バフェット氏に引導? バリュー投資の終焉と緩和バブルの副作用 (5)

2021年5月19日 16:29

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 過去における数多のバブル崩壊や暴落局面は、バフェット氏にとって好機でしかなかった。リスクオフとなって市場全体が売り込まれる場合、優良株も巻き込まれて売られることが多い。そんな状況下で優良株を買い積むというのが、バリュー投資の秘訣なのだ。

【前回は】バフェット氏に引導? バリュー投資の終焉と緩和バブルの副作用 (4)

 しかしながら、バフェット氏にとって、コロナ禍後の暴落がこれまでのような好機とならなかったことは明らかである。航空銘柄を見放し、「魅力的な投資銘柄が無い」として投資余力は積み上がる一方だ。さらに、直近では銀行株すら手放すようになっており、長期的に保有を続けている銘柄は、アメリカン・エクスプレス、コカ・コーラ、ムーディーズしか残されていない。

 コロナ禍はこれまでのバブル崩壊や暴落局面とは明らかに異なり、世界中の文化や価値観までも一変させてしまった。特にデジタルシフトが加速したことは明らかであり、デジタル化に遅れを取る日本国内であっても、脱ハンコが真剣に考えられるようになった。

 「シンプルで理解できる事業であること」というバフェット氏が貫き通した信念から鑑みれば、グロース投資銘柄の成長を後押ししたクラウド、ダイナミックプライシング、サブスクリプションなどの新しいサービスは、簡単には解せないものなのであろう。

 「SPAC(特別買収目的会社のことで、特定の事業を有さず、未公開会社・事業の買収を目的に設立される企業)は厄介者」、「ロビンフットのような素人の投資はギャンブル」、「仮想通貨は控えめにいっても全てが不快」というバフェット氏とマンガー氏の発言を並べると、全てがデジタルシフトへの抵抗とも見て取れる。

 もちろん、これらの発言は株式投資の基本に立ち返った場合には全て正しいことである。不健全で実態が不明な株価上昇よりも、企業の価値をしっかりと見定めたうえで、ファンである株主が増え、その株主のために企業は利益を出す努力をし、その利益から支払われる対価を株主が受け取るという、ごく自然な流れをただただ尊重してきた投資家なのだ。

 だからこそ、そのごく当たり前な投資家の姿勢が崩されそうとしているバフェット氏にとって、現在のコロナバブルの副産物として起こりつつあるマネーゲームが不愉快でたまらないのかもしれない。バフェット氏は、企業が経営努力によって生み出す利益とは関係ないところで、社会的大義のため行われるESG投資にも懐疑的な立場である。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

続きは: バフェット氏に引導? バリュー投資の終焉と緩和バブルの副作用 (完)

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