EUが暗号資産規制「MiCA」の改定に着手、米サークル社のステーブルコイン独占状態を受け

2026年7月12日 15:21

印刷

記事提供元:Tech Times

欧州連合(EU)の包括的な暗号資産規制「MiCA(暗号資産市場規制)」が全面施行されてから2週間足らずで、欧州委員会が早くも大幅な規則改定に向けた協議を開始したことが明らかになった。この迅速な動きは、ステーブルコインやトークン化市場の成長スピードが、既存の規制設計を大きく上回っている現状を反映している。現行ルールがもたらした予期せぬ結果として、米サークル(Circle)社による欧州市場の独占状態が生じており、EUは金融主権の維持に向けた軌道修正を迫られているとみられる。

■全面施行直後に露呈したMiCA規制の「陳腐化」

MiCAは世界初の包括的な暗号資産規制枠組みとして、2023年6月に発効し、2024年6月にステーブルコイン規則が段階的に導入された。その後、2024年12月30日に暗号資産サービスプロバイダー(CASP)へのライセンス義務化が本格始動し、旧来の各国登録制度下で活動していた企業向けの18カ月に及ぶ移行期間が2026年7月1日に終了した。

これにより、欧州の暗号資産史上最大規模の業界再編が発生した。EU加盟国で国内仮想資産サービスプロバイダー(VASP)として登録されていた1,200社以上のうち、2026年7月3日までにMiCAに基づく完全な認可を取得できたのは約280社にとどまり、移行率は約20%だった。残りの約80%は、EU顧客へのサービス提供を停止するか、事業を縮小せざるを得なくなった。

しかし、MiCAの起草から施行までの間に、現行の条文では十分にカバーできない2つの領域が急成長した。1つ目は「現実資産(RWA)のトークン化」である。オンチェーンでトークン化された資産は、2023年初頭の10億ドル未満から、2026年中期には推定260億ドル(約4兆2,120億円、1ドル=162円換算)の移転可能価値にまで拡大した。RWA.xyzのデータによると、特にトークン化された株式は約21億6,000万ドル(約3,499億円)に達し、わずか1カ月で約45%急増した。これらのトークン化証券はMiCAではなく、依然として金融商品市場指令(MiFID II)の管轄下にあり、その分類境界を巡る規制上の議論が続いている。

2つ目の課題は「管轄権」である。2025年のステーブルコイン総取引高は約33兆ドルに達し、約3,110億ドル(約50兆3,820億円)規模のステーブルコイン市場において、米ドル連動型トークンが99.5%以上を占めている。MiCAのステーブルコイン規制は、これらのトークンが決済インフラではなく、まだ珍しい存在だった時代を前提に設計されていた。

■テザー(USDT)を欧州市場から排除した「60%銀行預金ルール」

欧州の認可プラットフォームからテザー(USDT)が姿を消した直接の要因は、MiCA第23条である。同条項は、MiCAライセンスを保有する暗号資産サービスプロバイダーに対し、欧州証券市場監督局(ESMA)の電子マネートークン(EMT)レジスターに登録されていない発行体のステーブルコインを提供することを禁止している。

MiCAは、単一の法定通貨に連動するステーブルコインを「電子マネートークン(EMT)」に分類する。EMTの認可を得るには、発行体はEUの電子マネー機関(EMI)ライセンスを保有するか、EUの信用機関(銀行など)として運営される必要がある。さらに、欧州銀行監督局(EBA)によって「重要」とみなされた発行体(取引高やユーザー数に基づく)は、準備金の少なくとも60%をEUの信用機関の預金として保持しなければならない。

この「60%銀行預金ルール」は、テザー社のビジネスモデルと構造的に相容れない。テザー社が公開したBDO Italiaによる2026年第1四半期の最新の証明書によると、流通している1,840億ドル(約29兆8,080億円)のUSDTを裏付ける準備金の約80%〜83%は、短期米国債で保有されている。この米国債保有は同社の主要な収益源であり、2026年第1四半期だけで約10億4,000万ドル(約1,684億円)の純利益をもたらしている。

テザー社のCEOであるパオロ・アルドイノ氏は、2026年7月1日の期限を前に、MiCAの準備金要件は経済的に実行不可能であるだけでなく、代替となる米国債モデルよりも運用上のリスクが高いと主張していた。同氏は、2023年3月のシリコンバレー銀行破綻時にUSDCが一時的にディペッグ(米ドルとの等価性の喪失)した事例を挙げ、準備金をEUの商業銀行に集中させることは、米国債にはない銀行のカウンターパーティーリスクを集中させることになると指摘した。

このトレードオフに直面したテザー社は、MiCAの認可申請を見送り、規制されたEUプラットフォームから除外される結果を受け入れ、経営資源を米国市場へとシフトする戦略的決定を下した。同社は2024年11月にユーロ連動型ステーブルコイン「EURT」の提供を終了。米国で「GENIUS法」が制定された後、連邦公認のアンカレッジ・デジタル・バンクを通じて、欧州ではなく米国のライセンス要件に準拠する形で「USAT」をローンチした。

欧州の認可プラットフォームにおけるUSDTの上場廃止は、2024年12月のコインベース(Coinbase)を皮切りに、2025年初頭にかけてバイナンス(Binance)、クラーケン(Kraken)、Crypto.com、OKXへと連鎖した。キプロス証券取引委員会(CySEC)から2025年11月にMiCAのCASPライセンスを取得し、パスポート制度を通じて欧州約30カ国をカバーしていたレボリュート(Revolut)が、大手欧州プラットフォームとしては最後の砦となっていた。しかし同社も2026年7月3日、USDTの取り扱いを段階的に縮小すると発表した。7月6日に購入を停止し、新規入金は7月30日まで、8月31日時点で残っている残高は市場レートで自動的に法定通貨に変換される。ユーザーは変換価格やタイミングを指定することはできない。

■MiCAのパラドックス:EUの主権保護ルールが米国企業による独占を招く

現行規制がもたらした実質的な結果は極めて皮肉なものである。2026年7月現在、ESMAのレジスターでEMT認可を保持しているステーブルコインは、サークル(Circle)社の「USDC」とユーロ連動型の「EURC」のみである。サークル社は、2024年にフランスの健全性監督決議庁(ACPR)から取得したフランスのEMIライセンスを通じてこの認可を保持しており、2026年4月にはフランス金融市場庁(AMF)から欧州経済領域(EEA)全域における暗号資産の保管および移転サービスの追加認可も受けている。

サークル社は、2025年7月にトランプ大統領が署名した米国のステーブルコイン枠組みである「GENIUS法」の下で規制されている米国企業である。同社の準備金は、主に米国の保管機関を通じて保有される現金と短期米国債で構成されている。欧州中央銀行(ECB)の研究局が2026年3月に発表したワーキングペーパーでは、米ドル連動型ステーブルコインの普及が、EU中銀の短期金利設定能力を弱め、流動性管理を複雑化させ、為替レートの変動性を高めることが指摘されている。また、ECB顧問のユルゲン・シャーフ氏は2025年7月のブログ投稿で、ドル連動型ステーブルコインの広範な普及は、米国がより安価に債務を賄うことを可能にする一方で、欧州人にはより高い借入コストを強いることになると警告していた。

MiCAの準備金ルールは結果として、EUの小売市場における唯一の公認ドル連動型ステーブルコインプロバイダーとして、ある1つの米国企業にお墨付きを与えることになった。その企業は米国法の下で規制され、米国債の需要を増加させる準備金を保有している。これは、ECBが欧州の金融主権に対する脅威として警告していたまさにその構図である。欧州委員会による今回のMiCA見直しは、このトレードオフが事前に予期されていたものかどうかを検証する目的もあるとみられる。

サークル社のEU戦略・政策担当ディレクターであるパトリック・ハンセン氏は、今回の見直しはMiCAの失敗を意味するものではないと公に主張している。同氏によれば、ステーブルコインや暗号資産市場の動きは非常に速いため、定期的な見直しは当初から実施ロードマップに組み込まれていたという。

■米「GENIUS法」の影響とEUの対応策

MiCAが起草された当時、米国には連邦レベルのステーブルコイン枠組みが存在しなかった。しかし、2025年7月18日に署名・成立した「GENIUS法」がその状況を変えた。同法は決済用ステーブルコインを証券でも銀行預金でもない独自の資産クラスと定義し、連邦準備制度理事会(FRB)および通貨監督庁(OCC)が管轄するライセンスおよび準備金制度を確立した。米国の6つの連邦機関は、2026年7月18日までに詳細な規則策定を行う義務を負っている。

GENIUS法の準備金要件も、MiCAと同様に安全で流動性の高い資産による100%の裏付けを求めている。しかしMiCAとは異なり、銀行預金と政府証券の具体的な比率を規定していない。そのため、米国ライセンスを保有する発行体は、ESMAのEMTレジスターでは不適格となるような高い割合で米国債を保有することができる。もしドル連動型ステーブルコインの発行体が、EUで登録することなく米国の連邦ライセンスの下でグローバルユーザーにサービスを提供できるのであれば、GENIUS法の枠組みが市場支配力を通じて事実上の世界標準になる可能性がある。

EU当局は、この問題に対処するために「同等性(等価性)評価制度」の導入を模索している。これは、非EU域内の発行体の本国ルールがEU基準を満たしている場合、EU内に法人を設立することを求めずに欧州市場へのアクセスを認める国際金融の仕組みである。また、認可された発行体が商業銀行システムを介さずに、EU加盟国政府が発行する欧州のマネーマーケット商品(MMF)を準備金として保有できるように、MiCAの準備金構成ルールを見直す議論も行われている。これが実現すれば、MiCAはGENIUS法モデルに近づくことになる。

管轄権の問題について、Notabeneの規制・コンプライアンス担当ディレクターであるカタリーナ・ヴェローゾ氏は、ステーブルコインの本質的な価値は「グローバルに流通可能であること」にあると指摘する。地理的に断片化された発行モデル(例えば、EU域内でのみ流通可能な「サークル・ヨーロッパ」版USDCなど)は、クロスボーダー決済におけるステーブルコインの根本的な利便性を損なう可能性がある。

■欧州委員会が検証する「複数発行体問題」

欧州委員会の見直しの中心にある技術的な問いの中で、テザー排除ほど注目されていないものの、長期的にはより重要な意味を持つ可能性があるのが「複数発行体(マルチイシュアンス)モデル」の扱いである。これは、異なる管轄区域にある複数の法的に異なる事業体によって同時に発行されながらも、相互に等価交換(ファンジブル)できるように設計されたステーブルコインをMiCAがどう扱うかという問題である。

MiCAの起草当時、欧州委員会は複数発行体モデルを受け入れる意向を持っていた。しかし実施段階において、ECBなどの機関から、ストレスシナリオにおけるクロスボーダーの償還圧力や準備金の不一致に対する懸念が提起された。仮に単一の償還イベントによってEU拠点の法人の準備金が枯渇した場合、管轄区域をまたぐリバランスメカニズムはディペッグを防ぐのに十分な速さで機能するのかという懸念である。2026年5月20日に開始された協議では、複数発行体構造がMiCAの下で明示的に禁止されていないことを初めて認めつつも、今後もこれを許可すべきか、許可する場合はどのような追加のセーフガードを設けるべきかを問いかけている。

この問題の影響は理論的なものにとどまらず、構造的なものである。欧州委員会が追加の制約なしに複数発行体を許可すれば、サークル社はUSDCをEU専用版と非EU専用版に断片化することなく、統一されたグローバルなUSDCとして運用できる。しかし、複数発行体構造におけるEU法人に対してより厳格な要件を課す場合、サークル社のコンプライアンスコストは上昇し、流動性はグローバルなUSDCの供給に直接アクセスできるプラットフォーム(認可されたEUの取引所外など)へと流出する可能性がある。

■新ルールの適用開始時期

2026年8月下旬まで回答を受け付けた欧州委員会の協議は、金融機関、暗号資産サービスプロバイダー、各国管轄当局、中央銀行、財務省を対象としている。質問票は、ステーブルコインの同等性制度、複数発行体構造、DeFi(分散型金融)、トークン化預金、予測市場、そして暗号資産と伝統的金融商品の境界線の曖昧化など多岐にわたる。

MiCA第140条に基づき、欧州委員会は2027年6月30日までに、必要に応じて立法提案を伴う見直し報告書を提示しなければならない。提案がなされた場合、その後EUの通常の立法プロセスに入る。Taylor Wessingなどの法律専門家は、業界内ですでにこの改定プロセスを「MiCA 2.0」と呼ぶ動きがあることを指摘しつつも、新ルールが実際に施行される最も早い時期は、少なくとも2年先となる2028年になるとの見方を示している。

これとは別に、ESMAはMiCAライセンスを取得したサービスプロバイダーの運用レジリエンス(回復力)に関するレビューを、2026年7月から2027年上半期にかけて実施すると発表している。

全体像として浮かび上がるのは、規制が完成した瞬間に、対象とする世界がすでに先へと進んでしまっていたという構図である。MiCAは現物暗号資産やネイティブなデジタル資産を想定して設計された。しかし現在直面しているのは、3,110億ドル規模のステーブルコイン市場、260億ドル規模のオンチェーン・トークン化産業、競合する米国の規制枠組み、米国規制下の企業によるグローバルなステーブルコイン独占の懸念、そして年単位でしか進まない立法サイクルである。EU当局はこれらのギャップを埋めようと動いており、市場もまた独自のタイムラインで動いている。

■注目ポイントQ&A

●なぜ欧州の取引所はテザー(USDT)を上場廃止にしたのですか?

MiCA第23条により、認可された暗号資産取引所は、欧州証券市場監督局(ESMA)の電子マネートークン(EMT)レジスターに登録されていないステーブルコインを提供することが禁止されたためです。テザー社は、大規模発行体に対して準備金の少なくとも60%をEUの銀行預金として保有することを義務付けるMiCAのルールが、準備金の大部分を米国債で保有する自社のビジネスモデルと相容れないとして、認可申請を行わない決定を下しました。これにより、2026年7月1日のMiCA全面施行に伴い、取引所はUSDTの提供を停止せざるを得なくなりました。

●現在、EUの認可プラットフォームで利用可能なステーブルコインは何ですか?

2026年7月現在、サークル(Circle)社の「USDC」とユーロ連動型の「EURC」のみが、ESMAのレジスターでEMT認可を保持しており、EUの認可取引所を通じて利用可能です。リップル(Ripple)社の「RLUSD」は関連するEMIライセンスを保有していますが、EMT認可はまだ取得していません。なお、USDTの取引所での配布は禁止されましたが、自己管理型(セルフカストディ)ウォレットでの保有や送受信はEU域内でも引き続き合法です。

●「MiCA 2.0」とは何ですか?いつ施行されますか?

現在進められているMiCAの改定プロセスに対する業界内の非公式な呼称です。欧州委員会は2026年5月20日に正式な協議を開始し、トークン化証券、非EUのステーブルコイン発行体に対する同等性制度、DeFiプロトコル、ステーキング、予測市場などを規制対象に含めるべきか検討しています。欧州委員会は2027年6月30日までに見直し報告書と立法提案を提示する予定ですが、通常の立法プロセスを経るため、新ルールが実際に施行されるのは早くとも2028年になると予想されています。

●MiCAのステーブルコイン規制は、EUの金融主権を損ねているのでしょうか?

その懸念が現在、欧州委員会で議論されています。MiCAの準備金ルールは、準備金を欧州の銀行システム内に留めることで金融安定性を保護することを目指していました。しかし実際には、認可された唯一のドル連動型ステーブルコインが、米国の「GENIUS法」の下で規制され、主に米国債を裏付け資産とするサークル社のUSDCとなったため、結果として米国の影響力を強めることになりました。ECBもドル連動型ステーブルコインの普及がEUの金融政策や金融主権に戦略的リスクをもたらすと警告しており、今回の見直しでこの課題に対処できるかが注目されています。

元記事: EU Launches MiCA Stablecoin Rewrite After Reserve Rules Handed Circle Monopoly

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

関連キーワード

関連記事