マネタリーベース、ドルは10年で2.4倍 円は5.8倍 マーケットは資産運用の格好の収穫場

2021年5月10日 16:37

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 5月8日に発表されたアメリカの4月度雇用統計は、非農業部門の就業者数が前月比で26万6000人増加となった。市場予想を大きく下回る数字で、これについてバイデン大統領は、国内経済の回復にはまだ時間がかかるとの見解を述べていた。

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 ただし、バイデン大統領が就任して以降、3月6日には1兆9000億ドル(約206兆円)規模の追加経済対策法案を通し、4月1日には、国内インフラ整備を目的とした2兆ドル(約220兆円)を向こう8年間で投入する新計画を発表している。400兆円規模の大規模な財政出動で、今後も国内の雇用を拡大すると力強く述べていた。

 なるほど、2021年3月以降のダウ平均は実に力強く青天井を登り、今後も相場を押し上げていく公算が高い。もちろん、日経平均株価もコロナショックの大幅下落以降、ダウ平均と肩を並べるように上昇トレンドを形成している。世界の主要国で同様の株式相場を展開している要因には、リーマンショックから一貫した規制緩和による大量の通貨発行がある。しかし実体経済は、この株価上昇と比例して拡大してきたわけでは全くない。

 例えばアメリカのFRB(ドルの発行権をもつ中央銀行)は、2021年3月に入ってマネタリーベースを急激に増加させている。バイデン大統領による大規模な財政出動が始まったこともあり、2月度の5兆4470億ドル(590兆円)から3月度には5兆8390億ドル(約640兆円)へ、そして5月現在では6兆ドルを超える勢いで増加している。ちなみに10年前の2011年4月時点では2兆5000億ドル、この10年間で2.4倍に増加したこととなる。

 また日本円だが、2011年4月の110兆円から2021年4月の644兆円へと5.8倍もマネタリーベースが増加した。ここで考えておくべきは、国民の給与ベースだ。2008年度の日本の平均年収は430万円だった。そして2020度は436万円でほぼ横ばいと言って良い。国内外で流通する通貨量が5.8倍になったのに、国民の給与レベルは全く上がっていない。

 日本だけを見れば、デフレ景気が長期化してきたため、通貨量の増加が国民生活へほとんど影響を与えていないとしている。しかし、流通量が6倍近く上がったのだから、経済規模が同じく6倍に拡大したのでなければ自然と通貨価値が下落するはずである。物価はデフレ状況で労働単価は横ばい、だから実質賃金が低下しているわけではないとの結論は受け入れがたいのだ。

 問題なのは、規制緩和で大量に流通した通貨の多くが投資市場に注ぎ込まれてきたことだ。マクロ経済で考えれば、やはり労働単価は確実に目減りしていると考えざるを得ないだろう。

 具体的なデータがないため、ここは感情論の範囲にとどめておくが、円のマネタリーベースが10年間で5.8倍になったため、今の1万円は当時の1818円の価値しかないことになる。労働単価が下落する経済にあって、国民は今後の生活に苦境を見るリスクがあるのだ。

 コロナ渦を経験し、その後の経済回復で明らかに国際商品は価格を上昇させている。つまりは世界的なインフレ傾向が顕著だ。しかし給与水準はほぼ横ばいで、しかも失業率は依然高いままなのだ。

 そこで、マネタリーベースを大幅に底上げしている投資市場から利益を得るのは、合理的な考えではないだろうか。溢れんばかりに溜り、よどんでいる資金を確実に資産運用で獲得していくのだ。決してギャンブルをするのではなく、ローリスクな資産運用で年利数パーセントの利ザヤを勝ち取っていくのだ。なぜなら、投資市場に溜め込まれたマネーという水は、実際に誰でも手を突っ込んで自由に摂って良いマネーなのだからだ。(記事:TO・記事一覧を見る

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