人によれば、当時は「不安定で、時代を先取りしすぎていた」という。
■競争優位性としての「安全性研究」
Claude Codeの成功において見落とされがちなのが、Anthropicの「AI安全性」というミッションと、エンタープライズ市場での優位性との因果関係である。「安全性研究所からシリコンバレーへ」という構図は、商業化への消極的な方向転換を連想させるが、実際の経緯は異なる。
Anthropicの安全性最優先の文化は、人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)や、体系的な評価フレームワーク、慎重な能力評価といった「技術的規律」を生み出した。これが、Claude Codeの自律型アーキテクチャを企業が導入できるレベルの信頼性にまで高める原動力となった。当初は製品開発の是非で社内議論を呼んだ研究文化こそが、自信満々に誤情報を出力(ハルシネーション)する他のツールとClaudeを区別する、厳格な評価体制を作り上げたのである。
AnthropicのシリーズG資金調達の発表によると、現在、フォーチュン10企業の8社がClaudeを採用している。ソフトウェア開発ワークフローの自動化を導入する企業にとって、ツールが誤ってデータベースを削除しないという信頼性は不可欠であり、その信頼は同社の厳格な研究姿勢に裏打ちされている。
■すべてを作り上げた「2週間のスプリント」
2024年1月、マン氏は「エージェンティック・コーディング」の市場の隙間を狙うため、社内に「Labs」チームを立ち上げた。同年9月にはボリス・チェルニー氏が加わり、「今日のモデルではなく、6ヶ月後のモデルを見据えて開発せよ」という方針を掲げた。
チェルニー氏が最初に2日間で作成したプロトタイプは、Apple Musicのスクリーンショットから再生中の曲を特定するだけの最小限のCLIだった。社内のSlackに投稿したものの、反応は薄く、その価値を完全に理解する者はいなかった。
流れを変えたのは、前述の社内ツール「clide」だった。チェルニー氏が提出したプルリクエスト(PR)に対し、ウォルフ氏が「代わりにclideを使ってみて」と却下したため、チェルニー氏が課題の概要をclideに入力したところ、わずか5〜10行の完全な修正コードが書き出された。「その瞬間から、かつてない切迫感に襲われた」とチェルニー氏は振り返る。
2024年12月、Labsチームは最後の追い込みに入った。チェルニー氏とエンジニアのシド・ビダサリア氏の2人だけだったチームは、8〜9人のエンジニア体制へと拡大。わずか2週間で、バグ報告、ログインフロー、自動アップデート、利用メトリクスなど、出荷に必要なほぼすべての機能を構築した。PRレビューの制限をなくし、修正は即座に反映され、ユーザーは5分以内に新しいバージョンを受け取れる体制を整えた。
この少人数体制は、結果として有利に働いた。人員不足のため、エンジニアたちは開発ペースを維持するためにClaude Codeを徹底的に使い込まざるを得なかった。2025年2月の製品ローンチまでに、そのコードベースの約90%がClaude Code自身によって書かれていたという。これは技術的なマイルストーンであると同時に、製品の実用性を自ら証明するものとなった。
マン氏は、この製品哲学を次のように表現している。「現時点では成功率が20%から30%にとどまる製品であっても、今ビルドしなければならない。そうすれば、次のモデルが登場したときに、その成功率を80%にまで引き上げることができるからだ」
■ソフトウェア開発の民主化と実社会への影響
開発の歴史において最も人間味あふれるエピソードの一つに、障害を持つティーンエイジャーを支援するアラスカの非営利団体(NPO)の例がある。この団体は、以前はペンと紙で活動を調整していたが、Claude Codeを利用することで、独自のタブレット用アプリを構築し、手書きの燃料配送ログを構造化データベースに自動転記するシステムを開発した。これは、外部に委託する予算がなかった彼らにとって、AIなしでは不可能なことだった。
このような影響は、売上高などの数字だけでは測れない。プロダクトリードのキャット・ウー氏は、ユーザーの行動に静かな変化が起きていると指摘する。ローンチ当初、ユーザーはツールが求める実行権限の要求を不安そうに1つずつ確認していたが、2025年中頃には、多くのユーザーが「すべて自動許可する」を選択するようになった。「信頼は積み重ねるものであり、最初から機能として出荷できるものではない」とチームは学んだという。
チェルニー氏自身も、この変化を体感している。2025年2月の時点で、Claude Codeが彼のコード作成を支援した割合は約10%だったが、5月には40%、そして2025年冬には100%に達した。現在、彼の1日は最大88回のコミットに及ぶこともあるが、手書きされたコードは1行もないという。
■急成長を示す実績と市場の評価
成長を示す指標については、正確な文脈での理解が必要である。Claude Codeは、2025年5月の一般公開(GA)ローンチから6ヶ月以内に、年間換算売上高(ランレート)10億ドル(約1,620億円、1ドル=162円換算)に達した。複数のアナリストは、これを企業向けソフトウェア史上最速の「10億ドル達成ペース」と評している。ただし、この比較は確定売上高ではなくランレートに基づいたものであり、「史上最速」という表現はAnthropic自身ではなく、主に業界アナリストによる主張であることは、同社のシリーズG開示情報でも確認されている。
2026年2月までに、この数字は25億ドル(約4,050億円)に達したことが、AnthropicのシリーズG発表およびReutersによる同社の資金調達(評価額3,800億ドルでの300億ドル規模の調達ラウンド)の報道で確認されている。また、調査会社SemiAnalysisの2026年2月の分析によると、Claude CodeはパブリックなGitHubコミット全体の約4%(1日あたり約13万5,000件)を執筆しており、2026年末までにそのシェアは20%を超える可能性があると予測されている。
さらに、The Pragmatic Engineerが2026年2月に実施した開発者906人を対象とした調査では、満足度においてClaude Codeが46%で首位となり、Cursorの19%、GitHub Copilotの9%を抑えた。これは、GitHub Copilotが4年の先行アドバンテージを持ち、Microsoftの強力な販売網を擁していることを考えると驚異的な結果である。なお、同誌の読者は技術先進企業の経験豊富なエンジニアに偏っているため、この調査は世界全体の平均的な開発者層というよりも、シニア開発者の意向を示す先行指標としての側面が強い。
■急速な進化に伴うセキュリティ上の課題
Claude Codeの急成長を支えた迅速な開発サイクルの一方で、自動化パイプラインで同ツールを使用するにあたり、企業が留意すべきセキュリティ上の事象も報告されている。
2026年3月、Anthropicはデバッグファイルの構成ミスにより、Claude CodeのTypeScriptソースコード51万2,000行をパブリックなnpmレジストリに誤って公開した。また、2026年6月には、Microsoftのセキュリティ研究者が、Claude CodeのGitHub Actionにおけるプロンプトインジェクションの脆弱性を報告した。これにより、エージェントが信頼できないGitHubのIssueやプルリクエストのコンテンツを処理する際、APIキーやクラウドの認証情報を含むCI/CDパイプラインのシークレットが漏洩するリスクが指摘された。Anthropicは共同公開プロセスを経て、2026年5月にこの脆弱性を修正(Claude Code 2.1.128)している。Microsoftの研究者はこれを「自然言語が実行コードとなる時代において、GitHubのIssueのような信頼できない入力は、デフォルトで敵対的なものとして扱う必要がある」という構造的なリスクとして位置づけている。
さらに2026年6月には、Claude Codeがシステムプロンプトの日付行に埋め込まれた不可視のUnicode文字を使用し、中国系のAPIプロキシを経由するリクエストを識別するための隠しシグナルを密かにエンコードしていたことが開発者によって発見された。Anthropicはこのコードの存在を認め、不正なアカウントを通じて1,600万回以上のやり取りを行った中国のAI研究所による「蒸留攻撃(モデルの模倣)」を検出するためのものだったと説明した。この識別コードはバージョン2.1.197で削除されたが、公式の変更履歴(changelog)にその記載はなかった。
2026年7月には、中国工業情報化部のサイバーセキュリティプラットフォームが、Claude Codeのバージョン2.1.91から2.1.196に存在するこの監視メカニズムについて「重大な脅威」であると警告した。これに対しAnthropicは、そもそも中国のユーザーには同製品の使用許可を与えていないと回答している。
これらの事象は、適切な権限モデルを理解し、信頼できない入力を処理するCI/CDパイプラインを、対話型の開発セッションとは明確に区別してリスク管理することの重要性を示している。
■「まだ1%しか完成していない」が意味すること
開発の歴史の締めくくりとして、チェルニー氏はClaude Codeが「まだ1%しか完成していない」と主張する。同氏は、この製品の現在地を示すために、人類が初めて機械と対話を試みた「IBM 029カードパンチ」と、現在のすべてのMacにプリインストールされている「テキストエディタ」の2つを挙げ、Claude Codeはその中間のどこかに位置していると述べている。
この「1%」という表現が指し示す課題は具体的である。真の長期的な自律動作、セッションをまたぐ永続的なメモリ、複雑なコンテキスト管理、そしてオープンワールドにおける計画立案などは、まだ実用レベルには遠い。現在のツールはプルリクエストを完了させることはできても、コンテキストを失わずに1ヶ月に及ぶプロジェクト全体の意図を維持することはできない。今日のClaude Codeができることと、チームが将来実現できると信じていることの間には、カードパンチとテキストエディタほどの大きな隔たりがあるという。
クラベック氏はタイムラインについてより楽観的であり、今後数年のうちに、現在の想像を超えるような変化がわずか数ヶ月の間に起こる可能性があると信じている。
現在ツールの選定を迫られている開発者にとって重要な問いは、Claude Codeが限界に達したかどうかではない。そうではないことは明らかだからだ。真の問いは、今日から自律型ツールとの協働を学び始めるエンジニアリングチームが、今後18ヶ月にわたってその優位性を積み重ねていけるかどうかである。それは、2025年中頃にいち早くClaude Codeを導入したチームが、現在、後発のチームに対して圧倒的なアドバンテージを持っているのと同じ構図である。
■注目ポイントQ&A
●Claude Codeは誰が開発したのですか?また、なぜAI安全性の研究企業がコーディングツールを作ったのですか?
Claude Codeは、ボリス・チェルニー氏が率いるAnthropicのチームによって開発されました。これにはドーン・ドレイン氏、ショーナ・クラベック氏、アダム・ウォルフ氏らによる初期の研究が活かされています。AI安全性との関連は偶然ではありません。人間のフィードバックによる強化学習や厳格な評価フレームワークといったAnthropicの安全性研究の手法が、企業での実用に耐えうる信頼性をClaude Codeにもたらしました。当初は製品開発の是非で社内議論を呼んだ安全性最優先の文化が、結果として信頼性の高いコードを出力する厳格な評価体制を生み出すことになりました。
●Claude CodeはGitHub Copilotとどのように違うのですか?
GitHub Copilotはエディタ内での「行レベル」の提案を行います。ユーザーがコードを入力する際に、それに続く数行を提案する仕組みです。一方、Claude Codeは「タスクレベル」で動作します。達成したい目的を指示すると、ツール自身が計画を立て、複数のファイルにまたがるコードを書き、テストを実行し、シェルコマンドを実行しながら、タスクが完了するまで自律的にプロセスを繰り返します。アーキテクチャとしては、単発のコード提案ではなく、評価・実行・観察・反復を繰り返す「エージェンティック・ループ」を採用しています。
●Claude Codeは企業の自動化パイプラインで安全に使用できますか?
使用するパイプラインの性質によります。開発者がエージェントの動作を監視する対話型の開発セッションにおいては、段階的な権限モードや実行前の安全分類器、人間の承認をデフォルトとする設計など、安全なアーキテクチャが整っています。しかし、パブリックなGitHubのIssueやプルリクエストなど、信頼できない入力を処理する自動CI/CDパイプラインにおいてはリスクが異なります。2026年6月に報告された脆弱性では、悪意あるIssueの内容によってパイプラインのシークレットが読み取られる危険性が指摘されました。そのため、信頼できない入力の分析と、特権を伴う処理を実行するジョブを分離し、APIキーの権限を最小限に制限するなどの対策が推奨されます。
●「まだ1%しか完成していない」とは、現時点でツールを選ぶ開発者にとってどういう意味を持ちますか?
ボリス・チェルニー氏が指摘する「1%」とは、長期的な自律動作(コンテキストを失わずに数日間に及ぶタスクを実行する能力)、セッションをまたぐ永続メモリ、人間による軌道修正なしに曖昧な目標を処理する「オープンワールド計画立案」といった高度な機能が未実装であることを意味します。これらの制限があるため、長期の自律ワークフローに導入する際は、人間によるレビューチェックポイントを設ける必要があります。しかし、これは現在のClaude Codeと近い将来のバージョンの差が、現在の競合ツールとの差よりもはるかに大きくなる可能性を示唆しており、早期に導入してワークフローの設計経験を積むことが長期的な強みになります。
元記事: Claude Code Origin Story: How a Forgotten CLI Became the Fastest Enterprise Software Ever
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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