途上国の小児向け肺炎球菌ワクチンの価格引き下げを製薬企業に要請
配信日時: 2015-01-20 19:43:47
価格の高騰を明らかにする報告書を発行
[画像: http://prtimes.jp/i/4782/241/resize/d4782-241-290734-0.jpg ]
国境なき医師団(MSF)は、1月27日よりドイツ・ベルリンで開催されるGavi - ワクチン同盟の増資会合にあわせ、途上国での肺炎球菌ワクチン価格を子ども1人あたり5米ドル(約590円)まで引き下げるよう、製薬企業のグラクソ・スミスクライン社とファイザー社に要請した。またこの要請を裏付けるものとして、ワクチン価格に関する報告書の第2号『焦点を変える:価格の適正化と研究・開発の壁』を発行し、ワクチン価格の高騰を明らかにした。
報告書(英文)
http://www.msf.or.jp/library/pressreport/pdf/msf_the_right_shot_report_2nded_2015.pdf
概要書(和文)
http://www.msf.or.jp/news/detail/pdf/20150120_trs_jp.pdf
<価格は10年前の68倍>
MSF必須医薬品キャンペーン政策分析ディレクターのロヒト・マルパニは「子ども1人の予防接種費用は、10年余り前の68倍にもなっています。主な原因は、富裕国で巨額の富をもたらしたワクチンについて、一部の大手製薬企業が資金拠出者や開発途上国に対しても過剰な請求をしていることにあります。資金拠出者は今後5年間で、途上国のワクチンのために75億米ドル(約8865億円)の追加負担を求められるでしょう。この資金も、高価な肺炎球菌ワクチン1種類だけで3分の1が費やされてしまう見込みです」と指摘する。
MSFの報告書は現在調達可能なワクチンの価格を比較した数少ない資料のひとつであり、関連情報の不足を明らかにしている。各国の保健予算がワクチンの高値のためにひっ迫しているのは、製薬企業との交渉材料になる情報が限られているからだ。製薬業界は価格をひた隠し、市場競争も足りない。各企業は同一製剤についても市場によりさまざま価格を設定している。
MSF必須医薬品キャンペーンのワクチン政策アドバイザーであるケイト・エルダーは「モロッコやチュニジアといった一部の開発途上国の肺炎球菌ワクチン購入額がフランスよりも高いという、不合理な状況です。新ワクチンの費用のせいで、多くの国の政府が、致命的な病気の中から、財政的に小児予防接種の可能な疾患を選抜するというつらい判断を迫られています」と説明する。
<公衆衛生は利益追求に優先されるべき>
Gaviを介した資金援助の対象となっている国の4分の1以上が、2016年以降にその資格を失う。その後、全額負担を迫られる肺炎球菌ワクチン費用は子ども1人あたり約10米ドル(約1180円)だが、まかなえない国も多い。さらにGaviの予測によると、Gaviの実現したこの価格の適用外となれば、肺炎球菌ワクチンの購入額は6倍に増大する恐れがあるという。
アンゴラは1年以内に資金援助が打ち切られる国のひとつ。2014年は新ワクチン調達のためのGaviによる資金援助の半分以上が肺炎球菌ワクチンだけに費やされた。資金援助がなくなれば、新ワクチンの費用は1500%以上増大する見込みだ。
エルダーは「各国政府は、Gaviとその支援国を対象としたより適正な価格の提案を製薬企業に促すべきです。公衆衛生は利潤に優先されなければなりません。子どもの命を救うワクチンが、途上国における大規模な事業と化すのは避けるべきです。1月27日、資金拠出者がベルリンに集い、ワクチンのための追加資金提供を取り決める予定です。MSFは、グラクソ・スミスクライン社とファイザー社が会合に先駆け、肺炎球菌ワクチン価格の引き下げを急ぐよう求めます」と話す。
注1:ファイザー社の13価肺炎球菌結合ワクチン(PCV)1回接種分に、モロッコは63.74米ドル(約7530円)、チュニジアは67.30米ドル(約7950円)を支出しているが、フランスは58.40米ドル(約6900円)。モロッコとチュニジアの価格は病院や公立施設におけるもので、フランスのそれは卸売・小売で流通する前の生産者価格だ。
注2:MSFは主にはしか、髄膜炎、黄熱、コレラといった病気の流行対策として、毎年何百万人もの人にワクチンを接種している。母子保健プログラムでも定期予防接種を援助。2013年に提供したワクチン・免疫製剤だけでも接種回数は670万回を超える。現在は、定期予防接種に関わる援助の推進と、人道危機において使用されるワクチンの拡充を特に重視しつつ、同分野の活動を強化。2012~2013年の1年で、MSFの全プグラムにおけるワクチン接種の回数は60%増加した。
注3:現在、最貧国で子ども1人に12疾病の予防接種を完了させる費用の約45%は肺炎球菌ワクチンによって占められる。グラクソ・スミスクライン社とファイザー社の共同報告によると、同ワクチンは発売以来、世界で合計190億米ドル(約2兆2458億円)余りを売り上げている。このことを受けて、MSFは両社に全3回の接種の費用を子ども1人あたり5米ドルまで引き下げるよう要請。この価格は、インドのメーカーSerum Instituteが数年以内の市場投入を目指す肺炎球菌ワクチン製剤の目標価格である6米ドル(約710円/接種1回あたり2米ドル=約240円)よりわずかに低い設定となる。
注4:2011年から2015年の期間のGaviに対する日本政府からの拠出金は2750万ドル(2014年9月時点)
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