【映画で学ぶ英語】『カモン カモン』:複合動詞「come on」とタイトルの意味

2022年5月20日 11:17

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 4月22日に公開された映画『カモン カモン』は、9歳の甥っ子と、彼の面倒を見ることになった伯父の心の交流を描いたヒューマンドラマだ。『ジョーカー』での怪演が話題となった俳優のホアキン・フェニックスが、一転して平凡な中年男性を演じた、心温まる作品である。

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 今回はこの映画における複合動詞「come on」の用法とタイトルの意味を解説したい。

■映画『カモン カモン』のあらすじ

 ホアキン・フェニックス演じるジョニーは、ニューヨークを拠点に活動するラジオジャーナリスト。彼は現在、アメリカ各地の少年少女たちに将来についてインタビューする企画に参加している。

 ある日、デトロイト滞在中のジョニーのもとに、前年母親が亡くなってから交流のなかった妹・ヴィヴがロサンゼルスから電話をかけてきた。オークランドに別居する彼女の夫・ポールが情緒不安定になったため、彼の看病に行かなければならない。暫くの間、彼女の9歳の息子・ジェシーの面倒を見てくれないか、と言うのである。

 最初は数日の予定であったが、ポールが行方不明になったため、ジョニーはジェシーを連れてニューヨークに帰ることにした。やがて2人は、ニューオリンズへの取材旅行に一緒に出かけるなど、交流を深めていくことになる。

■監督が語るタイトルの意味

 子どものいない中年男が、甥っ子の親代わりになって強い絆が生まれていく過程を淡々と描いた『カモン カモン』。実はこの映画は、監督・脚本のマイク・ミルズ自身が2012年に子どもを授かったことに着想を得た作品である。

 ではタイトルの「カモン カモン」に監督が込めた想いは何であろうか。ミルズ監督はMovieMakerの取材に対して、タイトルの意味は「直感的なもの」で、簡単に説明できないと答えている。

 監督は、「カモン カモン」は音楽でよく耳にする誘いの言葉であると言う。

 さらにこの言葉は監督がタイトル候補として書き出したものの1つで、それを友人の1人がとても気に入ったため決まったそうだ。監督自身は、様々な意味を込められるこの言葉の開放性が気に入った、と語っている。

 そしてミルズ監督は、この言葉にはcome withのような意味も感じられる、とも言った。

■映画でのcome onの使われ方

 次にこのようなミルズ監督の言葉を念頭に置きつつ、この映画のなかで複合動詞「come on」がどのように使われているか、振り返ってみよう。

 まず序盤、舞台がロサンゼルスからニューヨークに変わる場面。背景に挿入される楽曲は、ルー・リードがThe Primitives名義(後の英国のインディー・ポップ・バンドとは別のバンド)で1960年代半ばに出した「The Ostrich」だ。

 その歌い出しで、「come on, let’s go」とボーカルが聴衆に呼びかけるのがまず強く印象に残る。ミルズ監督があげた、音楽に見られる誘いの言葉としてのcome onは、この場面と関連するのだろうか。

 誘いに関しては、「さあ、入って」と人を家に温かく迎え入れるときの表現、come on inが、ニューオリンズの場面で使われているのも見逃せない。

 しかし、この映画で最も多く見られたcome onの用法は、懇願や肯定、否定などに柔らかみを与える助動詞「please」と同義の用法である。この意味でのcome onは命令形を伴い、特にジョニーがジェシーに対して何かを促すときに頻繁に使っている。

 さらにこの意味から派生してcome onは、間投詞のように驚きや不信などを表現するのにも頻繁に使われる。映画の中盤、「Why my mom let me come with you?どうしてママは僕が伯父さんと一緒に行くのを許したのだろう?」と言い出したジェシー。わがままな子どもにいささかうんざり気味のジョニーが、「Hey, man, come on」と答える場面が面白い。

■ジェシーのメッセージの意味

 このようにcome onは、この映画の全編を通じて、特に強く意識されることなく連発される言葉である。しかし、終盤に差し掛かるころのジェシーのセリフで、この言葉は本作のキーワードに変わる。

 序盤でジョニーに「未来について連想することは?」と尋ねられ、「答えたくない」とすねていたジェシー。だが終盤で疲れ果てたジョニーが休んでいる間、ジェシーは彼のレコーダーに次のような答えを吹き込んでいた。

”Whatever you plan on happening, never happens. Stuff you would never think of happens. So you just have to... you have to come on, come on, come on, come on, come on…”

 未来は計画や予測どおりには絶対ならない、現在思いもよらないことが起きる驚きの連続である、ということか。その驚きの連続を受け入れて楽しもう、何でも来い、という肯定的なメッセージと言えよう。

 このセリフのcome onは日本では「先に進む、先へ(カモン)」と紹介されている。ミルズ監督の言葉やこの映画におけるcome onの用法をあわせて考えると、この言葉を1つの日本語で表現することは、至難の業であることは言うまでもない。

 原語のセリフから、come onという普段何気なく使われる、直接的だが同時に親近感や包容力を想起させる表現の持つ、様々な意味を感じ取りたいものである。(記事:ベルリン・リポート・記事一覧を見る

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