菌が作るプラスチック素材 強度と分解の両立に期待 東工大の研究

2023年1月9日 17:06

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今回の研究の概要(画像: 東京工業大学の発表資料より)

今回の研究の概要(画像: 東京工業大学の発表資料より)[写真拡大]

 環境にやさしい様々な素材が開発されてきている。東京工業大学は5日、菌が体内で作る物質を材料にした、微生物ポリエステルの生合成に成功したと発表した。これを素材としたバイオプラスチックは、微生物によって分解される。使用中の耐久性と廃棄時の分解されやすさを併せ持ち、調節することができるという。

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 今回の研究は、東京工業大学の柘植丈治准教授、水野匠詞特任助教(研究当時)、中川絢太大学院生(研究当時)、櫻井徹生大学院生、宮原佑宜特任助教により行われ、その成果は、12月17日に「International Journal of Biological Macromolecules」に掲載された。

 プラスチックは、成形しやすい、軽くて丈夫、腐らない、大量生産しやすいなどの特徴があり、生活の様々な場面で使用されている。だが有限な化石資源である石油を原料としていることや、微生物などによって分解されないため、環境を汚染してしまうことが問題となっている。洗濯する時にでる合成繊維の繊維くずや、風化して細かくなったマイクロプラスチックも取り除くことが難しい。

 このような中、環境負荷の少ないものとして開発されたのが、植物などの再生可能な物質を材料に作られたバイオマスプラスチックや、微生物などにより二酸化炭素と水にまで分解される生分解性プラスチックである。これらはまとめてバイオプラスチックと言われており、その用途や解決したい問題に合わせて利用されている。

 今回研究チームは、ポリエステル生合成経路とアミノ酸分解経路を導入した遺伝子組換え大腸菌に、アミノ酸の一種であるメチオニンを副原料として供給。生分解性を持つ微生物ポリエステル(プラスチックの一種)を生合成することに成功した。

 メチオニンは、硫黄(S)を含むスルフィド基を持つアミノ酸である。メチオニンを材料として大腸菌が作るポリエステルは、スルフィド基を持っており疎水性が高かった。

 プラスチックを分解する微生物の分解酵素は、疎水性が高い時にその表面に結合しやすくなり、分解もすすむ。今回合成されたプラスチックは、過酸化水素水などにより酸化すると疎水性のスルフィドが親水性のスルホンに変化し、微生物に分解されにくくなることがわかった。

 親水性や疎水性を調整できるプラスチック素材は、使用中の劣化のしにくさと、廃棄する時の分解されやすさのバランスを調節できる可能性があるだろう。このようなプラスチックを大腸菌により産生させることができれば、環境への負荷が小さいプラスチックの実用化が期待できる。

 現状では大腸菌に副材料としてメチオニンを添加することが必要だが、大腸菌自身にメチオニンを過剰生産させることで、添加なしで微生物ポリエステルを作ることができる。このようなバイオプラスチックの産生方法を確立していければ、化石資源を節約し、さらに使用後のプラスチックによる環境汚染を防いでけるだろう。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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