関連記事
アップル、OpenAIと元ハードウェア責任者を提訴――未発表デバイスの機密流出を主張、発売差し止めの可能性も
アップルは2026年7月10日、OpenAIと同社の元ハードウェア責任者らを相手取り、営業秘密を侵害されたとして連邦地裁に提訴した。訴状によると、OpenAI側が採用面接などを通じてアップルの極秘ハードウェア機密を組織的に組織的に引き出していたと主張されている。仮処分申請が認められれば、OpenAIが開発中とされる未発表のAIデバイスの出荷が差し止められる可能性もある。
■アップル元副社長が主導したとされる「見せ合い」面接
訴状によると、主犯格とされるのはOpenAIのチーフ・ハードウェア・オフィサー(最高ハードウェア責任者)であるタン・ユー・タン(Tang Yew Tan)氏だ。同氏はアップルに24年間在籍し、iPhoneやApple Watchのプロダクトデザイン担当副社長を務めた後、2024年初頭に退社。その後、ジョニー・アイブ氏らとデザイン会社「io Products」を共同設立した。同社は2025年5月にOpenAIによって約65億ドル(約1兆530億円、1ドル=162円換算)で買収され、タン氏が現職に就任した。
アップル側の主張によれば、タン氏はOpenAIの採用面接に訪れたアップル社員に対し、未発表製品のバッテリーやロジックボード、System-in-Package(SiP)モジュールなどの物理的なハードウェア部品を持参させ、「見せ合い(show and tell)」を行わせるよう指示していたとされる。さらに、アップル社内の極秘プロジェクトのコードネームを用いて、どの部品を見たいかを候補者に指示していたとも主張されている。
SiPモジュールは、複数のプロセッサやメモリコントローラなどを1つのパッケージに統合した高度なチップであり、アップルの半導体ロードマップやサプライヤーとの製造関係が凝縮されている。これが競合他社に渡れば、公表前にアップルのチップ統合戦略が直接露呈することになる。また、タン氏は退職前にサプライヤー情報を個人メールに転送したほか、退職時のセキュリティ手続きを回避する方法をOpenAIの新規採用者に伝授していた疑いも持たれている。
■退職後のネットワーク不正アクセスとサプライヤーへの接触
もう一人の被告であるチャン・リウ(Chang Liu)氏は、アップルでシニア・システム・エレクトリカル・エンジニアを8年間務め、2026年1月にOpenAIへ移籍した。訴状によると、リウ氏は退職時に会社支給のノートPCを返却せず、認証プロセスの脆弱性を突いて退職後もアップルの社内ネットワークにアクセスし続けたとされる。
リウ氏は元同僚に対し「共有ストレージにアクセスできるのを見つけた、超ウケる」といったメッセージを送信していたと報じられている。アップルは、リウ氏がこのアクセスを利用して、未発表製品に関する詳細な情報、技術仕様書、独自のプロジェクトデータなど、ハードウェア関連の機密ファイルを多数ダウンロードしたと主張している。さらに、OpenAIへの採用を進めていた現役のアップル社員に対し、面接前にどの機密資料を確認すべきかアドバイスしていたともされている。
また、OpenAIはアップルのサプライヤーに対しても、インサイダー知識を用いて接触を図ったとされる。訴状によれば、OpenAIはアップルの契約メーカーに対し、アップルから承認を得ていると偽って独自の金属仕上げプロセスを実施させようとしたほか、別の電源・バッテリー関連サプライヤーに対しても、アップルの独自用語を用いて特定の部品に関する詳細な質問を行ったと主張されている。
■400人の元アップル技術者と、決裂した両社の関係
訴状によると、現在OpenAIには400人以上の元アップル社員が在籍している。アップル側は「これは氷山の一角にすぎない」と主張しており、OpenAIの指導部がこうした不正行為を常態化させていたと非難している。OpenAIの消費者向けハードウェア部門は、過去約18ヶ月間でiPhoneやApple Watch、Vision Proなどの開発経験を持つ優秀な技術者を集めて構築されてきたが、その人材移行プロセスが組織的な不正流出にあたるかどうかが争点となる。
両社はかつて緊密なパートナーシップ関係にあった。2024年6月には、アップルの「Apple Intelligence」やSiriにChatGPTを統合することが発表されたが、その後関係は急速に悪化した。OpenAI側はSiriにおけるChatGPTの露出方法に不満を抱き、一方でアップルは代替案を模索。2026年1月12日、アップルはGoogleのGeminiモデルを統合する複数年契約(年間約10億ドル規模と報じられている)を発表し、OpenAIは事実上の格下げとなった。
当時、OpenAI側が提携合意違反でアップルを提訴することを検討していると報じられていたが、アップルが先手を打つ形となった。アップルは2026年2月に営業秘密に関する警告書を送付したものの回答が得られず、今回の提訴に至ったとしている。
■AIデバイス開発とIPO計画への深刻な影響
OpenAIが2025年に買収したio Productsは、画面を必要としない「スクリーンレス」なAIコンパニオンなど、次世代の消費者向けAIハードウェアを開発するための組織だった。そのプロジェクトを率いるタン氏が被告となったことで、開発計画は法的な脅威に直面している。
アップルは裁判所に対し、流出した営業秘密の使用禁止、関連資料の返還および破棄、そして盗用された知的財産が組み込まれたAIデバイスの設計変更(リデザイン)を求めている。訴状では「OpenAIの初期段階のハードウェア事業は、不正に取得された営業秘密に依存しており、根底から腐りきっている」と激しく非難されている。
この提訴は、OpenAIの新規公開株(IPO)計画にも影を落とす。同社は2026年6月8日に証券取引委員会(SEC)にS-1登録届出書の草案を非公開で提出しており、市場価値は8520億ドルから1兆ドル(約138兆400億円〜162兆円、1ドル=162円換算)と報じられていた。最高ハードウェア責任者が被告となり、製品の知的財産権が争われる訴訟は、機関投資家が重視する重大な訴訟リスクとなる。OpenAIのCFOはすでに、IPOの時期を2026年ではなく2027年に延期する可能性を示唆していたが、今回の訴訟でさらに複雑な判断を迫られることになる。
なお、OpenAIの広報担当者ドリュー・プサテリ氏は「他社の営業秘密には関心がない」との短いコメントを発表している。
■シリコンバレーの人材獲得競争への一石
カリフォルニア州では、州法(ビジネス・職業法第16600条)に基づき競業避止義務契約が原則禁止されている。これが技術者の自由な流動性を生み、シリコンバレーのイノベーションを支えてきた。しかし、競業避止義務がないからこそ、営業秘密保護法が企業の知的財産を守る唯一の防壁となっている。
これまでは、退職時にファイルを個人メールに送るなどの「個人の不正行為」が主に追及されてきたが、今回のアップルの訴訟は、企業が組織的に採用プロセスを利用して競合他社の物理ハードウェア情報を引き出す行為にまで営業秘密保護法が適用されるかを問う、法的に新しい試みである。
アップルが勝訴すれば、競合から積極的に人材を引き抜くシリコンバレーの採用慣行に大きなブレーキがかかる可能性がある。一方で、アップル側も単なる個人の窃盗ではなく、OpenAIの組織的な関与と利益享受を証明する必要があり、立証のハードルは高い。今後の仮処分申請の行方が、OpenAIのハードウェア開発、そしてシリコンバレーの人材獲得の未来を大きく左右することになりそうだ。
■注目ポイントQ&A
●アップルはOpenAIのハードウェア責任者を具体的にどのように告発していますか?
アップルは、OpenAIの最高ハードウェア責任者であるタン・ユー・タン氏が、採用面接に来たアップル社員に対し、未発表製品のバッテリーやロジックボード、SiPモジュールなどの物理部品を持参させ、「見せ合い」を行わせるよう指示したと主張しています。また、退職時のセキュリティ手続きを回避する方法を指導した疑いや、サプライヤー情報を個人メールに転送した疑いもかけられています。これらは現時点ではアップル側の主張であり、法的な判断はまだ下されていません。
●この訴訟によってOpenAIのAIデバイス発売は中止になりますか?
アップルは営業秘密の使用禁止を求める仮処分を申請しており、これが認められた場合、流出した技術や仕様に依存するハードウェア開発の一時停止や、設計変更(リデザイン)を余儀なくされる可能性があります。実際に発売が差し止められるかどうかは、アップル側が「特定の営業秘密がOpenAIの製品設計に組み込まれたこと」を法廷で証明できるかどうかにかかっています。
●カリフォルニア州の競業避止義務禁止は、この訴訟にどう影響しますか?
カリフォルニア州では競業避止義務契約が禁止されているため、アップルは社員がOpenAIへ転職すること自体を阻止することはできません。そのため、アップルは営業秘密保護法を唯一の法的手段として対抗しています。今回の訴訟は、個人の情報持ち出しを超えて、企業が組織的に採用面接を通じて機密を引き出すスキームを構築したという、より広い組織的侵害の理論を検証するケースとなっています。
●この訴訟はOpenAIのIPO計画に影響を与えますか?
OpenAIは2026年6月にSECへIPOに向けた申請書類を非公開で提出しており、巨額の企業価値が報じられていました。しかし、主要幹部が被告となり、主力開発製品の知的財産が争われる訴訟は重大な投資リスクとなるため、目論見書への開示が必要になります。すでにIPO時期を2027年に延期する観測が出ていましたが、今回の訴訟により計画の不確実性がさらに高まる可能性があります。
元記事: Apple Sues OpenAI: Hardware Chief Ran Parts-Smuggling Scheme to Build AI Device
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク

