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1匹の猫を思い通りに動かすのさえ骨が折れるのに、それを何匹も同時に操ろうとしたらどうなるだろうか。こちらの声には耳も貸さず、思い思いの方向に歩き出し、隙あらばどこかへ消えてしまうであろうことは想像に難くない。
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英語には、まさにこのありさまを、そのまま比喩にした表現がある。それが、今回取り上げる「herding cats」というイディオムだ。
■Herding cats
「herding cats」の「herd」とは、名詞では「(動物などの)群れ」、動詞では「群れを追い立てる、集団をまとめて移動させる」といった意味を持つ。たとえば、牧羊犬が羊の群れを追い立てるような場面を想像すると、わかりやすいだろう。
したがって、「herding cats」を直訳すると、「猫たちをまとめて移動させようとする」とでもなるだろう。しかし知っての通り、猫は犬や羊のように群れず、それぞれ好き勝手に振る舞おうとするものだ。そこから派生して、この表現は、統率の取れない集団をまとめようとする困難さや、まとまりのない状況に対処する苦労を比喩的に表すようになった。
■由来と変遷
この表現が広く知られるようになったきっかけは、1979年公開のモンティ・パイソンの映画『Monty Python's Life of Brian(邦題:ライフ・オブ・ブライアン)』である。
映画冒頭のシーンで、羊飼いたちが「Can you imagine a herd of cats waiting to be sheared?(猫の群れが毛を刈られる順番を待つなんて想像できるか?)」と冗談を交わす場面がある。
その後、1990年代にはアメリカのIT業界でも広まりを見せた。個性の強いプログラマーや技術者の管理の難しさについて、しばしば「like herding cats(猫の群れを追い立てるようなもの)」と表現されることがあった。
さらに、2000年にはアメリカの保険会社が「Herding Cats」というタイトルのテレビCMを放映した影響も大きい。
このような変遷を辿って、「herding cats」は、思い通りに動かせない集団や状況に対する困難さを、視覚的かつユーモラスに伝える比喩表現として定着していったのだ。
ちなみに、「like herding cats」に似た表現として、「like trying to nail jelly to a wall(ゼリーを壁に釘で打ちつけるようなもの)」という言い回しがある。こちらも同じく、まとまりのない状況を制御しようとする徒労感や不条理さを、ユーモアを交えて伝える比喩としてよく使われている。
例文
・Getting my kids ready for school every morning feels like herding cats.
(子供たちを毎朝学校の準備に間に合わせるのは、猫を追い立てているような気分になる)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)
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