2026年フィールズ賞、1世紀越しの難問など前進・解決した4人の数学者が受賞

2026年7月28日 13:12

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国際数学連合(IMU)は、数学界で最も権威ある賞とされる2026年のフィールズ賞受賞者4人を発表した。受賞者は、1917年に提起された掛谷問題や、1900年に提示されたヒルベルトの第6問題など、長年未解決だった課題を前進・解決したことで評価された。フィラデルフィアで開催中の国際数学者会議(ICM 2026)では授賞式に加え、AIが数学研究に与える影響などについても議論が交わされている。

■長年の難問に挑んだ4人の数学者

4人の数学者が、何世代にもわたる優れた先人たちでも成し遂げられなかった研究を完成させ、世界で最も権威ある数学賞を受賞した。Hong Wang氏は1917年に提起された幾何学の難問を解決し、Yu Deng氏は1900年にダフィット・ヒルベルトが求めた方程式を導出した。John Pardon氏は、ひも理論に関わる数学で約20年間未解決だった数え上げ問題を解決した。Jacob Tsimerman氏は数理論理学の手法を数論に導入し、数十年にわたり第一線の数学者による証明を拒み続けてきた予想を証明した。

国際数学連合(IMU)は7月23日、フィラデルフィアのペンシルベニア・コンベンション・センターで開催された国際数学者会議(ICM)の開会式で、2026年のフィールズ賞受賞者4人を発表した。4年に1度開催され、米国での開催は1986年以来となる同会議は、7月30日まで続く。7月27日にも全体講演や分科会が予定され、同日夜にはフィラデルフィアのロダン美術館で「Math in France Reception」が予定されていた。

各受賞者には1万5000カナダドル(約1万600米ドル、約174万円、1米ドル=164円換算)の賞金と、アルキメデスの肖像が刻まれた金メダルが授与される。

■Hong Wang氏:女性として史上3人目、3次元掛谷問題を解決

ニューヨーク大学クーラント数理科学研究所のシルバー教授で、フランスのIHES(高等科学研究所)にも所属するHong Wang氏(35歳)は、90年にわたるフィールズ賞の歴史で、2014年のマリアム・ミルザハニ氏、2022年のマリーナ・ヴィヤゾフスカ氏に続く、女性として3人目の受賞者となった。

IMUはWang氏の受賞理由として、「調和解析および幾何学的測度論における研究。これには、平面波動方程式の局所平滑化予想に対するマルチスケール手法とデカップリング手法の応用、フーリエ制限問題、ファルコナー距離集合、平面上のファステンバーグ集合、3次元掛谷問題における大きな進展が含まれる」と説明している。

最も広く注目を集めたのは、掛谷問題に関する成果だ。1917年に掛谷宗一が提起したこの問題は、「針をあらゆる方向に向けるために必要な領域はどれほど小さくできるか」というものだ。2次元の場合、アブラム・ベシコビッチは20世紀前半、針が実質的に面積を持たない集合の中でも、すべての方向を向くことができるという驚くべき結果を示した。より深い数学的予想は、高次元空間におけるこうした集合の最小次元に関するものだ。予想によれば、n次元空間内のすべての「掛谷集合」は、どれほど巧妙に圧縮されていても、nに等しい完全なハウスドルフ次元を持たなければならない。2次元の場合は1971年に解決された。

3次元の場合は、Wang氏と南開大学チェン数学研究所のJoshua Zahl氏による共同研究で解決された。研究成果は2025年初頭に公開され、その後数カ月にわたって数学界で検証された。2人による3次元掛谷問題の証明では、一般の場合を、すでに確立されていた「スティッキーケース(sticky case)」に帰着させた。これは、2人のそれ以前の論文によって可能になるまで、実現困難と考えられていた技術的手法である。Wang氏の博士課程の指導教員だったMITのLarry Guth氏はその後、2人の結果を簡潔にした証明をarXivで公開した。

4次元の場合は依然として未解決である。3次元での証明はすでに周辺の問題にも波及しており、平面上のファステンバーグ集合予想も、Tuomas Orponen氏およびPablo Shmerkin氏を加えた同じ研究チームによって証明された。さらに、数十年間未解決だったフーリエ制限予想に向けても、新たな進展を促している。この分野の第一人者であるライス大学のNets Katz氏は、3次元掛谷問題の成果を「1世紀に一度という種類の結果」と評した。

IMU副会長のUlrike Tillmann氏は、Wang氏の受賞について、「女性がフィールズ賞を含め、最高水準でそれぞれの分野に貢献することが、当たり前になったと感じられるべきだ」と述べた。

■Yu Deng氏:ヒルベルトの第6問題の一部を前進

シカゴ大学の数学教授で、2015年にプリンストン大学で博士号を取得したYu Deng氏は、「希薄気体における剛体球力学からのボルツマン方程式の厳密な導出、非線形分散系からの波動運動論方程式の導出、非線形シュレディンガー方程式の力学に対する確率論的アプローチを含む、偏微分方程式の研究」で評価された。

数学界が特に注目しているのは、ヒルベルトの第6問題の一部解決におけるDeng氏の役割だ。これは、ダフィット・ヒルベルトが1900年の国際数学者会議で、次の世紀に向けた課題として提示した23の問題の1つである。

この問題は簡単に言えば、原子や分子の微視的な振る舞いと、流体力学の巨視的な方程式とを結び付ける、数学的に厳密な論理の連鎖を求めるものだ。この連鎖は2段階で構成される。第1段階は、ニュートンの法則に従って衝突する剛体球粒子の力学から、気体分子の相互作用を統計的に記述するボルツマン方程式を導出することだ。第2段階は、ボルツマン方程式からオイラー方程式やナビエ・ストークス・フーリエ方程式といった流体方程式を導出することである。ボルツマン方程式の最初の厳密な導出は、1975年にOscar Lanford氏によって達成されたが、非常に短い時間スケールに限られていた。

Deng氏は、Zaher Hani氏(ミシガン大学)およびXiao Ma氏との共同研究で、Lanford氏の結果を、ボルツマン方程式の解が存在する全時間範囲に拡張した。これは、それまでの試みを阻んできた重要な技術的ボトルネックだった。2025年3月に公開された3人のarXivプレプリントは、その後ICM 2026の会議録に収録された。

ただし、公開されたarXiv上のコメントに記されているように、一部の数学者は、この解決が及ぶ厳密な範囲について疑問を呈している。具体的には、証明で使われた周期的トーラスの設定と2段階のスケーリングが、物理的に意味のあるすべての連続体極限を捉えているかどうかという点だ。数学界は現在も、その成果が持つ意味を検討している。基礎数学では、こうした検証を通じて成果の位置付けが固まっていく。

■John Pardon氏:宇宙をモデル化する図形上の曲線を数え上げる

ストーニーブルック大学のJohn Pardon氏は、プリンストン大学を2011年に卒業した。IMUの公式な受賞理由によると、「仮想基本類に対する新たなアプローチ、リウヴィル多様体の深谷圏、正則曲線の数え上げを含むシンプレクティック幾何学での業績、および3次元多様体上の群作用や結び目理論を含む、幾何学とトポロジーの他分野への貢献」が評価された。

シンプレクティック幾何学は、古典力学や、ひも理論の多くに自然な数学的枠組みを与える分野である。Pardon氏の研究における具体的な金字塔は、MNOP予想の証明だ。これは、物理学者が超ひも理論における余剰次元の形を記述すると考えている、実6次元の数学的対象であるカラビ・ヤウ3次元多様体に関するものだ。約20年前に提示されたこの予想は、これらの図形上の正則曲線を数える2つのまったく異なる方法、すなわちグロモフ・ウィッテン不変量とドナルドソン・トーマス不変量が、常に同じ答えを与えるというものだった。Pardon氏は、両者が一致することを証明した。この研究は、表現論やシンプレクティック・トポロジーから量子物理学まで、幅広い分野に影響を及ぼす。

Pardon氏は異例の経歴を歩んできた。数学界の記録によると、プリンストン大学での卒業論文の時点ですでに、数十年にわたって数学者による解決を拒んでいた問題に、技術的な突破口をもたらしていたという。

■Jacob Tsimerman氏:論理学の手法を数論に導入

トロント大学に所属するロシア生まれのカナダ人数学者、Jacob Tsimerman氏(38歳)は、IMUの受賞理由によると、「周期写像の像の代数性に関するグリフィス予想の証明を含め、算術幾何学および複素代数幾何学におけるo-極小性の手法の適用範囲を大幅に拡張した役割」が評価された。

その手法と応用はいずれも重要である。o-極小性は数理論理学とモデル理論に由来する概念で、多くの幾何学的構造を解析困難にする、病理的で無限に複雑な振る舞いを排除するための枠組みだ。ある構造の中で定義可能な実数のすべての部分集合が、有限個の点と区間の合併として表せる場合、その構造はo-極小であると呼ばれる。この「制御された性質(tameness)」は、代数幾何学に導入すると非常に強力であることが分かった。Tsimerman氏はこれを用いて、代数多様体の複素構造がどのように変化するかを符号化する関数である、周期写像の振る舞いを制御した。

Tsimerman氏が証明したグリフィス予想は、そのような周期写像の像が、より複雑な超越的対象ではなく、常に代数多様体、すなわち多項式方程式の解集合になるというものだ。この成果は、クレイ数学研究所が選定した7つのミレニアム懸賞問題の1つで、正しい証明に100万ドルの賞金が設定されているホッジ予想と直接関係する。ホッジ予想そのものは、依然として未解決である。

Tsimerman氏は、数学パズルへの関心を幼い頃から持っていたと語っている。

■なぜ近年、ブレイクスルーが相次いだのか

以上の4つの成果は、未解決だった期間が約20年から126年に及ぶ問題に関係している。こうした成果が1回の4年間のICMサイクルに集中したのは異例だ。その背景には、4人の個人的な才能だけでなく、数学界で近年利用できるようになった手法の発展がある。

掛谷問題の証明では、Jean Bourgain氏、Ciprian Demeter氏、Larry Guth氏らによって主に2010年代に発展した多項式法とデカップリング手法が用いられた。これらの研究が、Wang氏とZahl氏に必要な足場を築いた。2006年のフィールズ賞受賞者で、数十年にわたり掛谷問題に取り組んできたTerence Tao氏は、2025年初頭に自身のブログへ掲載した掛谷問題に関する投稿で、一般の3次元の場合を「スティッキーケース」に帰着させることは「最近まで完全に手の届かないものに思えた」と記している。

ヒルベルトの第6問題に関する研究では、剛体球力学における再衝突を制御するため、数十年をかけて発展してきた手法が必要だった。それにより、Lanford氏の枠組みを短時間から長時間の範囲へ拡張できた。Tsimerman氏によるo-極小性の導入には、代数幾何学者が通常は専門としないモデル理論への深い理解が必要であり、モデル理論の側にも代数幾何学への理解が求められた。

IMU会長の中島啓氏は、ICM 2026の科学プログラムについて、前回の会議以降、「数学で本当に大きな進歩を遂げた」ことを示していると述べた。その一例として、Dennis Gaitsgory氏らによる2024年の幾何学的ラングランズ予想の証明を挙げ、「最近、いくつもの予想や大きな問題が解決されている。これは非常に刺激的なことだ」と語った。

■その他の主要賞とJim Simons氏の功績

開会式ではフィールズ賞とともに、IMUの主要な4賞も授与された。

情報科学の数学的側面における業績に贈られるアバカス・メダルは、ワシントン大学のShayan Oveis Gharan氏に授与された。同氏の研究は、距離巡回セールスマン問題で知られていた最良の近似比を改善し、クリストフィードのアルゴリズムが約50年間越えられなかった壁を破った。また、スペクトル独立性の手法を通じて、マルコフ連鎖モンテカルロ法によるサンプリングの理論を前進させた。

数学における卓越した生涯業績に贈られるIMUチャーン・メダルは、「幅広い分野に永続的な影響を与えた、先見性のある数学的洞察」が評価され、Graeme Segal氏に授与された。

重要な応用につながる数学的貢献に贈られるカール・フリードリヒ・ガウス賞は、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学のYurii Nesterov氏に授与された。

数学の一般向け普及活動に贈られるIMUリーラヴァティ賞は、数学を一般に伝える創造的な手法が評価され、ケンブリッジ大学の数学者・放送人であるHannah Fry氏に授与された。

開会式では、Jim Simons氏の功績をたたえるレセプションも行われた。Simons氏は数学者、ヘッジファンド創業者、慈善家で、ルネッサンス・テクノロジーズを設立した。サイモンズ財団を通じ、数学と基礎科学の支援に数十億ドルを寄付した。Simons氏は2024年5月10日に死去した。

■ICM 2026のハイライト:AI、ラングランズ、今後の日程

授賞式が大きく報じられる一方、ICMの中心となるのは8日間にわたる学術プログラムだ。ペンシルベニア・コンベンション・センターでは、全体講演、数百件の招待分科会講演、一般向けイベントが行われている。

会議前半の全体講演では、マックス・プランク数学研究所のDennis Gaitsgory氏が、関数体上の局所および大域ラングランズ予想について講演した。これは、同氏のチームが2024年に成し遂げた幾何学的ラングランズ予想の証明を踏まえたもので、この証明自体も、この10年間で最も重要な数学的成果の1つと広く評価されている。EPFLのAnnalisa Buffa氏は偏微分方程式の数値近似における新たな課題を取り上げ、スタンフォード大学のCiprian Manolescu氏は結び目理論と4次元トポロジーの関係を概観した。

7月24日には、2006年のフィールズ賞受賞者で、数学研究におけるAIの役割を積極的に論じてきたTerence Tao氏が、「Mathematics in the Age of AI(AI時代の数学)」と題する一般向け講演を行った。形式証明を検証するツールや、AIによる予想生成の支援が、数学者の挑戦できる課題をどう変えているのか、また、なぜ自動化の進展に応じて検証を強化する必要があるのかを論じた。Tao氏は、数学におけるAIの有用性を制約する主要な要因は、計算能力ではなく検証の質だと主張している。「内容が粗悪になる前に有効活用できる自動化とAIの水準は、検証がどれほど厳格かにおおむね比例する」と述べている。

AIは会議全体に通じるテーマとなっているが、中心的な話題を独占しているわけではない。ペンシルベニア大学の数学者Jonathan Block氏とTony Pantev氏が、AIに関する2つのパネルディスカッションを企画した。ラトガース大学のAlex Kontorovich氏は、既存の数学知識をLeanなどのシステムで機械検証できる証明ライブラリへ変換する「自動形式化(auto-formalization)」について講演した。

会議は7月30日の閉会式で終了する予定だ。7月20~21日にニューヨーク市で開かれたIMU総会で発表された次回の国際数学者会議の開催国は、英国とアイルランドである。2030年のICMはグラスゴーで開かれ、IMU総会はダブリンで開催される。

■受賞者の背景と米国でのICM開催

Wang氏とDeng氏は、1982年に受賞したShing-Tung Yau氏に続く、中国生まれのフィールズ賞受賞者として史上2人目と3人目に当たる。前回から44年ぶりとなった。2026年の受賞者4人のうち3人は、プリンストン大学で学んだ経歴を持つ。Deng氏は2015年に同大学で博士号を取得し、Pardon氏は2011年に学部を卒業、Tsimerman氏は2011年に博士号を取得した。

ICM 2026はアメリカ数学会とサイモンズ財団の支援を受けている。米国でのICM開催は、1986年にバークレーで開かれて以来となる。一部のイベントはicm2026.orgでライブ配信されている。

■注目ポイントQ&A

●2026年のフィールズ賞は誰が受賞しましたか?

2026年のフィールズ賞受賞者は、Hong Wang氏(ニューヨーク大学/IHES)、Yu Deng氏(シカゴ大学)、John Pardon氏(ストーニーブルック大学)、Jacob Tsimerman氏(トロント大学)の4人です。Wang氏は、90年にわたる同賞の歴史で3人目の女性受賞者です。サイモンズ財団の発表によると、Wang氏とDeng氏は、1982年のShing-Tung Yau氏以来となる中国生まれの受賞者です。

●Hong Wang氏は何を証明し、なぜ掛谷問題が重要なのですか?

Wang氏は共同研究者のJoshua Zahl氏とともに、3次元の掛谷集合予想を証明しました。これは、あらゆる方向を向く線分を含む3次元空間内の点集合が、最大のハウスドルフ次元を持たなければならないという結果です。この問題は1917年に提起され、2次元の場合は1971年までに解決されていました。2025年に数学界で検証された3次元での証明は、数十年間未解決だったフーリエ制限予想や、波動方程式の正則性に関する問題の進展にもつながります。4次元以上の場合は依然として未解決です。

●今年の受賞者は過去のフィールズ賞と比べて、どのような特徴がありますか?

2026年の受賞者は、109年前に提起された3次元掛谷問題、126年前に提示されたヒルベルトの第6問題、約20年前のMNOP予想、数十年来のグリフィス予想など、長期にわたる問題の解決や前進に関わる成果が集中している点が特徴です。その背景には、調和解析における多項式法、長時間に対応する運動論の手法、論理学から導入されたo-極小性など、過去20年間に発展した新しい数学的手法があります。中島啓IMU会長が指摘したように、今回の会議で取り上げられた2024年の幾何学的ラングランズ予想の証明も、近年の進展を示す成果の1つです。

●ICM 2026を視聴したり、参加したりすることはまだ可能ですか?

会議は7月30日まで、フィラデルフィアのペンシルベニア・コンベンション・センターで開催されています。一部の全体講演やイベントはライブ配信されており、詳しい日程と配信リンクはICM 2026の公式ウェブサイトで確認できます。2030年の開催地がグラスゴーであることが正式に確認される閉会式は、7月30日に予定されています。


元記事: Fields Medal 2026: Four Mathematicians Crack Century-Old Problems at ICM Philadelphia

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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