孫正義氏の「スマボ」論と、トヨタ中興の祖:石田退三氏の「機械はいい」が妙に重なる

2021年9月21日 07:37

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 ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義CEOが15日のオンラインイベントで、いかにも「らしい」と言うべきか妙に説得力を感じる発言を発信した。

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 各メディアが取り上げているが、例えば朝日新聞Web版は『「日本復活の鍵はスマボ」10億人分以上の労働力を代替も』という見出しで、内容を伝えた。孫氏が言わんとした最大の要旨はガラボ(従来のロボット)でなく、「AIで学習し臨機応変に動くロボット:スマートロボット(スマボ、ガラボとも孫氏の造語)で、日本の労働人口の減少で補っていける」とする戦略。SBGの関連18社で導入を進めるという。

 孫氏は、「ロボットは24時間休まず働けるため、労働時間や生産性を加味すると人間の10倍の競争力を持つ。最終的には人間の動作の機敏性、正確性をも超えていくと思う。もし1億台日本に導入されれば、労働人口に直して10億人に相当する国に生まれ変われる」といった内容を語った。

 配信に接し何故か、(写真でしか知らないが)ある人物の顔が頭に浮かんだ。「トヨタ中興の祖」と言われる故石田退三氏(1979年9月、90歳で逝去)である。無論、取材の体験などない。「ケチケチ経営を貫き、今日のトヨタの強い財務体質の礎を築いた人物」と先達から伝え聞いて、調べた結果「凄い人だ」と感服した御仁である。

 トヨタの祖業である豊田織機の創業者:豊田佐吉翁から教育・薫陶を受け、豊田織機の社長・会長を務めた。

 トヨタ自動車(工業)は、豊田織機に開設された自動車部が1937年(昭和12年)に独立して誕生している。

 そんなトヨタ自動車も、倒産の危機に見舞われたことがある。戦後の「GHQによる財政金融引き締め政策」の影響で資金繰りが悪化。銀行団の協調融資でなんとか倒産は免れたが、トヨタ自動車の初代社長:豊田喜一郎氏(佐吉翁の長男)は「人員整理」を巡る2カ月間に及ぶ労働争議のなか、辞任を余儀なくされた。後任に就いたのが石田氏。豊田織機社長との兼任だった。

 トヨタ自動車再建に当たり石田氏は「自動車会社としての主軸を販売台数の増加には求めない。利益の追求に軸足を置く」と宣言。「無駄な金は一切使わない」「自分の城は自分で守る」を前面に押し出し、「利益は研究開発費に充当し、ケチケチ経営に徹する」と具体的な経営方針を打ち立てた。

 ケチケチ経営に関しては、こんな逸話も残っている。研究開発の注力と並行し、機械(製造設備)に資金を投じた。「機械は飯も食わんし酒も飲まない。黙っていれば1年365日24時間、働き続ける」とする論も吐いている。

 時代も違うし、環境も全くことなる。だが私には孫氏の「スマボ」提唱と、石田氏の「機械は・・・」が妙に重なるのである。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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