オムロン創業者:立石氏の「子供論」を、今の親御さんはどう捉えるか!?

2021年11月18日 11:05

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3億台突破記念で開設したグローバルウェブサイト。(画像: オムロンの発表資料より)

3億台突破記念で開設したグローバルウェブサイト。(画像: オムロンの発表資料より)[写真拡大]

 11月7日の朝日新聞デジタル版が、『1973年に第1号機が発売されたオムロンの血圧計が、世界で累計3億台を突破 「医療インフラ」を目指す』と題する記事を配信した。その歴史・世界的シェア・意義など、興味深い内容が記されている。私も毎朝、起きた直後に血圧を測り手帳に記録している。

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 「感知・制御技術が基盤。稼ぎ頭は制御機器。リレー等電子部品や鉄道システム、ヘルスケアも展開」(四季報:特色欄)と紹介される。展開の領域は実に広い。が、私はまず前記の新聞記事を読み、一般医療分野(ヘルスケア分野)の商品群が気になった。後述するがオムロンの総売上高・総営業利益に占める割合も高い。

 「主力は」と、問い合わせた。IR部からこんな答えが返ってきた。「三本柱は血圧計・ネプライザ(吸入器)・低周波治療器。20年度のこの分野の総売上高は1231億円で、血圧計・ネプライザが約59%を占めている」。

 収益動向は順調。前3月期の「3.3%減収、14.1%営業増益」に続き今期も「6.8%増収、12.0%営業増益、2円増配86円配」計画で立ち上がり、10月28日の中間期開示と並行して「19.0%の増収(7800億円)、56.9%の営業増益(980億円)、92円配」に上方修正した。そんなオムロンを調べていくうちに、創業者:故立石一真氏に興味を覚えた。今も時折新興企業のトップに「起業家の持って生まれた運・資質」を覚えるが、立石氏にも同様の思いを抱いた。

 立石氏は1900年、伊万里焼盃の製版業を営む(佐賀県の)商家に生まれた。だが小学1年生で父を亡くした。下宿屋を始めた母を助けるため、新聞配達をした。「立石名言」を多々残しているが、例えば少子化時代の親御さんはこんな話をどう受け止めるだろうか。『幼い日々に思う存分遊んでこそ、人脈は広がり、ロマンは育つ。その心の襞(ひだ)が創造(想像)を生み出す基となる』。

 そんな立石氏に起業家としての「運・資質」を覚えるのは、1921年に熊本県立熊本工業高等学校・電気科を卒業し県庁の電気技師になってからの学友との「妙縁」である。学友が前記のような「幼い日々に遊んで得た人脈かどうか」は定かではないが・・・。

 県庁勤めという手堅い職を辞し、井上電機製作所なる職場に転じたのは学友の紹介が引き金だった。そこで米国で開発された「誘導形保護継電器」の国産化と取り組んだ。これがオムロンの前身:立石電機製作所設立(1933年)に繋がる。

 やはり契機は学友の示唆だった。「誘導形保護継電器と油入電流遮断器を組み合わせることができれば・・・」。立石氏は乗った。「・・・」が何を意味するかを、容易に理解できたからである。X線撮影をしたことがない成人は皆無に近いと思う。レントゲン撮影に際し最も肝要なのが、タイマと呼ばれる装置。フィルムに適正な黒化度を与えるもので、「写真の解析度や対象度を害さない」役割を果たす。制御機器である。オムロンの前身は、このタイマ搭載のレントゲン撮影機でデビューした。

 中間期決算を例に各事業分野を売上高順に覗くと、こんな具合だ。

★IAB(制御機器事業): 設備投資需要が背景となる。デジタル業界で・・・半導体・2次電池の設備投資需要が拡大、自動車業界では・・・電気自動車向け設備投資需要が増加、食品・日用品業界では・・・欧州中心に包装機械などの設備投資が順調に推移、「(前年同期比)29.4%増収(2134億円)、55.3%営業増益(409億円)」となった。

★ヘルスケア事業: コロナ禍により生活習慣病の重症化予防に対する意識の高まりでグローバルに・・・血圧計の需要拡大が継続、体温計需要は前年の反動があったものの底堅く推移・・・「17.7%増収(677億円)、13.9%営業増益(121億円)」を計上した。

★電子部品事業: 民生向け部品・・・とりわけ家電・住宅設備・電動工具など注力業界で需要が大きく拡大、自動車部品の需要は昨年のコロナ禍の影響は脱したものの半導体不足の影響を受け緩やかに回復、結果「32.9%増収(516億円)、1128.3%営業増益(40億円)」を実現した。

★社会システム事業: エネルギーソリューション事業で、カーボンニュートラルや防災・減災ニーズの高まりから蓄電システム需要が好調。が駅務システム事業がコロナの影響を受け投資抑制が継続したことを補いきれず、「6.4%減収(350億円)、14億円の営業損失」と軟調が継続。

 オムロンの過去約10年間の株価パフォーマンスは、修正済み水準で6.9倍余。素直に受け止めたい。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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