「Proton 11」安定版がリリース、EAアプリの不具合を修正し18タイトルが新たにLinux対応へ

2026年7月10日 19:33

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記事提供元:Tech Times

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Valveは、LinuxおよびSteam Deck向けの互換レイヤー「Proton 11.0-1」を初の安定版としてリリースした。このアップデートにより、最近のEA Desktopクライアントの更新によって発生していたEA製ゲームの起動不可問題が即座に修正される。さらに、これまで動作しなかった、あるいは実験的ビルドが必要だった18のWindows向けタイトルが、新たに安定して動作するようになった。

■EA Desktopのアップデートによる起動不可問題を解消

Proton 11.0-1における最も緊急性の高い修正は、EAがDesktopクライアントをアップデートした際に発生したデグレード(先祖返り)への対処だ。このEA側のアップデートにより、起動にEAアプリを必要とする多くのEAパブリッシング作品が、Linux上のProton環境で突然起動できなくなっていた。

Proton 11.0-1では、この根本的な互換性の問題を解決し、機能しなくなっていたEAゲームでの「Steamオーバーレイ」も復元した。また、SteamWorks SDK 1.64のサポートも追加されている。

この不具合は、Protonのコントローラーアクセシビリティライブラリである「Xalia」レイヤーにおいて、EAアプリのランチャーUIと相互作用する際にフリーズが発生していたことが原因だった。今回のリリースに含まれる「Xalia 0.4.9」により、このフリーズ挙動が修正されている。

■新たにLinuxとSteam Deckに対応したタイトル

今回のアップデートにより、実験版(Experimental)を含めてこれまで一度も動作しなかった5タイトルが、初めてLinux上のProtonでプレイ可能となった。対象となるのは、『Unknown Faces』『Gothic 1 Classic』『X-Plane 12』『Breath of Fire IV』『Deadly Premonition』だ。これらはクラシックなRPGから本格的なフライトシミュレーターまで多岐にわたっており、ベースとなる「Wine 11.0」への移行が、ピンポイントな修正にとどまらず、低レイヤーにおける複数の互換性ギャップを一度に解消したことを示している。

さらに、これまでは動作が不安定な「Proton Experimental」ブランチを選択する必要があった13タイトルが、デフォルトの安定版ビルドへと昇格した。これには、初代『バイオハザード』(1996年版)、『バイオハザード2』(1998年版)、『ディノクライシス』『ディノクライシス2』『DCS World Steam Edition』『METAL GEAR SURVIVE』『Warhammer: Vermintide 2』『SHOGUN: Total War』『Universe Generator: The Golden Sword』『From Dust』『Metal Fatigue』『Blaite』『Don't Die Dateless, Dummy!』が含まれる。カプコンのクラシックなサバイバルホラー作品群は、これまでLinux上で動作させるために多くの回避策を必要としていたため、これらが安定版チャネルに対応したことは、レトロゲームファンにとって重要な節目となる。

また、特定のゲームにおける多数の不具合も解消された。『She Sees Red』『Crimson Desert』『Satisfactory』での動画再生問題が修正されたほか、『HELLDIVERS 2』で敵が大量に出現するミッション中に発生していたクラッシュに対処した。『No Man's Sky』のVR機能や『Microsoft Flight Simulator』のVRコントローラートラッキングも修正されている。『Cyberpunk 2077』や『The Witcher 3』で使用される「REDLauncher」の終了に異常に時間がかかる問題も解消された。さらに、一時(/tmp)パーティションが10GB未満のデバイスで起動しなかった『Killer Inn』が動作するようになり、ポータブルハードウェア特有のストレージ制限問題も解決している。「Rockstar Launcher」のポップアップ描画や、『DEATH STRANDING 2: On the Beach』のランチャーにおける描画エラーも改善された。

デスクトップLinuxユーザー向けの修正も行われており、KDE環境でのウィンドウ最大化挙動の修正、GNOME環境における『バイオハザード2』の解像度問題の対処、Wayland環境でのフォーカス処理の改善、マルチモニター環境における複数タイトルの挙動修正などが含まれている。

■Protonの仕組みと「Wine 11.0」による進化

Protonはエミュレーターではない。Windowsゲームがオペレーティングシステム(OS)に対して行う呼び出しをインターセプト(傍受)し、Linuxの同等機能へとリダイレクトする互換レイヤーだ。これにより、ゲームの実際のCPU命令はネイティブ環境と同等のフルスピードで実行される。

この仕組みの土台となるのが、Linuxのユーザー空間でWindowsのDLL(kernel32.dll、user32.dll、ntdll.dllなど)を実装するオープンソースプロジェクト「Wine」だ。ゲームの実行ファイルが起動すると、WineがWindows APIへの呼び出しをインターセプトし、Linuxのシステムコールを使って応答する。その上で動作するのが、MicrosoftのDirect3D 8〜11グラフィックスライブラリを置き換える「DXVK」だ。ゲームが描画命令のためにd3d11.dllを呼び出すと、DXVKのVulkan変換レイヤーがそれをインターセプトし、AMD、Intel、NVIDIAがLinux上でサポートするクロスプラットフォームAPIである「Vulkan」のコマンドバッファ操作へと変換する。Direct3D 12ゲームについては、Valveが独自にフォークした「VKD3D-Proton」を経由して、同様のVulkan経路で処理される。

Proton 11.0-1がベースとしている「Wine 11.0」は、単なるマイナーアップデートではない。Wine 11.0のリリースノートによると、1年間の開発期間中に蓄積された約6,300件の個別変更と600件以上のバグ修正が組み込まれている。なかでも構造的な大きな改善点として、「NTSYNC」のサポートと、新しい「WoW64」アーキテクチャの完成が挙げられる。

NTSYNCは、Linux 6.14でメインラインにマージされたカーネルモジュールであり、Windows NTの同期プリミティブ(ミューテックス、イベント、セマフォなど)をユーザー空間ではなくカーネル空間で実装する。Windowsゲームはマルチスレッド処理のためにこれらを頻繁に使用するが、従来のWineの実装では、すべての同期処理がユーザー空間の「wineserver」デーモンを経由する必要があり、これが遅延の原因となっていた。NTSYNCはこれをカーネル層で処理することで往復の遅延を排除する。マルチスレッドを採用する多くの現代的なゲームにおいて、フレームあたりのオーバーヘッドが測定可能なレベルで削減されるため、Linux 6.14以降を実行しているシステムでは、Proton 11のゲームカタログ全体でパフォーマンスの向上が期待できる。

また、64ビットシステム上で32ビットのWindowsアプリケーションを動作させる「WoW64」が、Wine 11.0で完全に完成した。これにより、従来の「wine」と「wine64」のデュアルランチャー構成が、単一の統合されたwineバイナリに置き換わった。実質的な効果として、32ビットのゲームやレトロタイトルが64ビットのProton環境内でよりクリーンに動作し、アプリケーションのビット数に起因する不具合が減少する。

■Proton 11でも解決できない「アンチチート」の壁

劇的な進化を遂げたProton 11.0-1だが、Linuxゲーム環境における最大の障壁である「カーネルレベルのアンチチートソフトウェア」の壁を崩すことはできていない。Riot Gamesの「Vanguard」(Valorant、League of Legendsなど)、Activisionの「RICOCHET」(Call of Dutyなど)、EAの「Javelin」(EA Sportsタイトルなど)を採用しているゲームは、依然としてSteamOSやLinux上のProtonではプレイできない。

この理由はソフトウェアの技術不足ではなく、OSの構造的な違いによるものだ。カーネルレベルのアンチチートは、Windowsの「リング0」と呼ばれる最上位の特権階級で動作し、ゲームが使用するメモリやプロセスを制限なく監視する。しかし、Linuxのカーネルアーキテクチャは、信頼性の担保されていないサードパーティ製ソフトウェアに対して、同様のアクセス経路を提供しない。Protonは完全にユーザー空間で動作するため、カーネルレベルのアンチチートが起動するために必要な環境を提供できない。一方で、ゲーム開発者が明示的に対応を有効にしている「BattlEye」や「Easy Anti-Cheat」などのユーザー空間で動作するアンチチートシステムはProtonでも動作するため、『Counter-Strike 2』や『Rainbow Six Siege』などはSteamOS上でも問題なく動作する。

コミュニティの推計によると、Steamライブラリの約90%はProton上で動作するとされているが、動作しない残りの大部分は、一般的な互換性の問題ではなく、これらカーネルレベルのアンチチートを採用したタイトルだ。Proton 11.0-1によるEA Desktopの修正は、ランチャーに依存するEAゲームを復元するが、オンライン対戦にカーネルレベルのアンチチートを使用するEA Sportsタイトルには影響しない。

■コンポーネントのアップデート状況

今回のリリースでは、主要な変換コンポーネントがすべて最新バージョンに更新された。DXVKはバージョン2.7.1-467に、VKD3D-Protonは「proton-20260410」ブランチビルドに、アップストリームのvkd3dライブラリはバージョン1.19-139にアップデートされた。一部のタイトルで使用されるNVIDIA API互換レイヤー「DXVK-NVAPI」はバージョン0.9.1に、.NET依存のゲームを動作させる「Wine Mono」はWine 11.0への移行に合わせてバージョン11.0.0に更新されている。

Xaliaはバージョン0.4.9にアップデートされ、『Red Faction Armageddon』『Final Fantasy X/X-2 HD Remaster』『Sonic the Hedgehog 4 Episode II』『Batman: Arkham Asylum GOTY』、およびバイオハザードやディノクライシスシリーズを含む20以上のゲームランチャーでコントローラーサポートが追加された。このXaliaの更新が、EAアプリのフリーズ修正を直接実現した仕組みでもある。

また、ARM64ECビルド向けに「FEX」がバージョン2605にアップデートされた。FEX-Emuは、Valveが2018年から資金提供を行っているオープンソースの高速なx86-to-ARM64 JIT変換エンジンだ。ARM64EC(Windows-on-ARMのアプリケーションバイナリインターフェース)により、x86-64のアプリケーションコードをエミュレートしつつ、ARMネイティブコードを直接実行できるようになる。このFEXのアップデートは、Valveが噂されるVRヘッドセット「Steam Frame」や将来のSteam Deckなど、ARMベースのLinuxハードウェアへの投資を継続していることを示唆しており、ARM搭載システムでProtonを実行するLinuxユーザーにも恩恵をもたらす。

■アップデート方法

Proton 11.0-1は、Steamを通じてすぐに利用可能だ。ライブラリ内のゲームを右クリックして「プロパティ」を開き、「互換性」タブを選択して、ドロップダウンから「Proton 11.0-1」を選択することで適用できる。すでにProton 11のベータ版をインストールしていた場合は、自動的に安定版がダウンロードされる。また、Steamストアで「Proton 11」と検索して直接インストールすることも可能だ。このアップデートは、通常のデスクトップLinux、Steam Deck、そして新たに抽選販売の当選者向けに出荷が開始された「Steam Machine」のすべてに適用される。

■注目ポイントQ&A

●今回のアップデート前、なぜLinuxでEAのゲームが突然動かなくなったのですか?

最近行われたEA Desktopクライアントのアップデートにより、EAのランチャーがProtonのコントローラーアクセシビリティレイヤー(Xalia)と干渉し、EAアプリ内でランチャーのUIを処理しようとするたびにフリーズが発生するようになったためです。ゲーム自体の問題ではなく、EA側のアップデートによって発生した互換性の問題でした。Proton 11.0-1に含まれるXalia 0.4.9へのアップデートにより、このフリーズ問題が解決され、EAゲームが再び正常に起動するようになりました。

●Proton 11.0-1によって、Linuxでのゲーム動作は高速化しますか?

Linuxカーネル 6.14以降を実行しているシステムであれば、「NTSYNC」のサポートにより高速化が期待できます。Wine 11.0のNTSYNC対応により、Windows型のスレッド同期処理がユーザー空間のデーモンからカーネル空間へと移行し、マルチスレッドゲームにおける処理遅延が削減されます。ただし、グラフィックスカード(GPU)の性能がボトルネックになっているゲームではフレームレートの向上は体感しにくいですが、CPUがボトルネックになっている場面や、CPUとGPUの連携処理におけるオーバーヘッドは削減されます。古いカーネルを使用している場合は、自動的に従来の挙動にフォールバックされます。

●なぜEAのランチャーゲームは修正できるのに、EA Sportsなどの対戦ゲームは動かないのですか?

『FIFA』や『Madden』などのEA Sportsタイトルは、オンライン対戦での不正を防ぐために「カーネルレベルのアンチチート」を採用しているためです。これらはWindowsの最も深い権限(リング0)を必要としますが、Linuxはセキュリティ上の理由から、信頼できないサードパーティ製ソフトウェアにこのような権限を与えません。Protonは完全にユーザー空間で動作するため、この環境を再現できません。今回のEA Desktopランチャーの修正は、ユーザー空間で解決可能なコントローラーレイヤーとの干渉問題を解決したものであり、カーネルレベルのアンチチート問題を解決するものではありません。

●「Proton Experimental」と「安定版(Stable)」の違いは何ですか?

Proton Experimentalは、Valveが提供する継続的なベータ版ブランチです。ゲームの修正やコンポーネントのアップデートが、安定版に先駆けて数週間から数ヶ月早く導入されます。今回のProton 11.0-1で「対応完了」となったタイトルの多くは、これまでExperimentalブランチを手動で選択しなければ動作しませんでした。安定版に昇格したことは、十分なテストを経て、Valveがデフォルトの設定として提供できる品質に達したことを意味します。安定版を使用することで、以前は動いていたゲームがアップデートによって動かなくなる「デグレード」のリスクを減らすことができます。

元記事: Proton 11 Stable Fixes EA Desktop Regression and Brings 18 New Linux Games

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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