W杯で取引額39億ドル突破の予測市場、米複数州で差し止め命令など法的包囲網が急拡大

2026年7月7日 11:34

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記事提供元:Tech Times

サッカーの2026年FIFAワールドカップ(W杯)を背景に、予測市場プラットフォームが空前の活況を呈している。Polymarketの「W杯勝者」予測市場だけで取引額は39億ドル(約6279億円)に達したが、その一方で米国内の法的な基盤は急速に揺らいでいる。現在取引を行っているユーザーは、居住する州によっては、連邦政府が規制する金融市場の参加者になるか、あるいは27日後には州法上の重罪犯(フェロニー)になるかという極めて不安定な境界線上に立たされている。

■W杯市場で何が起きているのか

Polymarketが2025年7月に開設した「W杯勝者」予測市場は、これまでに39億ドル(約6279億円、1ドル=161円換算)の取引高を記録し、同プラットフォーム史上最大の単一契約となった。決勝トーナメント16強(ラウンド16)入りを前に、フランスが35セント(勝率35%に相当)、アルゼンチンが17%で続いている。

従来のスポーツブック(ブックメーカー)とは異なり、予測市場はピア・ツー・ピア(P2P)の取引所として機能する。ユーザーはセント単位で価格が設定されたバイナリ(二者択一)または複数選択肢の契約シェアを購入し、予測が的中すれば1シェアあたり1ドルが支払われる仕組みだ。価格は胴元が設定するのではなく、需要と供給によって常に変動する。PolymarketはPolygonブロックチェーン上で取引を処理し、決済には米ドル連動型ステーブルコインのUSDCを使用している。一方、米国のもう一つの主要プラットフォームであるKalshiは、米商品先物取引委員会(CFTC)に登録された中央集権型の取引所として運営されており、ユーザーの資金を米ドルで管理している。

この急成長に伴い、Polymarketは年間換算収入が10億ドル(約1610億円)を超えたことを確認した。同社は2026年3月の資金調達ラウンド後に150億ドル(約2兆4150億円)の評価額をつけ、競合のKalshiは2026年5月に220億ドル(約3兆5420億円)の評価額で10億ドルを調達した。ニューヨーク証券取引所(NYSE)もPolymarketに6億ドル(約966億円)を出資している。さらに、予測市場のエコシステムにはRobinhoodやCoinbase、Susquehanna International Groupが支援するRotheraなどが参入しており、ADI Predictstreetは今大会におけるFIFA初の公式予測市場パートナーとなった。

■予測市場を禁止・制限する米各州の動き

活況を呈する取引データの裏で、米国内の少なくとも18州が予測市場運営者に対して何らかの法的措置を講じており、少なくとも3州がアクセスを完全に停止できる裁判所の差し止め命令を勝ち取っている。

全米初の全面禁止法を可決したミネソタ州では、予測市場の運営やその支援行為が州法上の重罪(フェロニー)となり、2026年8月1日に施行される。同州の連邦地方裁判所では先週、KalshiとPolymarketが「スポーツイベントの契約は従来のスポーツ賭博と本質的に異なるのか」と疑問を呈する判事と対峙した。

ミシガン州は、ネバダ州とマサチューセッツ州に続き、Kalshiに対する裁判所の差し止め命令を取得した3番目の州となった。2026年6月30日、一時的差し止め命令が承認され、Kalshiは同州内でのスポーツ市場契約の停止を余儀なくされている。また、ネバダ州最高裁判所はKalshiの緊急執行停止申し立てを却下し、同州を対象から除外するジオフェンシング(位置情報制限)を怠ったとして、7月16日に法廷侮辱罪の審問が予定されている。コネティカット州やテネシー州などもプラットフォーム排除に動いており、ノースカロライナ州やニュージャージー州では予測市場への課税強化が進められている。

■法廷闘争の論点:スポーツ賭博か金融商品か

プラットフォーム側が米国で存続するための唯一の法的根拠は、「CFTCに登録された指定契約市場で取引されるイベント契約は、商品取引所法(CEA)およびドッド・フランク法に基づき、連邦法が独占的に規制するため、州の賭博法は適用されない(連邦法による優先排除)」という主張だ。CFTCのマイケル・S・セリグ委員長のもと、同委員会はこれまでにアリゾナやニューヨークなど9つの州を相手に、連邦政府の独占的管轄権を主張する訴訟を提起している。

これまでの最も重要な判決は2026年4月6日、米連邦第3巡回区控訴裁判所がニュージャージー州に対するKalshi側の差し止め命令を支持した件だ。控訴裁レベルでこの問題に言及したのはこれが初となった。しかし、マサチューセッツやミシガンなどの裁判所は、連邦の商品規制と州の賭博規制権限は共存できるとの見解を示しており、判断が分かれている。最高裁判所での決着も見据えられており、サミュエル・アリート最高裁判事はニュージャージー州に対し、2026年8月4日までに上告申立書を提出するよう期限を設定した。

元連邦検事のジェフリー・アルバーツ弁護士はCBS Newsに対し、優先排除の議論は一理あるとしつつも、「CEAは歴史的に州が担ってきた依存症や公衆衛生の懸念に対処するよう設計されていない」と指摘する。アメリカ賭博協会(AGA)のクリス・シルケ氏も、「CFTCという小規模な機関が、実質的に全国のスポーツ賭博規制当局としての役割を果たせるのかという現実的な疑問がある。我々は不可能だと考えている」と述べた。

■連邦法が勝利した場合の影響

もし連邦裁判所が最終的に、スポーツイベント契約は賭博ではなく「CFTCが規制するデリバティブ(金融派生商品)」であると認めれば、米39州がライセンス制のスポーツ賭博のために構築してきた規制枠組みが事実上無効化されることになる。あらゆる事業者がイベント契約として取引を構成し、CFTCの指定を受ければ、州のゲーミング委員会や年齢確認、責任あるギャンブルの義務付け、依存症対策ルールを完全に回避できるようになる可能性がある。

だからこそ、2024年に165億ドル(約2兆6565億円)の賭博産業を擁するネバダ州や、参加を重罪化したミネソタ州は激しく抵抗している。ミネソタ州司法長官事務所は連邦地裁で、「議会は予測市場が全50州で合法的なスポーツ賭博の抜け穴になることを意図したことはない」と主張した。これはニッチな暗号資産プラットフォームの規制問題ではなく、米国の賭博における法的支配権を誰が握るかという争いなのだ。

■手数料の安さと引き換えの技術的リスク

Polymarketはイーサリアムのレイヤー2ブロックチェーンであるPolygon上で動作するため、取引手数料は0.01ドル未満と極めて低い。米国向け取引所ではテイカー手数料0.05%を徴収するが、これはKalshiの約1%や、従来のスポーツブックが保持する4〜5%のマージンを大幅に下回る。決済は即時かつ自動で行われ、市場が解決するとUSDCがオンチェーンでユーザーのウォレットに戻る。結果の検証にはUMAの楽観的オラクル(Optimistic Oracle)が使用される。

一方、Kalshiは米ドル建てで資金を中央管理し、残高に対して3.75〜4%の年利(APY)を支払い、1トレーダーあたりのポジションを原則2万5000ドル(約402万5000円)に制限している。手数料の差は大きいが、リスクの性質も異なる。Polymarketのブロックチェーンモデルでは、スマートコントラクトのリスクやオラクルのリスクに加え、2026年6月25日に発生したフロントエンドへのハッキング(11個のウォレットから310万ドルが流出)のようなサプライチェーン攻撃のリスクをユーザー自身が負うことになる。なお、どちらのプラットフォームも連邦預金保険公社(FDIC)や証券投資家保護公社(SIPC)による通常の保護対象外である。

■依存症リスクと年齢制限の欠如

予測市場は多くの州で18歳から利用可能である。これは、州の賭博法とは異なり、CFTCの規制が21歳以上の年齢制限を課していないためだ。しかし、ヘンリー・フォード・メイプルグローブ・センターなどの医療専門家はCNNに対し、これらのプラットフォームがカジノ賭博と同じ報酬回路を刺激し、若年層において感情的な成熟度と金銭的なアクセスの容易さとの間にギャップが生じていると警告する。Kalshiのデータ(同社は否定)によると、中央値のユーザーは登録後90日以内に残高の1%から7%を失っているという。

ロードアイランド州司法長官は、オンライン賭博参加者の最大15.8%が強迫的行動を示すという研究を引用し、予測市場の拡大に伴い、州のロト賭博が2024年から2025年にかけて8%減少したと報告した。NBAやPGAツアーもCFTCに対し、スポーツイベント契約の最低取引年齢を21歳に引き上げるよう正式に求めている。これに対し、Kalshiは今週「Kalshi Truth」と称するメッセージキャンペーンを開始し、価格発見機能やP2P構造、CFTCの監視がある点でカジノやライセンス制スポーツブックとは本質的に異なると反論している。

■インサイダー取引、偽の賭け、市場操縦の課題

市場の健全性(インテグリティ)も課題となっている。2026年にはPolymarketでのインサイダー取引を巡り、2件の刑事事件が立件された。4月には米陸軍特殊部隊の曹長がベネズエラ指導者ニコラス・マドゥロ氏拘束に関する機密情報を用いて40万ドル以上を得たとして起訴され、5月にはGoogleのセキュリティエンジニアがGoogleの内部データを利用して120万ドルを稼いだとして逮捕された。Polymarketの最高法務責任者は、ブロックチェーンの透明性によってすべての取引が追跡可能だったことが立件につながったと強調している。

また、Polymarketが5カ月にわたり実施した有料クリエイターキャンペーンでは、インフルエンサーがウェブサイトのクローンコピー上で偽の的中画面を撮影し、広告表記なしで投稿して1億4000万回以上の再生回数を記録した。CFTCはこのキャンペーンを調査中であることを認めており、議会は2026年7月10日を期限として書面での回答を求めている。さらに、7月初旬にはKalshiの市場におけるボット活動の影響で、特定の楽曲がSpotifyの米国ストリーミングチャートのトップに押し上げられ、Spotifyが50万回以上の不正再生を削除する事態も発生した。取引規模が拡大する中で、市場監視が情報に基づく取引と組織的な操縦をリアルタイムで見極められるかという構造的な問いが突きつけられている。

■今、これらのプラットフォームを利用すべきか

ミネソタ、マサチューセッツ、ミシガンなど、現在有効な裁判所命令が出ている州に居住していない場合、プラットフォーム側の連邦優先排除の主張に基づき、現時点でのアクセスは合法とされている。しかし、ミネソタ州の居住者は8月1日(4週間未満)から刑事訴追のリスクに直面する。ミシガン州ではKalshiのスポーツ契約が一時停止されている。利用前には必ず両プラットフォームの最新のジオフェンシング開示情報を確認する必要がある。

また、21歳未満であっても多くの州でアカウントを開設できるが、ライセンス制のスポーツブックに義務付けられているような依存症防止の枠組みは適用されない。W杯の熱狂によって拡大したこのシステムは、法的なリスクを抱えたまま、次の主要トーナメントが始まる前に最高裁判所での決着へと向かうことになる。

■注目ポイントQ&A

●米国において予測市場は合法ですか?

現在はCFTCの連邦監視のもと、多くの州で合法的に運営されています。CFTCは商品取引所法に基づきイベント契約の独占的管轄権を主張していますが、少なくとも18の州がこれに異議を唱え、訴訟や停止命令、法改正を行っています。ミネソタ州では2026年8月1日から参加が重罪となります。取引前に居住する州の最新の規制状況を確認してください。

●なぜ依存症の専門家や州の司法長官は、これらを「賭博」と呼ぶのですか?

不確実な結果に対して金銭を賭け、その成否で配当を得るという経済的構造が、規制上のラベルに関係なくギャンブルと同じ脳の報酬系を刺激するためです。ロードアイランド州が引用した研究では、オンライン賭博利用者の最大15.8%が強迫的行動を示すとされています。NBAやPGAツアー、ペンシルベニア州ゲーミング統制委員会などは、スポーツブックと同様に21歳以上の年齢制限を課すよう求めています。

●裁判での争いは、通常のスポーツ賭博にどう影響しますか?

もし裁判所がプラットフォーム側の主張を認め、連邦法による優先排除が成立した場合、あらゆる企業がイベント契約の形式をとることで、39州が整備してきたライセンス制スポーツ賭博の規制(年齢確認、消費者保護、依存症対策など)を完全にバイパスして運営できるようになる可能性があります。そのため、既存の賭博産業を抱える各州が強く反発しています。

●プラットフォームが自分の州で閉鎖された場合、資金はどうなりますか?

Kalshiはユーザー資金を米ドル建てでFDIC保険対象口座に保管していますが、これは銀行の破綻を保護するものであり、プラットフォームの規制対応時のアクセス制限を防ぐものではありません。PolymarketはPolygonブロックチェーン上の自己管理型(セルフカストディアル)ウォレットでUSDCを保持するため、州でブロックされてもウォレット内の資金のコントロールはユーザー自身にあります。いずれもSIPC(証券投資家保護公社)の保険対象外です。

元記事: Prediction Markets Hit $3.9B in World Cup Volume as State Injunctions Mount

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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