証券取引所の家主:平和不動産の投資妙味とミニ小史

2021年7月2日 17:43

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 平和不動産が香港のモノ言う株主(投資ファンド)に、「東証などの出身者が社長以下の幹部に天下る悪しき慣例は、成長の阻害要因」と指摘された。株主総会は終了したが、時代を感じさせる流れである。

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 だが一方で「灯台下暗し」、とはまさにこのことか。平和不動産の株を2012年初値で買い、10年余持ち続けていると投下原資は本校作成時点で5.4倍に増えている。堂々たる資産形成の対象株と言える。周知の通り、「札幌証券取引所・東京証券取引所・大阪証券取引所・名古屋証券取引所・福岡証券取引所」の家主である。

 前3月期の「3.0%営業増益、1.0%最終増益、21円増配77円配」に続き今期も、「2.4%の営業増益(115億円)、2.5%の最終増益(73億円)、5円増配82円配」計画と着実な歩みを見込んでいる。

 収益の主軸は賃貸ビル事業。20年3月末で見ると、賃料ベースで「証券取引所16%、オフィスビル66%、商業施設16%、その他2%」。地域別賃料収入では「東京44%、大阪21%、名古屋12%、福岡6%、仙台・札幌17%」。計64件の空室率は1.7%。都市部中心の賃貸事業を展開、が容易に見て取れる。

 日本橋萱場町(兜町)地区:約10万平方メートルは「再活性化」エリアとして、諸々のプロジェクトが進められている。だが元をただせば、徳川家康が武家屋敷を主体に建設した江戸の城下町。萱や藻が生い茂る砂州(さす。流水により形成される砂の堆積地)。家康の「水を制しての江戸建設」が改めて偲ばれる。

 そんな歴史的な地に平和不動産が設立されたのは、終戦2年目の1947年。その手で東証・大証・名証が設立され、各証券取引所に賃貸ビルとして供与されたのが49年。と同時にこの年、平和不動産は全国の証券取引所に上場している。

 いまの若手証券マン(ウーマン)は果たして、「特定銘柄(1978年開始、91年廃止)」をご存じだろうか。場立ちと呼ばれる証券会社本社からの指示を受け、取引所内で売買注文を行う担当者が市場に溢れていた時代のことだ。

 寄り付きと大引けに撃坼(げきたく)による、競り売買。その対象となったのは「全体の指標」とされた銘柄である。平和不動産もその1銘柄だった。歳を改めて覚えるが、私はこの特定銘柄の撃坼売買を東証内で日々目にしていた。

 平和不動産は、証券市場の歴史とともに歩んで来たと言って過言ではない。今後もその歩みを進めていくであろう。

 そんな平和不動産ではいま、至る24年3月期の中計が進行している。「営業利益120億円以上」「1株当たり利益(EPS)200円以上」「ROE6%以上」「配当性向70%程度」「再開発事業:日本橋茅場町エリア約220億円&札幌エリア約100億円投資」「ビル(アセットメント)事業:取得額約600億円」目標が掲げられている。平和不動産は依然、その歩みを止めない。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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