ソフトバンクGがアームの売却断念を、受け入れざるを得なかったワケ!

2022年2月12日 10:36

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 ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は、言葉遣いが巧みだ。2016年に英半導体設計アームを約240億ポンド(約3.3兆円)で買収した際には、長年孫社長が温めていた宿願と言われ、「未来を見通す水晶玉」とまでの表現をして、アームがSBGに欠かせない事業会社と位置付けていた。

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 スマホに不可欠な半導体設計で、およそ9割のシェアを押さえるアームが、自社に集まるデータを読み解いて未来を予想するという、単なる事業会社としての位置付けに納まらない扱いだった。

 風向きが変わったのは、2020年に米半導体大手エヌビディアから、当時破格と言われる買収提案を受けた時だ。売却額が最大400億ドル(約4.2兆円)で、SBGはエヌビディア株を約6.7~8.1%取得し、同社の大株主になるおまけまでついた。同年8月下旬にSBG幹部の「アームはSBGを支える企業の1社として成長戦略を描いていたが、こんなに良い条件を出されたら売却の検討に向かうのは当然だ」という発言が伝えられた。言い回しで、孫社長をイメージしてしまうのは、うがち過ぎだろうか?

 皮肉なのは、エヌビディアの順調すぎる業績の推移が、買収計画の最大のネックになったことだ。

 アームの買収計画が公表された当時、2020年1月期の売上高は約109億ドル(約1.3兆円)だったが、2021年1月期には167億ドル(2兆円弱)強へと僅か1年で53%を越える伸張を見せている。2022年1月期には300億ドル(約3.4兆円)を突破すると伝えられている。

 2021年12月2日にエヌビディアとアームの合併を阻止すべく提訴した米連邦取引委員会(FTC)は、訴状の中で「エヌビディアがライバル企業を不当に弱体化させる」可能性を強く指摘した。FTCはエヌビディアが既に「世界最大規模で最大の時価総額を誇る、コンピューティング企業の1つ」との認識を示した。S&P500種指数採用銘柄で上位から7番目の規模であり、8000憶ドル超の時価総額企業に成長したエヌビディアは、現在の有り様そのものが既に”要注目企業”なのである。

 そもそも、エヌビディアは半導体メーカーである。米ブロードコムやクアルコムなど、数多くの半導体メーカーを顧客に抱えるアームがエヌビディアに買収されても、取引の中立性が維持されると考える方がおめでたい。

 結果として各国の独禁法規制当局が、横並びで反対の姿勢を鮮明にすることとなった。マーケットの寡占化を目論んだエヌビディアの思惑と、期待以上の好条件でアーム売却を目指したSBGの皮算用は、はかなくも潰えたのだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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