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暗号資産規制の境界線:Tetherがテロ組織のTRONウォレット131個を数時間で凍結、プライバシーコイン「Monero」は追跡不能
米財務省は2026年7月1日、テロ組織「ISIS-K(イラク・レバントのイスラム国ホラサン州)」に関連する暗号資産ウォレット134個を制裁ブラックリストに追加した。これを受け、ステーブルコイン最大手Tether(テザー)は数時間以内にTRONネットワーク上の131個のウォレットを凍結したが、プライバシー重視のブロックチェーンであるMonero(モネロ)の3個のウォレットは凍結を免れた。この対照的な結果は、法執行機関による暗号資産規制の有効性と、技術的な限界を浮き彫りにしている。
■ISIS-Kの資金調達ネットワークの内実
米財務省外国資産管理局(OFAC)は2026年7月1日、ISIS-Kの指定情報を更新し、新たにTRON(トロン)のアドレス131個とMoneroのアドレス3個を制裁対象として追加した。ISIS-Kは2015年9月から「特別指定グローバルテロリスト」に指定されているが、今回の措置は、同プログラムの歴史において一度にブロックチェーンアドレスが追加された規模としては最大となる。
調査を支援した暗号資産分析会社Chainalysis(チェイナリシス)によると、このネットワークの活動は2023年まで遡る。指定された131個のTRONウォレットは、同期間中に累計140万ドル(約2億2,540万円、1ドル=161円換算)以上を受け取り、88万ドル(約1億4,168万円)以上を送金していた。資金調達のモデルは、ISIS-Kのメディア部門である「al-Azaim Media Foundation」がウェブサイトや暗号化メッセージプラットフォームを通じて募った、個人による小口の寄付が中心である。また、指定されたウォレットの一部は、オンチェーンの資金調達ネットワークを現実世界に繋ぐ現金化インフラであるシリア拠点の暗号資産両替業者に資金を送金していた。
TRONネットワークが選択されたのは偶然ではない。TRONは、取引手数料が1セントの数分の一と極めて安く、決済がほぼ瞬時に完了するため、中央アジア、中東、サブサハラアフリカ、ラテンアメリカなど銀行口座へのアクセスが制限された地域において、ドル建てステーブルコイン送金の主要なインフラとなっている。この低コストと高スループットの組み合わせが、合法的な国際送金だけでなく、テロ組織の小口かつ頻繁な国際寄付フローにとっても魅力的な選択肢となったとみられる。
■Tetherの凍結機能の仕組みと今回の対応
OFACが更新情報を発表した同じ日の午前、Tetherは指定された131個のTRONアドレスすべての残高を凍結したと発表した。これを可能にしたのは、TetherがTRONブロックチェーン上で管理権限を持つスマートコントラクトを介してUSDTを発行しているという構造的特徴である。Tetherのコンプライアンスチームがアドレスをブラックリストに追加すると、そのアドレスのトークンはコントラクトレベルで即座に凍結され、保有者は送受信や償還ができなくなる。これに裁判所の命令や銀行の介入は必要ない。
この凍結機能は、規制遵守のための機能として意図的にUSDTに組み込まれたものである。中央の発行体が存在しないBitcoin(ビットコイン)や、ネイティブ通貨に管理者キーが存在しないEthereum(イーサリアム)とは異なり、TetherはUSDTが稼働するすべてのブロックチェーンにおいてマスターキー権限を保持しており、数分以内にその権限を行使できる。
Tetherは英領バージン諸島に法人を置いており、米国の銀行のようにOFACの指定に法的に従う義務はないが、自主的なポリシーとして制裁リストに準拠している。同社は2026年1月に法執行機関の要請に関連して5つのTRONウォレットで1億8,200万ドル(約293億200万円)以上のUSDTを凍結したほか、2026年4月にはイラン中央銀行に関連する約3億4,420万ドル(約554億1,620万円)を凍結している。Chainalysisは、ステーブルコイン発行体が従来の金融機関よりも迅速に制裁措置を実行できる「能動的な法執行レイヤー」になっていると指摘している。
■Moneroの3つのウォレットが凍結できない理由
一方で、OFACのリストに掲載された3つのMoneroアドレスは、構造的に全く異なる状況にある。これはコンプライアンスの不備や法的な抜け穴ではなく、技術的な設計によるものである。
Monero(XMR)は、中央の管理者が存在しないため、いかなる第三者も凍結を実行できないように設計されている。同プロトコルは、取引をデフォルトで追跡不可能にするために、3つのプライバシー技術を組み合わせている。
1つ目は「リング署名」で、送信者を隠す技術である。ユーザーがXMRを送信する際、その取引データはブロックチェーンから抽出された他の15個の取引データとグループ化され、16個のリングを形成する。外部の観察者は16個のメンバーのいずれかが署名したことは検証できるが、実際の送信者を特定することはできない。
2つ目は「ステルスアドレス」で、受信者を隠す技術である。取引ごとに受信者の公開鍵から派生した使い捨てのワンタイムアドレスが自動生成されるため、外部の第三者がステルスアドレスを既知の公開アイデンティティに関連付けることはできない。
3つ目は「RingCT(Ring Confidential Transactions)」で、取引金額を隠す技術である。暗号技術を用いて、送金された具体的な金額を明かすことなく、ネットワーク上で不正な発行や消滅がないことだけを検証する。
この結果、Moneroの台帳は「公開検証可能でありながら、プライベートには不透明」な状態に保たれる。管理者キーも中央の発行体も存在しないため、OFACがアドレスを指定して米国人との取引を禁止することはできても、TetherがTRONウォレットで行ったような資金凍結を強制することは技術的に不可能である。
■同時摘発:ブラジルの犯罪組織「PCC」
7月1日のOFACの更新には、ラテンアメリカ最大級の犯罪組織とされるブラジル・サンパウロ拠点の「Primeiro Comando da Capital(PCC)」を対象とした別の同時摘発も含まれていた。
OFACは、複数の米国都市で得た3,000万ドル(約48億3,000万円)以上の不法収益を暗号資産を用いてブラジルに送金し資金洗浄したとして、ブラジル国籍の2名と関連企業4社を指定した。この事例は、米財務省の暗号資産取り締まりがテロ資金供与対策にとどまらず、麻薬取引や国際的な資金洗浄ネットワークにも及んでいることを示している。
■GENIUS法案による規制環境の変化
今回のISIS-Kに対する措置は、米国の規制環境を大きく変える法的な期限の15日前に実施された。2025年7月18日に成立した「GENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)」は、米国における決済用ステーブルコインの包括的な連邦枠組みを定めている。同法に基づき、認可された決済用ステーブルコイン発行体は、制裁対象者との取引をスクリーニングしブロックする手順を含む、効果的な制裁遵守プログラムを維持することが義務付けられている。関係する6つの連邦機関は、2026年7月18日までに実施規則を策定する期限を迎えている。
これらの規則が遅くとも2027年1月18日までに施行されると、米国で認可されたステーブルコイン発行体は、Tetherがこれまで自主的に行ってきたような迅速なスクリーニングと凍結を法的に義務付けられることになる。しかし、英領バージン諸島に拠点を置くTetherは、同法に基づく米国認可の発行体ではない。外国の発行体が米国市場で活動するには、米財務省から自国の基準が米国と同等であるとの認定を受ける必要があるが、このプロセスは未だ解決していない。世界最大のステーブルコイン発行体が、自ら手本を示している法律の施行と同時に、米国市場へのアクセス制限という規制圧力に直面する可能性がある。
■暗号資産コンプライアンスチームへの示唆
世界の暗号資産サービスプロバイダー(VASP)や金融機関にとって、今回のOFACの更新は即時の対応を迫るものである。Chainalysisなどのスクリーニングツールを使用している取引所やカストディアンは、指定されたアドレスとの接触を自動的に検知できるが、対応を怠った場合は意図の有無にかかわらずOFACの厳格責任による制裁対象となるリスクがある。
今回の事例は、規制の有効性と限界の双方を示している。TRONウォレットの凍結は、当局の指定から1営業日以内に銀行や裁判所の命令なしに資金を凍結できるという、現在の協調的取り締まりの最善の形を示した。一方で、Moneroの3つのアドレスは、技術的な設計がもたらす規制の限界を証明している。この限界を「物理的な現金取引に類似した技術的境界」として許容するのか、あるいは「法整備を要する規制の抜け穴」とみなすのかが、今後のプライバシー重視型暗号資産を巡る議論の焦点となるだろう。
■注目ポイントQ&A
●米国政府やステーブルコイン発行体は、Moneroのウォレットを凍結できますか?
いいえ、技術的に不可能です。Moneroはリング署名、ステルスアドレス、RingCTなどのプライバシー技術を組み合わせているため、中央の発行体や管理者キーが存在せず、第三者がウォレットを凍結することはできません。OFACによる指定は法的な取引禁止を意味しますが、資金そのものを凍結する強制力はありません。
●Tetherがウォレットを凍結できるのはなぜですか?一般のUSDT保有者に影響はありますか?
TetherはTRONやEthereumなどのブロックチェーン上でスマートコントラクトを介してUSDTを発行しており、このコントラクトには管理者制御のブラックリスト機能が組み込まれています。これにより特定のアドレスを凍結できますが、Tetherは一般のユーザーには影響しないと説明しています。ただし、構造上、すべてのUSDT保有者は発行体による凍結権限の下にあります。
●GENIUS法はステーブルコイン発行体に何を義務付けていますか?
2025年7月18日に成立したGENIUS法は、認可された決済用ステーブルコイン発行体に対し、制裁対象者との取引をブロック・凍結・拒否するための制裁遵守プログラムの維持を義務付けています。実施規則は2026年7月18日までに策定され、遅くとも2027年1月18日までに施行される予定です。
元記事: Tether Froze 131 ISIS-K Wallets in Hours: Three Monero Addresses Remain Untouched
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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