SMBC日興証券事件は前代未聞の法人起訴に、背後に広がる疑惑にどう対処?

2022年3月25日 16:55

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 証券取引等監視委員会は23日、SMBC日興証券の相場操縦問題で、金融商品取引法違反(相場操縦)の嫌疑が固まったとして、法人のSMBC日興証券と幹部等7人を東京地検に告発。翌24日には東京地検特捜部が、事件の本丸であるエクイティ本部を所管する副社長を逮捕して、法人としてのSMBC日興証券を起訴した。

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 事件は大量の株式を市場外で売却する、ブロックオファー取引に絡んで行われた。売りと買いが交錯して株価が形成される株取引では、大量の売却は直接的に株価を引き下げる要因になり得るから、市場の外で購入希望者を発掘して売り捌くことに問題はない。

 逆に言うと、大量の株式を短期間に売り捌くことで証券会社としての力量をアピールして、次のビジネスチャンスにつなげようとすることは、事業会社にとってのセオリーとも言える。ところがそこには大きな陥穽(かんせい)があった。

 他の証券会社が、ブロックオファー成立に4~5日の日数を目途にしているのに対して、SMBC日興証券のそれは僅か1日である。時間外に買い取りを持ちかけられた投資家が、投資よりも空売りに商機を感じた場合、僅か1日という期間は、仕掛けのタイミングが絞り易いという誘惑になる。空売りが膨らめば、対抗する買い注文もつられて膨らむことになるので、自縄自縛に追い込むかのような日数設定と言える。

 事件の第1報を耳にした同業界の職員が「どうしてそんなこと(相場操縦)をするのか、信じられない」とコメントした通り、「証券業界のゲートキーパー(門番)」と自覚する業界人には、あり得ない行為だというのが常識だ。顧客がそんな行為をしないように、牽制すべき立場なのである。

 ところが、今回の事件に関わった役職員は、「通常取引だった」という認識を当初から変えていない。組織の枢要な部署に所属する複数の役職員が、正しく認識(良いことと悪いことを峻別する)できない金融商品取引法の在り方そのものに、大きな欠陥があるという反省も必要だろう。「ムラの中でやっている限り」、なかなか露見しないザル法だったのだ。

 当初報じられていた5銘柄の他にも、同様の疑いがある銘柄として「大正製薬HD」の名前が出て来た。ブロックオファーの対象日とされる21年4月8日の出来高は、100万株を越えていた。それ以後3月24日まで、50万株を越えたのが1日のみで、日々の出来高はほとんど10万株前後なので、如何にも不自然だ。

 当該日の終値が6620円だったのに対して、3月24日は6140円だ。仕掛けた方は売り逃げたにしても、つられ買いをした挙句塩漬けにしている投資家は救われまい。心証「真っ黒」と言う他ない。

 そもそも、未だに「通常取引だった」と言っている容疑者達が、容疑対象の19年から20年の当該期間に限定して、5銘柄だけの相場操縦をやっていたと考える方がお目出度い。徹底的に膿を出し切る覚悟が必要だろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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